その日最後のコマを終えて、出欠とカリキュラムの進捗状況を記入した。連絡なしの欠席者をリストアップして別にまとめ、いちばん奥の席で偉そうにふんぞり返っている教務課長代理を眺めた。
――まだやってる。
確か3年生のはず……。面識はあるが話したことはない。同じ大学に通うバイト講師がさっきからネチネチ嫌味を言われていた。夕実が卒業した高校で学年主任をしていた平野先生は、夏休みはとっくに終わっているはずなのに、相変わらず塾に顔を見せていた。おまけに、いつの間にか課長代理に収まっていた……。公務員が堂々とバイトしてよいのか、腑には落ちなかったが興味もなかった。
ようやく終わったらしい。夕実は課長代理が空いた隙を狙って日報を提出し、認印をもらった。幸いなことに、いまのところ夕実は不快な目には遭っていなかった。面識があるからだろうか。むしろ、平野は異様に好意的で薄気味が悪いくらいだった。
わざとゆっくりロッカールームで時間を潰し、買ったばかりのシャツブラウスにジャケットを羽織った。化粧をしているわけでもないのにパウダールームでいつになく念入りに鏡を眺め、手串で髪を撫で付けた。最後に思い直して、まだ一度も使っていない口紅を薄く引いた。
ふぅ。
胸元のボタンを一つ開けると首筋に空気が通って、肩から張り詰めていたものが抜けていくと同時に、新たな緊張が押し寄せた。
静かな夜だった。
久野夕実は鏡に映った左右反転した時計を見てバッグを肩に掛けた。
空気が乾燥しているのだろう。陰気な照明に照らされた殺風景な廊下に靴音がやけに響いた。
半分の期待と半分の恐れ。
廊下の突き当たりを曲がると、通用口のガラスドアに寄り掛かっていた佐々川雅明がいつものように顔を上げた。
********************************************
夕実は足元を見詰めたまま、並んで歩き出した。
夜の街はまだ眩い照明と喧騒に満ちていたが、二人の間には沈黙が横たわっていた。
駅へ向かういつものルートを少し外れ、ビルの谷間の緑地に入った。少し遠回りにはなるが車の騒音からは解放された。昼間なら色とりどりの石で舗装されたプロムナードも青白い人工光にモノトーンに沈んで見えた。
規則的に反復されていた靴音が止まった。
その静寂に吸い付くように夕実の足も小さな一枚の舗石の上でぴったりと揃えられた。
「3日間、頼まれてバイトして食事しただけってわけじゃないよね……」
穏やかで素っ気ない声が降りかかってきたが、夕実は顔を上げることもできなかった。
「……なるほど…」
佐々川は微かに笑って俯いたままの夕実にあらゆる感情を排した透明な視線を注いだ。
「怒ってる…よね」
消え入りそうな声がひんやりと乾いた夜気に僅かな湿り気を与えた。
その言葉に後押しされるように、二人はゆったりとした歩調で木陰を縫うように曲がりくねった小道に入り込んだ。昼間は中心街のオフィスで働くOLたちが思い思いに陣取ってコンビニ弁当を広げている道沿いのベンチは、既に親密に寄り添ったカップル達の黒い影に占有されていた。
街区の中央辺り、覆いかぶさるような超高層ビルが光と影を落とした広場に小さな池と噴水があった。オレンジ色の照明に勢いなく噴き上がった季節外れの水柱がしょぼしょぼと揺れた。
水面に映った照明が傍らで足元を見詰めている夕実の顔をゆらゆらと染め上げた。
「まぁ、オレたちの…本人達は至って真剣なつもりだけど、たぶん20年後には笑い話になっているかもしれない他愛のなさに満ち満ちたゴッコと違って、囚われたら逃れられないような抗し難い魅力があるのかな」
「自分でも怖いと思うのだけど、引き摺られて……忘れられなくて…気が付くと探している」
「傍から見ていると、無理やり咲かされた花を見ているようで…辛いな」
「そう……かな。わたしも自分で自分が信じられない」
ようやく顔を上げた夕実が薄く自嘲気味に笑った。
「引き戻すには力不足のようだから……、オレは夕実ちゃんが怖くなって振り向いたときに、そこに居てあげるくらいしかできないのかな」
光を湛えていた夕実の黒目が睫毛の陰になって沈んだ。
佐々川は柔らかい髪が無造作に掛かった額にそっと手を触れた。びくりと怯えたように夕実の睫毛が震えたが、目は伏せられたままだった。指先がしっとりとした頬を滑った。初めて見る黒いシャツから白く浮き上がった首筋を通り越して、上から三つ目の胸元を止める小さなボタンに引っ掛かって止まった。
電池が切れたように動かなくなった佐々川の指先を夕実の瞳が静かに眺めていた。
「寛にばれたらどうするの?」
「許して…くれないよね」
「こういうことは、一時期は誤魔化せても……いつかはばれるよ」
「わかってる」
「まぁ、あいつだって、あけみちゃんはともかくとしても、西田や果歩ちゃんとヨロシクやってるわけだから…エラソーなことは言えない筈だけど」
「そう……。啓子も…。啓子はわたしが訊いてもはぐらかしてばっかりで、絶対答えないから」
「あいつは誰が訊いても肝心なことは答えないよ。だから、あくまでも勘だけど……一度だけあの二人が目配せしたことがあって…別の機会にそれを話のネタにしたら、西田にしては珍しく慌ててワンショットバーで一杯奢ってくれたから、なんにもないってことはないのかなぐらいの意味だけど。いや、まぁ、それ自体ミスリードっていう可能性もあるか。付き合いも古いしね、あの二人」
夕実の右手が静かに持ち上がって、親指と人差し指が器用に動いた。
佐々川のボタンに引っ掛かった指先がすとんと一段落ちた。
もう一度同じ動作が繰り返されて、薄闇に夕実の真っ白な胸元が広がった。
「手も繋いでくれないから……。わたしのこと嫌いになったでしょ…」
白いブラジャーに包まれた膨らみが震えるように揺れた。
「嫌いになれるなら、そんなに楽なことはない」
温かさと湿り気。すべすべの肌と盛り上がる肉の感触。
夕実が右手を背に這わせ、自ら胸を締め付けていたブラジャーのホックを摘み上げた。
カップの内側に差し入れた指先が自由に動くようになった。
乳房より一段と柔らかな乳暈を指先で捏ねるまでもなく、すぐに乳首が固く尖って屹立した。緩んだカップの内側に手を滑り込ませ、固く豊かに息づいた夕実の乳房全体を捏ねるように握った。
「こんなこと平気でする女なのに?」
挑むような瞳が街の明かりにきらきらと輝いた。
「あの夕実ちゃんが自分からこんなことするなんて…ドキドキするほど魅力的だよ」
ブラジャーのストラップを肩から落とすようにずらすと、共同作業を引き継ぐように器用に腕を縮めた夕実がジャケットから腕を引き抜いて、肘から伸縮する紐を抜き去った。左腕が同じ動きを繰り返し、丁寧に二つ折りにされた、まだ温かい布地が佐々川の手の平に載せられた。
「在庫がなくて困ってたんだ」
初めて正面から目を合わせた夕実が恥ずかしそうに小さく歯を見せて笑った。
「下もいる?」
目で答え、夕実の華奢な肩にかかったバッグを持ってやると、彼女はさっと辺りを見回した。
近くに人影がないことを確認すると、夕実は手早くスカートの裾に両手を入れて下着を引き降ろした。片足ずつ靴を脱いで、白い輪になったショーツが器用に足首から抜き取られた。
「朝からずっと穿いてて……臭いから臭いを嗅がないで」
握り締めた手が重ねられて、まだ熱く湿った小さな布地が佐々川の手の平に押し付けられた。顔に近づけなくても甘酸っぱい夕実の匂いが透き通る秋の大気にひときわ艶めかしく花やいだ。
「借りてるのが多くなると困らない? 今度一緒に、夕実ちゃんの下着を買いに行こう。そろそろバイト代も入ることだし、一揃い。それに…ブラジャーのサイズがばらばらだけど、ちゃんと測って貰ったことある? 前から気になってたんだ」
短い髪がさらりと横に流れた。
「前、母にも言われたけど……今更測りにいくなんて、なんか、恥ずかしいじゃない」
「ブラジャーが合わないと姿勢が悪くなるし、締め付けが強過ぎたり、無理が重なると身体にも良くないんだよ」
「どうしてそんなこと知ってるの? したことないくせに」
「外すといつもホッとした感じがするからね。だから、どこか…ちゃんとしたお店に行って、この子今まで恥ずかしがって測ってもらったことがなくて、身体に合っていないものを着けているから、これを機会に一度きちんとしたものにして欲しいんですけどって言ってみたいの」
「嬉しいけど、照れちゃうじゃない。それに…わたしのために……そんな無駄なお金を使ったらだめだって」
「無駄じゃないさ。あれは…あのこけしは全部欲しいくらいだった。独り占めにしたかった」
佐々川の脳裏に屈辱感が甦った。
「本当は……、この…心と躰を独り占めにしたい」
くるりと夕実の躰を廻し、背後から抱きしめるように躰を寄り掛かからせた。
自由になった両手をシャツの内に差し入れて、思う存分夕実の乳房を弄ることができた。
佐々川は両手の平に圧倒的な弾力を感じながら、吸いつくように滑らかな乳房をゆったりと或いは性急に、強弱の抑揚を付けながら執拗に揉みあげた。
「…好きな人に躰を求められるのは、恥ずかしいけれど凄く嬉しい。女に生まれてよかったと思う」
夕実の背が伸び上がり、無邪気であどけない顔が目の前に迫った。
「でも…わたしは相応しくないよ」
固い弾力で震える乳房を握ったまま、上を向いた口に唇を押し付けた。
久しぶりのキス。
舌を歯の間に割り込ませると生温かい舌先が絡み合って、ようやく夕実が吸い返してきた。
「最初に付き合ったのが佐々川君だったら……たぶん今も…その先もずっと付き合っていただろうね」
あまりにも優しくて切ない笑顔が目の前にあった。

その言葉が脳裏に染み渡ると同時に、激烈なマイナスの感情が突き上げた。
――遅すぎた、ということか。なにもかも。
わかっていたはずの事実を改めて目の前に突きつけられると、後頭部が軋んだ。
残酷な気持ちが躰の芯を突き上げた。
木陰から乾いた足音が近づくのに合わせて、夕実のスカートを捲り上げた。
気付いた夕実がその方向にさっと目をやった。
その場の状況を理解して身を捩った夕実が胸に顔を埋め、剥き出しになった尻が降り注ぐ人工の光に白く輝いた。
その滑らかで丸い尻を佐々川の両手が鷲掴みにすると、柔らかい肌に10本の指が食い込んだ。
「わたしのお尻……掴まれてるところ他所の人に見られちゃう」
夕実はおろおろと困惑の眼差しを向けてきたが彼女の懇願を受け入れるつもりはなかった。
「この尻を見たら、男はみんな黙って唾を呑み込むな」
佐々川は二つの丸みを左右に引きちぎるように広げた。
強くしがみついてきた夕実は息を呑んで、むずかるように胸に顔を埋めた。
背後で甲高いヒールの音が一瞬乱れ、再び歩き出した。似たような若いカップル。女の腰に手を廻していた男が剥き出しになった夕実の尻に気付いた。首を曲げて晒しものになっている尻をしげしげと眺めると、自然と歩調が弱まった。
男の視線に合わせて限界までスカートをたくし上げると、細いウエストとその下のふくよかに張り切った腰の対比がいっそう露わになった。
女が組んでいた男の腕を強く引いた。
「なに見てんのよ…。信じられない」
侮蔑の混じった女の声が通りすがりに聞こえた。
夕実は小刻みに震えていたが抗いもせず、非難の言葉も発しなかった。
遠ざかる足音に尻を掴んでいた手を滑らせて、谷間からその源流を目指すとすぐに熱い流れに指先が溺れた。
********************************************
ドアに向かって立たせ腰を抱くように引き寄せた。
その夜の夕実は地下鉄の中で膨らんだ胸元に手を這わせてもまったく抗わなかった。
そ知らぬふりをしながらジャケットを掻き分けて、はだけられたシャツの合わせ目から右手を差し入れた。むっちりとした乳房を揉みながら、ときおりこりこりに尖った鮮やかな乳首を摘み上げた。甘酸っぱい夕実の匂いが真新しい車両の無機的な匂いに際立った。
思惑を見透かされたように、改札を出ても夕実は自然に寄り添って、腕を組んできた。
帰るべき家とは逆方向。
「ちょっと……買い物」
言い訳するような笑顔が秋の夜の透明な空気にひっそりと輝いた。
夜の9時。
飲食店以外の商店はほとんど閉まっているから、スーパーの奥へ続く商店街は既に閑散として、白っぽい舗装が白々しい照明にぼんやりと照らし出されていた。
夕実の腕に引かれるままにスーパーの店内に入った。
昼間よりも人が多い。
ここの営業時間が延びてから、店の売上げが落ちているのが当たり前のように実感できた。夜だというのに何故かレジには長蛇の列ができている。
「何買うの?」
「生理用品なの」
夕実はちょっとだけ迷ったが、誠実に答えた。
大きな瞳は困惑したようにレジの行列に向けられていた。
「ちょっと先にディスカウントのドラッグストアがなかったっけ? けっこう遅くまでやっていた気がするけれど」
飲み屋とファスト・フードの狭間に色とりどりの細かい商品が溢れていた。
処方箋薬局と小さく書かれたプレートはエステの看板と原色のシャンプーの容器の山に埋もれていた。
圧倒的な商品の量に比べ、人影がなく、がらんとした店内。夕方通り掛かるとムクドリの大群のように女子高生が群がっているのが嘘のようにひんやりとした空気が漂っていた。
壁いっぱいに氾濫する色彩から夕実はすんなりと目的のものを見つけ出した。
夕実は背伸びして棚に手を伸ばした。
「どれ?」
夕実の手が目指したものを先に指先で掴んだ。
「これ?」
「うん。ありがとう」
同じメーカーのパッケージでも微妙に表示が違う。
「ふうん。ずいぶん種類があるんだな……。個数が違うのにみんな値段は同じなの?」
「ああ…。それは…だから、大きなのは数が少なくて、小さくて薄いのはたくさん入ってるの」
「ああ、なるほど。夜用ってのは大きいから数が少ないのか」
「そうそう。おしめみたいにごついの」
「羽根付ってのは? 飛ばすの?」
「まさか」
夕実がケラケラと笑った。
「横に広がった部分があって……動いても漏れ難くなってるの」
「……なるほど」
佐々川は似たような商品が所狭しと並べられている周囲に目を走らせた。
「こういうのは使わないの?」
手に取ったパッケージを目にすると夕実の顔がぽっと染まって、首をぶんぶん振った。
「それは苦手。昔、一回だけ使って…なんか上手く入らなくてダメみたい」
「ふ〜ん。もっと大きなものは余裕で入るのに」
ほんのり染まっていた夕実の目尻が真っ赤になって俯いた。
佐々川は、ふと視線を感じて店の奥のレジを眺めた。
白衣の男。店番の…薬剤師か。熱っぽい、じっとりとした目線。
目線の先は佐々川ではなく……隣で頬を染めている夕実だった。
いぶかしむ佐々川の視線に気付いて、……白衣が揺れて、慌てたように男の目線が逸れた。
俯いて余計目立つ薄くなった頭頂部…広がりつつある額、浅黒い肌……胴回りが存在感を主張し始めた中年の体つき……。
ああ。――あの男じゃないか。
まだ暑かった月頭、初めて夕実を抱いた日にカフェで隣に座った……。その目の前で、見せ付けてやったあのスケベ男か。思わず声を出して笑いそうになって、佐々川はこらえた。
「どうしたの?」
「ん? いや…。やっぱり生ものがいいのかな? 指とか舌とか…陰茎とか」
夕実の指先が腕をつねって小さく頷いた。
「そ、そりゃそうだけど……そんな風に一般名称で言わないで。誰のでもいいってわけじゃないんだから」
萎れた口調に思わず夕実の顔を覗き込んだ。
「そんな目で見ないで。3人の男と付き合ってるくせに、よく言うよって思ったでしょ。顔に書いてある。わたしみたいなのをヤリマンっていうの?」
真剣な目つき。悲しそうな声。急転した表情に驚いた。
「さぁ、人によりけりだろうけど、それはちょっと違うんじゃないかな。その方がまだ対処のしようがあるというか……、夕実ちゃんは情が深いから、それを自分でもコントロールしきれなくなった帰結なんだよな。自分に正直なのもそれに輪を掛けているし。おかげで見てるほうはハラハラし通しだよ……」
「啓子みたいに上手く人と付き合えればいいのに……」
「いや、まぁ、西田はあれはあれで問題だと思うけど……。あけみちゃんのジャジャ馬を飼い慣らす手綱捌きは見習ってもいいかも」
「それができてれば、あのままずっと寛と付き合ってたのかな……」
「まぁ、それができないところが夕実ちゃんのいいところだし、オレが惚れたところだからな。昔は尻軽女っていう表現があったけど、夕実ちゃん、尻は軽くはないよね。むしろ逆かな。物理的にも。背が高いってのもあるけど、理子より10kg、見た目だけどあけみちゃんより5、6kgは重いよ。夕実ちゃん、着痩せするしスレンダーだけど、付くべきところはむっちりだから。顔に跨られると窒息死しそう」
真っ赤になった夕実が腕を叩いて肩に顔を埋めた。
「もうしない。絶〜対しない。恥ずかしい。お尻大きくて気にしてるんだから、そんなにストレートに言わないで」
「逆、逆。そこが気に入ってるの。最高の女だよ。どうせ死ぬなら夕実ちゃんのお尻の肉で窒息死するのがいいかな。《願わくは尻の下にて秋死なん〜その長月の朔月のころ》ってさ」
「そんな歌詠んだら、西行に怒られちゃうんだから」
「西行だって…、藤原璋子(しょうしorたまこ)だっけ? 皇后とやっちゃって、それが忘れられなくて出家したんじゃなかったっけ? 生涯忘れられないのは同じだな」
黙ってしまった夕実の肩をそっと抱いた。
「お、これはもっと数が多くて安いじゃない」
手に取った同じような包装を夕実がちらりと眺めた。
「それは……生理のときじゃなくて…普段使うの。たぶん。わたしは使ったことない」
「オリモノとか多いとき?」
「そんなこと…よく知ってるね」
「そうでもないよ。知れば知るほど謎が深まる。確かに夕実ちゃんの芳醇なバルトリン腺液とスキニー腺液をこんなものに吸わせるのは勿体ないな」
首筋までピンク色に染めて、夕実は正確に言葉を理解していた。
「……しょうがないじゃない。自分の意志とは関係なく出てきちゃうんだから」
充実した夕実の腰に腕を廻して、何をされているのか夕実がはっきりと意識できるように、指先をゆっくりと緩慢に動かしてスカートの裾をたくし上げた。
「夕実ちゃんの裸が見たくなった」
夕実は盛んにレジの方向に目をやって気に掛けたが、最初から無駄な抵抗はしなかった。
「今日は…ダメって言わないんだね」
恨みがましい瞳が一瞬上目遣いになって伏せられた。
レジとは反対側の手の平で剥き出しになった豊満で吸いつくような尻を撫で回した。
スカートの内で澱んでいた空気は既に湿り気すら帯びていた。指先だけが勝手に進んで、ぬるりという感触と驚くような熱さに包まれた。
「とろとろだ」
夕実は俯いて唇を噛んだ。
「……困るよ…。我慢できなくなっちゃう」
「最初にこうなったのっていつ?」
「……小学生の終わりか中学に入ったころかな…。自転車乗ってて気が付いたら下着が濡れてて…最初は病気だと思った」
「病院行ったの?」
「まさか…。それからも何回か同じことがあって、母に訊こうかなとも思ったのだけど…訊いちゃいけないような気がして……。最初は不安だったけど、そのうち自分が気持ちよくてうっとりしてるのに気が付いたから、余計言えなくなった」
指先を前に滑らせると芽は既に固く屹立して熱い潤いに包まれていた。
「そのうち大人向けの本を読んでて、エッチなシーンで同じようなことが書かれていて…。ああ、これだって思って安心したの」
指が芽の根元を抉ると夕実が腰を震わせて、ハッと息を呑み込んだ。
「裸にしたいな」
大きく見開かれた夕実の黒目が濡れていた。
「…ここで?」
「買ってこようか?」
手に持ったパッケージを受け取ろうとすると夕実はその日初めて首を振って拒んだ。
「だめ……。自分で買うから……ここで待ってて」
ジャケットの胸元をかき合わせた夕実は背を向けてレジへ歩き出した。
佐々川はもちろんその背にぴったりとくっついた。

男は夕実を見なかった。品物をちらっと一瞥しただけで軽やかにレジが打たれた。
意外に手馴れた手捌きでパッケージが茶色い紙袋に包まれて、男は釣銭を数えた。
「…ありがとうございました」
流れるような動作とは正反対のもごもごと不明瞭な声。目を伏せたまま男は釣銭をトレイに置いた。
それを受け取ろうと夕実が手を差し出したとき――。
佐々川は素早く前に廻した指先で夕実のウエストを留めるボタンを外した。ジッパーは降ろしてあったから、重力に抵抗するものは何もなかった。
夕実の足元にスカートが丸い輪になって着地した。
すかさず背後からジャケットを下のシャツごと引き剥がすように剥くと、夕実の真っ白な両肩が蛍光灯の冷たい光に露わになった。胸元に残された数少ないボタンを手早く外したとき、ようやく夕実は状況を理解した。
「きゃ」
短い悲鳴が小さく喉から洩れたが、中途半端に脱がされた上着で両腕を背後で拘束されて、夕実は躰を捻ることもしゃがみ込むこともできなかった。
下着を着けていない上に、前を隠すこともできなかったから、夕実の全てが明るい照明の光に剥き出しになった。
中年オヤジの口がポカンと開いたまま、目が呆然と見開かれていた。
その目の前に夕実の固く膨らんだ乳房とむっちりと肉の付いた腰が晒されて、滑らかに収束する真っ白な下腹の終端で僅かな陰毛がぼんやりと煙っていた。
佐々川は無言のまま挑むように突き出された乳房をたっぷりと見せ付けるように握った。
夕実は男から顔を隠すように背け、佐々川の肩に顔を埋めた。
戒めのように躰の自由を奪っている背の腕を押すと、夕実の真っ白な躰が弓なりにしなった。あまりにも無防備な姿態はまるで捧げられた生贄のようだった。血走った男の目がその躰を舐めるように何度も往復した。
「足を少し開いて」
胸から下腹へ陰一つない肌を佐々川の手が滑り降りた。
きつく合わさった太腿をこじ開けるように指先がもぐりこんだ。
夕実の頭がイヤイヤをするように振られたが、佐々川は容赦しなかった。
持ち上げられた足がスカートの輪から外れると、心もちむっちりと肉の付いた太腿が左右に押し開いて、隠しようもなく恥骨が突き出た。疎らな陰毛が震える奥に鮮やかな陰裂がくっきりと姿を現した。
男の白衣の前がテントを張ったように持ち上がっていた。
佐々川の手が僅かな陰毛を毟るように掴み上げると、鮮やかなピンク色の粘膜がぬめりを湛えて淡く光った。指先がゆっくりとその襞にもぐりこみ、くちゅくちゅと淫猥な音を立てると、やがてねっとりとした滴りを塗りたくって窄めた手先が引き出された。
黒く塗られたカウンターの上でその指先が開かれると、指の隙間から洩れた夕実の体液が一筋の流れになってテラテラと光りながら滴った。丸い濡れ色が少しずつ大きくなった。
「良かったらどうぞ。おいしいですよ」
男は呆然と突っ立ったまま硬直していた。
「一発抜きますか?」
男の股間を見やった佐々川がからかい気味に声を掛けた。
男は慌てて前を押え、見開かれた目がカウンターに広がる濡れ色の染みと突き出された夕実の躰をせわしなく往復した。
「す、すいません。…も、もう閉店の時間なんです」
********************************************
その夜の夕実は最初から目の縁を赤く染め、鼻が膨らんだり閉じたりを繰り返し、額に汗を浮かべていた。切れ切れに搾り出される声も「うっ」とか「あっ」といったように短くて鋭くて切なそうだった。包まれる感触がいつもよりも強く、収縮と拡張を繰り返すざわめきが夕実の意識とは無関係に佐々川を蕩けさせた。
「いつもより気持ちいい?」
首を竪に振りながら夕実の細い指先が爪を立てて背中を掻き毟った。
「知らない人の前で裸にされて…あんな風にされたら……。わたし、もう、おかしくなっちゃうよ……」
そして、ちょっと前に絶対しないと語ったはずのポーズを惜しげもなく晒し、夕実は跨ってきた。鼻でクリトリスを擦りながら膣口を抉り、肛門に舌を突き刺すと太腿ががっしりと耳を挟んで圧迫が顔全体を覆い尽くした。柔らかでむっちりとたわんだ肉が顔に貼り付いて息ができなくなった。
『空の青 6−5』(続く)
作成日:2007/11/27 最終更新日:2007/11/27