《まるで、誘っているようじゃないか》
もう一人の自分が浮かれている自分をたしなめた。
脱いだ服はきちんと畳んで彼のベッドの上に、端っこをちょっと借りて置いた。
下着はちゃんと畳んだ服の下に押し込んだことを確認して、扉の影から首だけ出して寛を呼んだ。
「一応、着てみたけど」
キッチンで麦茶を作っていた寛が作業を中断してやって来た。
わたしは両腕で前を隠していたけれど、目を合わせられなかった。
色が白いせいか鏡に映った赤紫が思ったよりも鮮烈で派手に見えた。
「ぐるっと回って」
素直に一回転した。
「速過ぎてよくわからない」
わたしもそう思う。
だって、お尻のカットラインが大胆だし背中も剥き出しで照れてしまうからだ。
彼が近づいて、肩を両手で押さえられて身体の向きを変えられた。
「大胆過ぎない?」
「そんなことないよ」「想像通り」「いいじゃない」
クローゼットの姿見の前に立たされた。後ろに立った彼が伸びた髪を手でまとめてくれた。
「こんな感じ」「似合う」
肩回りがすっきりして余計色っぽい。
鏡の中に晒されている自分の肢体を肩越しに見ている彼の目と視線が合った。
後ろから廻った手がわたしの手を取ろうとする。
困ってしまってわたしは抵抗した。
「だめだって」
そう言いながらも手首を掴まれると腕から力が抜けてしまった。
「ん?」
身体を向き直されて、その目の前で彼が膝をついてしゃがんだ。
「あの、なんか、一本だけ変なとこに生えてて」
見つけられる前に言ってしまった。
不覚だった。
昨晩、お風呂に入ったときも、今朝、シャワーを浴びたときも、まったく気づかなかった。迂闊にも程がある。
人差し指の先に石鹸をつけて戻って来た彼が剃刀であっさりと剃ってしまった。
タオルで残った石鹸を拭き取られた。
剃った後の皮膚を彼の指が滑った。
「これでいい?」
そんなことを言われても答えようがない。
「お手入れしてないの?」「って、するほどなかったけか」
「だって、そんな必要ないから。それにこんなに大胆なの買うつもりなかったし」
「気に入らない?」
彼の顔が曇った。
そんなことはない。わたしに合わせて選んでくれたことも十分わかる。自分でもびっくりするほど女らしく似合っていると思う。たぶんそこらのプールでも行けば視線を浴びて、注目もされるだろう。彼が隣りにいなかったら声掛けられたりもするだろう。ただ、自分があまりにも女であることを目の当たりにして、身体の隅々まで見透かされているようで、わたしはなんとも気恥ずかしかった。
「似合ってると思うのだけど…その、恥かしくって」
「まぁ、元がいいから選ぶのは楽なんだな」
「元って?」
答えを期待して思わず言葉が出てしまった。
「よし、じゃあ、せっかくだからもう一つも着てみよっか」
逃げられた。
買ってもらったビキニが袋から取り出されて手渡された。
一応、彼の姿が見えなくなったことを確認して着替え始めた。
鏡に写った自分がいた。
水着のラインが身体の部分を強調している。
細い肩紐は外してくれと言わんばかりだし、胸のカップも小さくてどの位置を中心にすればいいのかわからない。
下も丈が浅くて、後ろを上げれば前がはみ出そうだし、前を上げるとお尻の割れ目が見えてしまう。おまけに前と後ろの三角形を横で繋ぐ部分が細いから、真横から見ると何も着ていないように腰から足が丸出しだった。
裸でいるより羞ずかしい。
慌てて背中を向けて振り向いて見る。
白いラインが斜めに走って、お尻の半分ほどがはみ出ている感じ。
ただでさえ大きなお尻が余計大きく見えるようで困ってしまう。
取り敢えずベッドに座って身体を両腕で抱えた。
《う〜む。この格好を見せるのか》
唸っているばかりでちっとも思考が先に進まなかった。
「お〜い」
と声がして寛が首を覗かせた。
「なんだ、着てるんじゃん」
腕を掴まれて立たされてしまうけれど、尚更顔が見れない。
鏡の前に引き摺られて彼の視線に晒された。
「裸よりも羞ずかしい」
「ん? きれいだね」「予想通り」
「困っちゃう。人には見せられない」
「そんなことないさ」
「そんなことあるよぅ」
「二人で海に行こう」
そう言わると、気持ちは既にその気になっている。
「もうちょっと上じゃないの?」
首の後ろの紐が緩められて少し引っ張られた。
「こんな感じ」「どう?」
鏡の中のわたしは女であることを最大限に強調されて目元を染めていた。
うわっ、と悲鳴が出そうなほど艶かしい。
「似、似合う? かな」
「あぁ」「自分で似合うって思うでしょ?」
わたしはこっくりと頷いた。
後ろに立った彼が黙ってわたしを見ている。
左手を後ろに回して彼の左手首を掴まえる。手前に引き出して顔に近づけた。
あのときの傷跡。長さは5cmくらい。引き攣れたように色が変わっていた。
「神経とか変じゃない?」「ちゃんと動く?」
「うん、もう完全に治ってるって」
彼が人差し指をひょこひょこおもちゃのように動かした。
「でも凄い傷跡、残っちゃって……」
後から後から記憶が溢れ出て胸が一杯になる。
「ごめんなさい。どうしたらいいの、わたし」
頬に傷跡を擦りつける、たまらなくなってキスした。
「もう気にするなって」
手を引かれて表側の部屋に出た。
南側だから窓の光が明るく眩しい。
「麦茶飲むでしょ?」
手渡された半透明の白いグラス。氷が音を立てて香ばしい薫りが立った。
「美味しい」
「明るいところで見たほうがずっときれいだね」
わたしは水着のままなのを思い出して羞恥心が甦った。
目を逸らそうと身体ごと横を向いた。
真横から寛に見据えられて、身体がきゅんと収縮して、頭が慌て始める。
寛が笑っている。
「のこのこ男のアパートに一人でくっついて来て」
手に持ったグラスを取り上げられて、テーブルに置かれた。
「おまけに水着に着替えたりして」
片手で後ろ手に両手を強く押えつけられた。
「その水着がとっても似合って、どうしようもなく女っぽくて、一度見たら目が離せなくなる女の子がいるのよ」
耳元で低い声で囁かれた。
「そんなに無防備だとおまえ、食べちゃうよ」

全身の血液が逆流した。
恥かしくて背を向けようとするけれど、手首を押さえられて動けない。
目と目が合って、その強い視線に射貫かれる。
身体が震えて始めて止まらない。
意識が半分弾け飛んで、頭が暴走を始めた。
「あのとき、もう会わないって言われて目の前、真っ暗になった」
「ごめん。ガキだったよね。恥かしい」
「でも、あたしはずっと寛が好きだし、寛としかしたことないし、寛じゃないと絶対嫌だし、だから、寛がわたしを嫌いでも、寛にそうされても大丈夫だし、ずっとそうして欲しいって思ってた」
「それは、ほんとなの。信じてね」
「だから、卒業式のとき話そうと思ったのに、いなくなっちゃうし」
「それで、だから、家に行ったら引っ越した後だし、どうしようもなくて」
椅子に座った寛に引き寄せられた。
「あぁ、そうだっけ。あの頃は一日も早くここから消えたかったから」
剥き出しの腰を抱き寄せられて寛の顔が脇腹に触れた。
「夕実の匂いがする」
「二度と会えないかと思った」
************************
白磁のような透明で滑らかな肌に唇を押付ける。
夕実の柔らかなカーブを描いた腹部が小刻みに震えていた。蛙のように剥き出しになった皮膚の柔らかさに鼻を埋めると、甘酸っぱい匂いが強くなる。
薄い緑色の血管が透けて見えた。
筋肉の硬さと無駄のないかたちに見惚れながら唇をあちこちにさまよわせる。
V字に切れ込んだ肋骨の線から柔らかい中央を下がれば、小さく縦に割れた臍があった。そのまま通り越して吸いつくような感触を愉しむ。水着のライン沿いに手前に動けば足のつけ根が窪んで陰を作り、盛り上がった側面に白い布地が食い込んでいた。
腰の山を通り越して背に廻ると、肉が一気に柔らかさを増して吸い付いた。
手を押さえつけたまま、夕実の躰を回転させる。
抵抗もなく背が露わになると盛り上がった尻の割れ目が僅かに見えていた。
二つのえくぼに交互にそっと触れる。
舌先を割れ目に押し込む。
そのまま背中を駆け上がると夕実の口から微かな喘ぎが漏れた。
手を解放して180度向きを変えた。
身を捩ろうとする夕実の腰を両手で押さえると、真正面に夕実の臍が見えた。
今度はその陰に舌先を捻じ込む。つんつんと弾くように真っ直ぐ下に降りて、水着の境目から舌先を内側に潜り込ませる。
夕実の両手が頭に添えられて、押さえつけられた。
かまわずに舌先で陰毛の感触を味わう。抉り出して飛び出した陰毛を歯で引っ張る。
少しでも露出が多くなるように口だけで水着を押し下げる。
「待って、待って」
「だって、でも、そんなことされたらすぐ汚れちゃうから」
夕実が腰に手を廻して水着の下を降ろした。
目の前の白い肌に薄く縮れた陰が現れた。
迷うことなくその陰に埋もれ、草の根元を襲う。
申し訳ばかりに薄く煙っている陰毛を歯で挟んで引っ張り上げる。
咥えたまま僅かに左右に引っ張り、捩り上げる。
汗とは違う夕実の匂いが鼻先をくすぐって、視界の底が薄紅色に割れて光った。
「待って」
声のトーンが別人のように柔らかく掠れた。
腰が引かれて、夕実が足から水着を抜きとって椅子の上に置いた。そのまま首の後ろに手を回して結び目を強く引いた。蝶が跳ねるように水着が落ちて白く盛り上がった乳房が露わになった。
下を向いた夕実の目が黒く濡れていた。
再び下腹に顔を埋めて、あまり隠すことには役に立っていない柔らかなクッションの感触を愉しんだ。脚の付け根まで来るともうほとんど皮膚が剥き出しで、中央に縦に走る割れ目から溢れた液体が周囲を濡らして光っていた。
夕実はもう身を捩って躰を隠すことも身を縮めることもしなかった。
寛の髪にそのしなやかな指先を軽く埋めて何度か逡巡するように前後した。やがて髪から抜け出た指先が頬を伝い首筋を抱きかかえ、すっと動いた頭が少し上を向いた寛に近づいて口が合わさった。
目の前に丸く盛り上がった乳房が二つあった。
2年半ぶりに見る夕実の真っ白な乳房だった。膨らみは硬く垂直に突き出すように前を向いている。小さく薄く色づいた乳暈の中心にはつんと首をもたげた乳首が震えていた。
華奢な肩から締まったウエストに至る細身の躰にぴったりのバランスは清潔で美しいと思った。触れてはいけないような神々しさすら感じた。
夕実の手が首筋を滑り降りて腕をさすり、両の手首を掴まれた。
手首を強く握られて、その見事な乳房に引き寄せられる。
幽かな恥じらいの声が上から舞い降りてきた。
「食べて……」
『空の青 4−2』(続く)