空の青 7月(3)

椅子に座った寛の膝に素裸で横向きに座らされたことまでは憶えていた。溢れはじめた液体で彼の服が汚れてしまわないか気になったから。
でもそこから先の記憶はひどく曖昧だ。明るい光がゆっくりと薄暗く赤い残像を残して消えていった。闇に呑まれたわたしは重さがなくてふわふわと漂いながら、ときおり高速エレベーターに乗ったような上昇感と下降感に翻弄されていた。やがて花火のような光が周囲であがりはじめて、暗い闇が明るく突き抜けるような白さに呑み込まれた。
意志も意識もとうにどこかに置き忘れ、感覚だけがすべてだった。
もはや、わたしと呼べるものは何もなかった。
どこにもわたしはいなかった。

瞼が開いて、視覚細胞が受けた刺激が視神経を通してパルスとして飛んだ。
次に目覚めたとき、わたしは見慣れない天井の下で薄い毛布にくるまっていた。
しんと静まり返っている部屋。
急に不安が湧き上がってきて「寛?」と小さく呟いてみた。
遠雷のような低くくぐもるような音が通奏低音のように耳についた。
ときおり唸るように通過していく車の騒音。その基底音が近くを流れる広ノ川の奔流だとわかるのには少し時間がかかった。
同時に周囲の状況がぼんやりと意識を刺激してわたしは覚醒の過程にあった。
顔の上を夜の涼しい大気が撫でて渡り、薄緑色のカーテンの裏側で窓が少し開いていることに気付いた。
ゆっくりと身体を起こす。
ベッドの上。
昼間水着に着替えた寛の部屋。
脇に脱いだ服が畳まれたまま置かれていた。
照明の丸い灯り。
夜の匂い。

ぼんやりと部屋を見回すとベッドのすぐ頭にデジタル時計が淡く薄緑色に発光していた。
「21:40」
嘘! と思ってベッドの上に跳ね起きる。
毛布が落ちて自分が全裸なのに気付いた。
時計の脇に紙が一枚、ぺたりとテープで貼り付けられていた。
《バイトに行ってくる。10時過ぎには戻れると思うから送っていくよ。お腹減ったらオニギリ食べて。家にTELしておくように》

慌てて服の傍らに置いたバッグから携帯電話を取り出した。
誰にも邪魔されたくなかったから昼、食事のときにサイレントにして放り込んだままだ。
メールがいくつか。それは後回し。着信履歴に母から二回。
コール一回で母が出た。
お決まりの小言と言い訳の応酬。「食べないんだったら先に電話しなさいよ!」といわれてそりゃそうだと少ししょげた。

ホッとして後ろ手をついてギョッとした。
毛布が床にずり落ちてシーツが露わになった。わたしが寝ていた側と反対側に大きなバスタオルが敷かれている。ついた手がそのタオルをずらしていた。
冷たい。
エッと思ってタオルを剥いだ。大きく丸くシーツが濡れている。
まさか! びっくりして顔を近づけた。臭いはない。
窓側……。
抱きかかえられて運ばれて……わたしが最初寝てた側?
裸の股間に手をやって触れてみる。別に異常はない。
夜気に身体が震えて落ちた毛布を躰に巻きつけた。
どうしよう。わたしのせい? わたしの躰から出てきたの?
どうしよう。けっこう濡れてるどころじゃない。
おしっこ? 違うよね。臭いがないもの。でもどうしよう。
寛じゃないよね……。寛じゃない。そんなの聞いたことない。

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カンカンと鉄骨階段を駆け上る足音。ロックが回転する音。ドアが軋んだ。
黒い影が部屋にさして寛の顔が覗いた。
毛布を躰に巻きつけたまま馬鹿みたいに突っ立っているわたし。
リビングのテーブルの上とわたしを交互に見比べた寛が言った。
「食べなかったの?」

紙に書かれていたことをようやく思い出した。
「今、ちょっと前に起きたばっかり……」
なんだか滅茶苦茶気恥ずかしい。
「じゃ、おかずもちょっと作ろう」
わたしはキッチンに行きかけた彼の袖を引っ張った。
ベッドの脇で彼の胸に顔を埋める。
「これ……わたし?」
彼が毛布の上から肩を抱いてくれた。
「気にするなって。後で干しとくから」
「なんか……病気かな…」
「いっちゃった後に一気に噴出してきたって感じ」「見るの初めてだけど別に病気じゃないんじゃない?」
やっぱりわたしだ。
2年半ぶりに抱かれて死ぬほど気持ちよかったのは事実。
意識が跳びまくって半狂乱だったかもしれない……。
おまけに喉が掠れて声が変だ。多分、声を上げ続けたからだ。
そして、とどめは“潮吹き”? っていうのだろうか。
そんなの本の上の法螺話かと思っていた。恥ずかし過ぎる。
どうしよう。布団思いっきり濡らしちゃって。
「躰? どっか変?」
寛は心配してわたしの顔を覗き込んでくれる。恥ずかしくて目が合わせられない。
「ごめんなさい」「わたし洗うから……」
「いいって。気にしない。気にしない」「躰、おかしいとこある?」
慌てて首を振って彼に強く抱きついた。

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簡単だけど…と蕪の味噌汁とキャベツと紫蘇の漬物を出してもらった。
オニギリは鮭とオカカ。寛の手作りだから中身が一杯で零れ落ちそうだ。海苔もちゃんと、きっちりと巻かれていて風味がある。
「バイト先の残りもんだから、爺臭いものばかりだけど……」
おいしい。
毛布を躰に巻きつけたまま、一つの椅子に半分づつ座って彼との夜食。
胸が一杯になってしまう。
「家に電話した?」
こっくりと頷くわたし。
「飲みに出てるから遅くなるけど、送ってもらうって言ってある」
「お茶飲む?」
ぬるめのお湯で蒸された急須から煎茶が器に注がれた。
立ち上る香りと鮮烈な緑が黒い茶碗に映えた。
「いい匂い。甘くて渋くて美味しい。どこのお茶?」
「これは宇治茶。茎茶だからそんなに高くはないけど仕送りから差っぴかれた。ここ、水がいいからお茶にはいいよね」
「器は知ってる。織部黒でしょ。なんでこんなの使ってるの? このあいだは白磁だし。本物? 落としたらどうすんの?」
「え? まさか。家から掠めてきたの。死んだ婆ちゃんにもらったの。婆ちゃん美濃の人だったらしいから。伝世っていうの? 飾ってあったのさ。でも、ちょっと欠けてるし書付があるわけじゃないし。器なんだから使わなきゃ意味がない」
「織部だったら桃山でしょ。中世じゃない。500年も前? 気が遠くなりそう……」
「本物ならねぇ」
手に伝わる暖かい歪んだ黒の感触を楽しみながら彼にそっと寄り掛かる。
豊かでかけがいのない時間がゆっくりと流れていた。止めてしまえないことが少し悲しかった。取り留めのない昔の記憶が泡のように湧き上がってはじけて消えた。涼しい夜気が表から裏へ部屋を渡っていた。

さっさとテーブルの上を片付ける寛をぼんやりと見ているわたし。
ハッと気がついて、慌てて立ち上がって自分の食器を運んだ。
取って返して手伝おうとしたけれど寛に押し止められた。
食器が流しに持って行かれてしまうと無骨でやたらと頑丈そうな漆黒のテーブルが目の前に広がった。通り抜ける風にほんのりと漂う甘い香り。
昼間は気が付かなかったが、食器棚の幅の狭い白いカウンターにステンレスのボールが置かれていた。一歩近づいて覗き込む。透明な水に氷とともに小ぶりな桃が三つ無造作に放り込まれていた。
薄白い肌と薄紅色に染まりかかった頂部。青黒い金属に氷が揺らめいて白とピンクの丸い角のない塊が半分浮いて半分沈んでいた。
わたしの視線を追った寛が応えた。
「まだぬるいかな…冷やそうと思って……」
手を入れて水を掻き混ぜる。冷たい。
光沢のある黒、滑らかな白、ほんのりと染まったピンク。
無意識に色彩が脳裏をうごめいて、躰の隅々にしっとりとして甘酸っぱい桃の匂いが染み込んでいった。

「シャワー浴びた?」
首を振る。目を瞑った黒よりも濃い黒。
桃を一つ手にとってその芳香を確かめるように顔に近づけた。
「お腹に出しちゃったから、一応ティッシュで拭いといたけど……」
隣の椅子に座りながら寛がちょっと困ったような顔をしていた。
唇に触れた桃は小さくて少し硬くて冷たかった。表面を覆う濡れた産毛の感触が柔らかい。
冷えた塊を頬に当てたまま俯いた。毛布の合せ目の奥に盛り上がった自分の胸の白い肌が続いていた。
中にしても平気だったのに……。思いっきり悔しさが込み上げた。
白のずっと奥のピンク色。その中にして欲しかったのに。たくさん、たくさん。
「一応訊いたんだけど」
そ、そう。全然記憶になかった。

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挿絵3

『空の青 7月(3)』

突然、踵を返した夕実が隣の部屋に消えた。
すぐに戻ってきた夕実はもう毛布を巻きつけていなかった。
素裸の白い躰に解き放った髪の黒だけが柔らかく揺れていた。
碗を伏せたように盛り上がった乳房を隠しもせずに、幽かに煙る陰毛の下の桃色に割れた性器を覆いもせずに真っ直ぐに歩み寄ってきた。
すっと伸びきった左手の細長い指の隙間から薄紅色の桃の肌が覗いていた。
夕実は寛の目の前にその見事な肢体を晒したまま、テーブルと寛の間にすべるように躰を割り込ませた。
テーブルに寄り掛かった夕実がお尻を軽く持ち上げて、後ろ手をついたまま躰を持ち上げた。漆黒のテーブルに白い肌が輝いて、明るい蛍光灯の下に影が滲んだ。
夕実はまな板の上の鯉になった。
桃を滑らかに光る白い腹の上にぽつんと置いて、伸びやかな躰が食べてと言わんばかりに寛の目の前に晒された。両腕が頭の上に高く伸びて、滑らかで無防備な腋が明るい照明の下に晒された。少しだけ広がった太腿の合せ目で、生硬く盛り上がった恥骨を隠すことすらできないほんの僅かの陰毛が透明に薄く色づいて光を吸収していた。
夕実は一言も喋らずに、髪が黒の背景に溶け込んで流れた。白い小さな顔に見開いた濡れた瞳だけが寛を見詰めてその意志を語っていた。

寛は見ているだけで気が狂いそうになった。
あの日と同じだ。あのときと同じだった。
3年前。痴漢にあって泣いていた夕実と海岸でサボって、それから一週間も経っていない初夏のような日だった。

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午後のホームルームを終えて職員室に戻っていく松崎の喪服のような地味な後姿を眺めながら、寛は夕実の真意を計りかねていた。

放課後の特別教室棟はひんやりとした空気と微かな薬品臭が漂っていた。
クラブ活動に使われている下の階を避けて寛と夕実は4階に上がった。廊下の両側に物理と化学の実験室が準備室を挟んで二つずつ並んでいた。なんとなく水が使えるほうがいいだろうと思っただけで他意はなかった。人気のない廊下を隣に並んで着いて来る夕実を横目で眺めながら、寛はまた不思議な思いに囚われていた。

その日の昼、裏山で夕実が初めて作ってきた弁当を食べながら彼女が言った言葉を反芻していた。
もちろん、そんなことを言われたのは初めてだったし、よりによって夕実のような女の子の口から出る言葉としては予想もしなかった。
「えっと、どうすればいいのかな?」
間が持たなくて、つい間抜けな言葉をかけてしまった。
がらんとした薄暗い実験室の奥でカーテンを少し開けると日が長い初夏の光が筋のように実験台を照らした。
「誰も来ないかな?」
「うん。授業サボって寝ていて、寝過ごして夜になったこともあったけど、誰も起こしてくれなかった」
夕実がけらけら笑った。とっても機嫌が良さそうで寛は変に安心した。
厚手の遮光カーテンが翻ってその背後に夕実が隠れた。

出てきた夕実を見て寛は呆気にとられた。
夕実は何も着ていなかった。
そして、大胆に、なんの躊躇いもなく腕に抱えた制服を実験台の角椅子に載せると、白くてすべすべした硬質プラスチックの実験台にお尻を乗せて寛に向き直った。
唖然として声も出せない寛を見詰めたまま、その目の前で躰を倒し仰向けに横たわった。
白い机面に黒い髪が丸く広がった。
「これでできそう?」

寛の目は夕実の白い躰にくぎ付けになった。頭の半分は興奮して猛り狂い、半分は不思議な落胆に染まっていた。小さな顔と細い顎、二つの乳房は真上を向いて盛り上がり、滑らかに締まったウエストと豊かに広がった腰、ほんの僅かの恥毛が躰の中心を飾っていた。寛は押さえつけて滅茶苦茶にしてやりたい欲望と、何の恥ずかしげもなく自ら服を脱いで男を誘っているようにしか見えない夕実の姿に混乱した。
元はといえば、精液が栗の花の匂いか否か? からはじまったはずだ。
確かに寛の躰は既に押えられないほど膨張していたし、瞬きもできないほど意識が一点に集中していた。頭が思考を拒否して着ていたトレーナーを脱ぎ捨てた。
スウェットの下をトランクスごと脱ぎ降ろすと夕実の目がびっくりしたように見開かれた。
そんなことにはかまっていられない。両手で盛り上がった真っ白な乳房を掴み上げた。
それでも夕実は目を閉じずに寛を見上げていた。
不意に残酷で捨て鉢な感情が寛を貫いた。

寛は実験台に乗り上がると、横臥している夕実の膝を掴んで大きく左右に広げた。
自らの威きり立ったものを薄く色付いた陰唇の中央にあてがって捻じ込んだ。夕実の中はきつくて狭かったが迷わず突き進む。先端が壁にぶつかると足を抱えて腰を動かしはじめた。強く押し込んで勢いで前後にスライドさせる。滅茶苦茶に突きまくって、夕実の躰に消えることのない刻印を残してやりたいと思った。

夕実は声も出さず目も瞑らずに透き通るような表情でただ寛を見上げていた。
寛の乱暴な動きにつれてときおり眉を顰め顔を歪めたが、寛はかまわず乳房を掴み上げ乳首を噛んだ。
夕実のなかで暴れ、音を立てて打ち付けているものが熱く溶けそうな感触に浸される。5分もしないうちに耐え切れない快感が突き上がった。限界点に達した瞬間、夕実の体内から引き抜くと同時に射精した。夕実の真っ白な胸と腹が迸る精液で汚れた。
強烈な放出感に躰がわなないて痙攣した。頭頂部がつんと引き攣るように軋んだ。
息が荒い。やっとのことで目を開くとのしかかった躰の下で夕実が指先で精液をすくっていた。
指にとった粘液を真剣な表情で顔に近づけて匂いを嗅いでいた。そのまま唇に指をつけて恥ずかしそうに目を逸らした。
同じことを二度繰り返し、寛を見上げた。
「ほんとだ。栗の花……」「ちょっとしょっぱい」

寛は複雑な心境で裸の夕実を見下ろしていた。
キスしたその日に躰を触らせた女は一週間もしないうちに自ら全裸になった。あんなに堅くて真面目そうで……、寛は予想外の展開に驚いて、自分の見込みの甘さに自嘲した。
ティッシュを取り出して、可愛い臍にたまった精液を拭いてやろうと思ったとき、それに気が付いた。白く濁った液体の中の一本の赤い糸。周囲が僅かにピンク色に滲んでいた。
指先で摘もうとしたけれど糸は溶けて広がった。
え? っと思って夕実の広げられた股間を覗き込んだ。
白い実験台の上に小さな赤い斑点が一つ。午後の陽に白く照らされて赤が鮮烈に輝いた。

「ご、ごめん」
「どうして謝るの?」
詠うような声が精液に濡れた唇から聞こえた。
「え? だって、あの、乱暴だったかなって……痛くなかった?」
わけのわからない感動が躰の奥底から突き上げてきて、夕実にのしかかって強く抱きしめた。唇を探し当てて滅茶苦茶にキスをした。
応えるように夕実の腕が背中に廻されて強く寛を抱きかかえた。
「痛くて悲鳴が出るかと思った」
「ごめん。もっとゆっくりすればよかった」
「でも、いいの。なんか嬉しい……」
「自分から服脱いだから、びっくりしちゃって、ごめん。誤解した」
「え〜、だってほら、ヌード写真とか見て興奮するんでしょ、男の人って…」「だからこうするのがいちばんかなって午後の授業中ずっと考えてたんだ……」
「いや、あの、本当は……いろいろ本読んだのだけど、手でするとか口でするとかって聞いたことはあるけど、実際どうすればいいのかよくわからなくて……、だって、具体的に書いてないじゃない?」
寛は一生懸命説明しようとする夕実がどうしようもなく可愛くて堪らなくなっていた。
「本て何読んだの?」
「え〜、カフカとか三島由紀夫とか。なるべくエッチなシーン探して読んだの。なんか恥ずかしいね」
あまりにも予想通りの答えに思わず寛は可笑しくなってしまう。
「そりゃ随分と想像力が必要そうだね」

「そうだなぁ、その路線ならバタイユとかいいよ。夕実ちゃんだったら。“マダム・エドワルダ”とか“眼球譚”とか」「ウ〜フとウ〜イユ」
「卵と目玉?」
「そう」「淫乱でいかれた娼婦こそが清純で神聖なるエロスの象徴なわけ」
「初版だか再版の挿絵はベルメールらしいし」
「そうなんだ。ベルメールってハンス・ベルメールでしょ?」
「禁断の実を食べるイブの心境だけど、貸して」

「いろいろ疑問があるの」「訊いてもいい?」
「抜くってなに?」
寛が噴き出した。しばらく声を出さずに苦しそうに笑った。
「写真とか見てね、素っ裸の巨乳女が胸を支えて媚びても抜けないけど、夕実ちゃんの制服姿なら抜けるって使うの」
「それじゃ答えになってない」
「ん? 要は射精に至れるかってこと。納得した?」
夕実の顔がほんのり染まった。
「あの、わたしの写真で抜いたことあるの?」
「あるよ。何回も」
夕実の顔が真っ赤になってしまう。
「そうなんだ……」
「不快?」
下を向いた頭が明確に左右に振られて否定の意思が示された。
「でもさ、誰が撮ったのか知らないけど下手な上に味も素っ気もないやつで、もっといくらでも可愛く撮れるだろうとか思うの」
「え? どういうの?」
「4月くらいの図書委員のやつじゃないかな?」
夕実が恥らって肩を寄せた。
「あぁ。わたし写真映り悪いのよね」
「こんど撮ってもいいよ。寛が欲しければ」
「わたしは抜ける女なの?」
「個人差も大きいし、多分に精神的な要素もあるから一概には言えないけれど、俺はそうかな」
「わたし見て興奮した?」
「うん。今まで見たモデルとかよりもずっと綺麗だと思う」
「そうだね。夕実ちゃんだったら、夕実ちゃんのだったら見てるだけで出しちゃう」
「へへ。なんか嬉しいね。そんな風に言われると……。わたし子供みたいで恥ずかしかったんだ」
寛は滑らかな腹とそこに続く僅かに盛り上がった下腹に手を伸ばした。指先にあるかないかの陰毛を絡み付ける。
「かわいいね。ずっと頬擦りしてたい」
寛の下で夕実の目がいたずらっぽく笑ってはじめて閉じた。

「口でするって、どうやるの?」
寛はいきなり夕実の膝を押し広げ、その中心に顔を埋めた。
舌先が小さく割れた陰唇にめり込んだ。
「ちが〜う。わたしじゃなくて……」
夕実の両手が寛の頭を押さえつけた。それでも、いちばん敏感な部分を舌先でつつかれはじめると腕の動きが明らかに変わって、髪に埋もれた指先がいと惜しむようにしなった。

「対象の形は違うけれど同じでしょ」
寛に両手を添えて頬張った夕実がおっかなびっくり口を動かした。
「小さくなっちゃったよ?」
「歯が当たって痛かったりすると小さくなるし、気持ちよければ大きくなるの。わかりやすいでしょ?」
夕実が再び口で先端を覆ってゆっくりと頭を前後に動かしはじめた。今度は舌も絡めて寛を包み込んだ。あっという間に寛の形が回復して夕実の口一杯に広がった。それを感じて無邪気に喜ぶ夕実の顔に赤い夕陽が差し込んで瞳が真紅に輝いた。
「見られるのは恥ずかしい」
そう言いながらも愛撫を止めない夕実を見て寛は心底美しいと思った。
「飲んでも平気?」
「それ自体に害はないと思うけど、美味しくはないと思うよ」
包み込む動きが一段と強くなって喉の奥にまで先端が呑みこまれる。溢れた唾液が口元を伝って真っ白な太腿に落ちた。ときおり上目遣いに寛の表情を見上げる。夕実の肩に置かれた寛の手が滑り降りて華奢な腕を掴んだ。
寛の動きももう止まらなかった。息が荒く夕実を見詰める視線が一段と強くなって、飛び跳ねるように背中が硬直した。
受け止める夕実の目が一瞬大きく見開かれて、閉じた。
寛を口に包んだまま腰を抱き寄せた。喉が僅かに動いて放出されたものが呑み込まれた。

「もう一回。もう一回」
「そんなにすぐには出来ないし、それなりに限界があるの」
小さくなり始めた寛を手に乗せた夕実がびっくりしたように見詰めている。
「うん? 普段はこんな感じね」
「おしっこもここから出るの?」「一緒に出ちゃったりしないの?」
「それは絶対ない。感覚が違うっていうか、役割が切り替わるの。高機能でしょ」
「見たい」
「へ?」
寛を見上げた夕実の目がきらきら輝いた。
「夕実ちゃんの見せてくれたら見せてあげよう」
夕実が顔を覆って俯いてしまった。
「じゃ、じゃぁ、今度ね」

******************************

あのときと同じ躰があられもなく目の前に晒されて寛を挑発していた。
応えるようにお腹に置かれた小さな桃を転がした。
濡れた桃が転がると白い肌に鮮やかなピンク色の残像が散った。桃を潰さない力は夕実の躰を僅かに凹ませながら登りはじめた。ころころと廻りながら、みぞおちを越え、胸の谷間を渡り首筋の深い谷に落ち込んだ。耳を掠め頬を舐めて口元に至る。夕実の唇が赤く開いて桃を吸い寄せた。
「剥こうか?」
唇を桃に這わせたまま夕実の目が閉じて開いた。

ぬるくなった桃を氷水に放り込んで、代わりに冷えた桃を二つ取り出した。
寛は一つを夕実の胸の谷間に載せて、もう一つの皮を手で剥きはじめた。空気にやるせない強い香りが漂って、夕実の躰が奮えた。
一つを剥き終えると夕実に載せた桃ととり替えた。
剥き終った二つ目の桃を夕実の口にあてがうと、唇の奥に小さな白い歯が開いて果汁が滴る桃に食い込んだ。
もう片方の手の平で胸の谷間の桃を転がした。夕実のつんと真上を向いた乳房がまるで転がる桃の行方を予期したかのように強く震えはじめた。既に谷間は滴る桃の果汁で薄く濡れて淡く光っていた。皮を剥かれても淡い紅色が残った桃が模様を変えながら転がりはじめた。真っ白な乳房をゆっくりと行きつ登りつ、浅く色付いた乳暈を覆い隠し、ピンク色に尖った乳首を潰し、腋に滑り降りて脇腹を下った。腰を再び這い登り下腹を擦る。僅かな陰毛と桃の濡れた果肉が擦れて悩ましい音を立てた。

その奮えそうな光景を目に焼き付けながら、寛はちょうど桃一つの大きさに広がった夕実の腿の間に濡れそぼる果肉を落とし込んだ。
桃に歯を立てている夕実の口の隙間から甲高く細い声が止めどもなく漏れだした。食いちぎった果肉が口の中に白く落ち込んで、生き物のような舌が桃を舐め廻していた。
もう、口の周りはべとべとに濡れて、溢れた果汁は小さな顎を濡らして首筋へ流れ、漆黒のテーブルに盛り上がった水溜りをつくっていた。

右手の指先で重力に加え、滑って底まで落ちそうになる桃を支えた。
力が加わった部分が果肉を凹ませて、冷たく粘度の高い果汁が溢れ指を濡らした。
夕実の腿が桃を迎え入れるように更に大きく広がった。右手で桃を支え、夕実の左右に割れた襞の中心に桃を丁寧に、精確にあてがった。
二種類の強い匂いが夏の夜気に広がって寛を包み込んだ。
ゆっくりと捻るように桃を押し付ける。夕実の果汁と桃の果汁が混じり合って温かさと冷たさが合わさった。下から抉るように桃で夕実の小さな突起を擦りつける。
左手の指先で夕実が詠いはじめた。
滑らかで、か細く、高い音色がはっきりと悩ましく部屋に流れ出した。

寛は右手の桃で拭うように大きく夕実を抉った。
手元に引き上げた桃を寛は舐めた。夕実の温かさと桃の冷たさ、微かな塩味と甘酸っぱい酸味が口の中で芳香と共に混じり合った。立てた歯が果肉を食い破り、溢れた果汁が喉から首筋を伝いはじめた。
口のなかに溢れる強い甘味。へたを持ってかじるように桃の側面の肉を削いでいく。まん丸だった球がいびつな楕円状に変形した。
寛は細長くなった桃を再び夕実にあてがった。
今度は襞の少し下のほう。僅かに廻すようにあてがうと夕実が待ち切れないように腰を浮かせて息を吸い込みながら膣口に飲み込んだ。長さの半分くらいが膣内に隠れ、半分ほどが薄紅色の陰唇を押し分けてはみ出ていた。
溢れ出た果汁と愛液で夕実の内腿はもうぬるぬるに濡れて、ときおり背中を反らす動きに合わせて尻の下まで広がった水溜りが淫らな音を立てていた。

へたを指先で掴んだ寛が桃を前後に動かすと、耐え切れなくなった夕実が躰を強く硬直させて痙攣した。立てた膝が信じられないくらい淫らに広がった。
テーブルの真上の明るく冷たい蛍光灯にその中心を影一つなく照らされて、夕実は喘ぎ詠いつづけていた。咥え込まれた桃をときおり引き抜いて、滴り落ちる果汁を音を立ててすすりながら、寛は桃を食った。夕実の匂いと味にまみれた桃の果肉を貪り食った。桃は段々と身を細め、硬さが増した。
芯だけが残った桃を寛が流しに放り棄てて、夕実が歯を立てていた桃を取り上げた。
そして再び丁寧にかたちを整えはじめた。
声を押えるものが取り除かれて、夕実の喘ぎが部屋一杯に広がった。目を大きく見開いて桃を食う寛を見ていた夕実の顔が切なく、艶めかしく歪んだ。

寛が指先で支えた桃が再びいびつに変形したとき、手を伸ばす寛を押し止めるように夕実の膝が閉じて躰がテーブル上で半回転した。そのまま肩幅よりも少し広くひろがった膝を支点に、背中をしなやかに反らせた。白い巨大な桃のような尻が突き上がるように持ち上がって、夕実の薄くピンクに色づいた女の部分が寛の目の前で甘い桃の匂いとともに左右に割れた。

真上を向いた小さく窄まった肛門の下に、桃で凌辱された夕実の膣口が雌しべのように複雑な薄いピンクの小さな襞に取り囲まれるように震えていた。突き上げるように尻を持ち上がると膣口が開き、躰が下がって力が加わると肛門と陰唇がきゅっと窄まった。いちばん尻が持ち上がったときを狙って、寛は桃を捻じ込んだ。夕実の歌がひときわ高く長く伸びた。
桃のへたを歯で噛んで、口を前後に動かした。強く、速く、頬がべたべたに濡れた夕実の柔らかな尻に当たって音を立てた。尻が突き上がるたびに目の前で肛門が妖しくかたちを変えた。その痺れるような光景を瞬きもせずに眺めながら、半分だけ陰唇から姿を現している桃を寛はかじった。溢れる夕実の粘液に濡れて強い甘味と酸味、塩味が入り混じった柔らかい繊維質を貪った。紅色の中心の白がどんどん小さく姿を変えていった。

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最後の桃を寛がゆっくりと時間をかけて丁寧に剥くあいだ、夕実は漆黒のテーブルの上で、白い尻を掲げたまま自らの粘液と汗と桃の果汁にまみれてのたうっていた。体中から桃と自らの匂いを放ちながら躰のすべてを露わに晒しながら悶えていた。テーブルに滴った果汁を頬で掻き集め、伸びた舌が器用にのたうって液体を唇の内に取り込んだ。

桃を剥き終えた寛がその尻を両腕で身動きできないようにがっしりと抱え込んだ。
わなないている性器と肛門に小馬鹿にするように息を吹きかけた。
苛立った夕実が突き上げるように尻を振り暴れさせた。
それを待っていた寛が口に入れて小さく噛み切った桃の果肉を舌先で夕実の肛門に押し込み始めた。
丁寧に、正確に、果肉を食いちぎり、舌先に乗せた白い果肉を肛門に落として捻じ込むように突き入れた。
舌の半分ぐらいが夕実の体内に消えて抉るように直腸を掻き混ぜた。
少しづつ、何度も何度もそれが繰り返されて、やがては三たび、滑らかな球だった桃が果肉を削がれ赤みを帯びた芯を露出した。待ち切れないように夕実がそれを寛の手から奪い取ると、寛の目の前で自らの性器に押し込んだ。へたを持って押し込んだまま、滅茶苦茶に掻き混ぜた。
高く柔らかい幽かな喘ぎと液体が擦れる音が部屋に充満して溢れた。
寛はその淫蕩な光景にじっくり顔を近づけ匂いと湿気を吸い込んで、顔を離して左右に広がった見事な尻と桃を咥えて離さない淫蕩な唇を、じっくり冷静に眺めた。
でもそれは長くは続けられなかった。
四つん這いで喘ぐ夕実の腕が後ろで眺めている寛を掴んだ。華奢な指と細い腕からは想像もつかないような力で寛を引き寄せた。引き摺られて寛が黒いテーブルに仰向けになると、夕実が寛の頭を狂おしく抱きかかえながら、自ら寛の顔の真上に跨って僅かな距離に股間を晒したまま、見せつけるように桃で自らを凌辱しはじめた。
泣き喚くような切ない声が降り注ぎ、愛液と果汁が寛の目に、鼻に滴った。
桃のへたに噛り付いた寛が押し込まれて滑らかな塊に成り果てた白桃を引き抜くと夕実の股間が寛の顔に押し付けられた。前後に揺するような動きが繰り返されて夕実が壊れた人形のように寛の上で仰け反った。
永遠に途切れることのないようなか細い声を上げながら白い裸身が反り返り、真上を向いた乳房がふるふると突き上がるように震えた。その下では完全に口と鼻を覆われた寛がそれでもまだ足りないかのように夕実の腰を両腕で締め付けて次の行為を促した。
白い尻の中心で小さく窄まっていた肛門が震えて、虚脱したように力が抜けて揺れる夕実の手の動きに合わせて交互に窄まり広がった。
最初に透明な液体がつぅっと溢れ出てピンク色の小さな窄まりを濡らしながら真下に流れ落ちた。次に小さな白い塊が耐え切れないように顔を覗かせた。やがて羞恥に震えながら桃の白く滑らかな果肉が九十九折になって真下に広がった寛の口に飲み込まれていった。

崩れ落ちた夕実がテーブルから転げ落ちそうになって慌てて腕で抱きとめた。目を開けたまま失神している夕実を腕の中に抱きかかえ、その柔らかな頬にそっとキスをした。
その清楚でありながら娼婦のように淫蕩な表情は今までも何度も寛を狂わせてきた。
腕に夕実の頭を乗せたまま、両膝を腕で抱え上げた。下半身を滑らすようにその下に潜り込ませる。まだ熱く潤っている陰唇を分け入って、完全に怒張したものをゆっくりと感触を楽しむように押し入れた。きつさと熱さがはじけた。意識はなくても夕実の躰の奥深いところを司る情動が寛を包み込んだ。膣が収縮と拡張を繰り返し寛を締め付けて奥へいざなった。
いちばん深い位置で突き当たりの硬さをほぐすように突いた。
ぴくんと腰が動いて膣の収縮が更に強くなり、周期が短く震えはじめた。強烈な快感が寛を包み込んで溶かしはじめる。目くるめく感覚が怒涛のように突き上げて、すぐに我慢が限界に達した。

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わたしは寛に抱きかかえられて降り注ぐシャワーのなかで躰を清められていた。明るい白熱灯の照明が顔の上に降り注いでいた。眩しくて目が開けられない。
でもわたしの鋭敏な触覚は彼の手が全身を優しく撫でながらぬめりを落としていることをしっかりと認識していた。
乳首を揉むように丹念に洗われて、つんとした刺激が背筋に伝わった。
下腹に下りた手が陰毛をすすぎ、陰唇を広げながら指の腹で擦られて再びおかしな気分がもたげはじめた。膣口に浅く入れられた指先でぐるりと周囲を擦られて思わず彼にしがみついてしまう。最後に肛門を軽くマッサージされてわたしは羞恥に喘いだ。

何か液体ではないものが押し出される感触にわたしは慌てた。
彼が指先を動かすと崩れた小さな白い塊が目に映った。
「いや! 見ないで!」
足を閉じて彼の視界を遮ろうとするが膝を抱えられて動かなかった。
「大丈夫だよ。桃だって。ほら、真っ白でしょ」
「違うのが出てきたら……、そんなことになったら、わたし恥ずかしくて生きていけない!」
躰の震えが止まらず、涙が出そうになる。
「あの…さっきは大丈夫だった?」
訊くのも恥ずかしい。
「うん」
そっと抱きしめてもらってようやく震えが止まった。
「食べちゃった……の?」
やっぱり彼の顔が見れない。
「うん」
「病気になっちゃうよ」
「ならないよ」
「なるよ」
「もう憶えてない? 前も、ほら、キスしても舌入れても一度もならなかったよ」
「知らない知らない。そんなこと知らない! でも、洗えないときもあるんだよ……」
「それは味が違うからすぐわかる」
がーん。気付かれてた。
あまりの衝撃と羞恥に顔が引きつってしまう。硬直して何も言えない。走って逃げて毛布を引っ被りたい。
ショックとわけのわからない感情が怒涛のようにわたしの躰を駆け巡り翻弄した。
「嫌だったらしないけど…きもちよくない?」
そんなこと訊かれたって困っちゃう。
「最初はくすぐったくて……変な気分だったけど……今は…今はよくわからない」
「でも、この先一生、桃を食べるたびに思い出しちゃうよ。きょうのこと」
「大丈夫。三日とは言わないけど、5年もすれば忘れるよ」
酷い。なんて憎たらしいことを言うのだろう。
「わたしは忘れない。絶対忘れられない!」

「じゃぁ、今度は熟した洋ナシでやってみようか。とろとろの柔らかいやつ。匂いのバランスが良さそうだと思わない?」
思わず想像してしまって、なんだか自分が本当に変態に思えてきた。
「そんな……お百姓さんに怒られちゃうよ」
「そうかな。食べれるとこは無駄にしてないし、夕実のなかに入れるなんて世界でいちばん幸せな洋ナシだと思うけど」
幸せ? 幸せな桃。洋ナシ。幸せなわたし。
ぽっと頭の奥で火が灯った。もう消せない。
後ろ手に彼の首を引き寄せて背中を彼の胸に密着させた。降り注ぐお湯が彼を打って、わたしに注いだ。
ザーという水音。流れる滴。
意識の焦点があっけなく呆けはじめた。

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車のなかで夕実は一言も喋らずに、ずっと下を向いていた。
雅明の店から払い下げられた中古の商用車だから、滑るような乗り心地とはいかないが普通に走る分には支障はない。深夜の道は昼間の渋滞が嘘のように空いていた。
「もう、着いちゃうよ」
微かなエンジン音に街路灯が流れて消えた。夕実は頑なに顔を背けていた。
「ごめんなさい。わたし恥ずかしくて顔上げられない」「寛に顔見せられない」

「あまりよく憶えていないのだけど、後で自分がしたことを思い出すと恥ずかしくて死にそうになる。前よりもずっと依存してるみたい。どうしよう。どうしたらいいの。《夕実》って名前呼ばれただけで躰が溶けちゃうみたい」
困りきったように夕実がか細い声を絞り出した。

見覚えのある街区が窓の外に流れはじめた。
「止めて」
夕実の家の一街区手前の公園の樹木の陰に音もなく正確に車が停められた。
ギアがパーキングに入れられる軽いショックを感じて、サイドブレーキが引き上げられた。
「家の前だと前みたいに母が出てきちゃうから……」
「早く帰らないとまずくない? もう12時だよ 起きて待ってるんでしょ?」
「そうなの。父ならいいんだけど、母はチェックが厳しい。どこに居たのとか、誰と居たのとか、何してたのとか…あら? 髪洗ったでしょとか、ボタンがずれてるわよとか引っ掛けようとするの」
寛がクックと笑いを噛み殺した。
「遊ばれてんじゃない? 真面目で堅いから」
「そうかな、そうかも……でも酷いと思わない? 実の親なのにさ」

挿絵3-2

『空の青 7月(3)』

「霧?」
「あぁ。気温が思ったより下がっているのかな」
「霧が出ると夏が来たって気がする」
そういえば朝、公園の脇を通ったとき、夾竹桃の花が濃い紅色に開いていた。ついこの間まで薄赤く割れた蕾だったのに季節は確実に移り変わっていた。
ロックを開ける音とルームランプが柔らかく心細く灯った。

外に立った夕実が空を見上げるのを見て寛はエンジンを切った。ドアを開けると煙のような湿った霧が忍び寄る。公園の土手のような斜面を登る夕実の影が青白い光に揺らめいて、寛は慌ててロックを掛けてその後を追った。
1.5mほどの土手の頂上には夾竹桃が目隠しのように植えられていた。樹と樹の隙間を潜り抜けると、そこには公園の照明に照らされた乳白の海が広がっていた。
あらゆるものが霞んで白く半透明の皮膜に包まれて輝いていた。
霧の海にぽつんと夕実の頭が浮いて見えた。ふっと沈むようにかたちが動いて消えた。
「夕実?」
微かな声でそっと呼びかける。

「憶えてる?」
微かな声が詠うようにしっとりと濡れていた。
「ん?」
「わたしが寛に怪我させたとき、送ってもらってここでキスした」
「憶えているけど、見えないな」
「こっち。もう5mくらいでブランコの柵があるから気をつけて」
寛はゆっくりと声のする方向に歩を進めた。
「凄い霧だね。真っ白」
冷たく濡れた鉄に腿がぶつかった。その脇に手をつくと柔らかい布地に触れた。
すぐ隣にぼやけて見える夕実の白い影に手を廻す。
すぅっと霧が流れて、暖かい塊が寛に強くぶつかった。

抱きとめた腕の中で、夕実は瑞々しい肌を曝け出して裸だった。

『空の青 4−3』(続く)


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