定刻を過ぎてC-302講義室からひんやりと薄暗い廊下に出ると、
「明日、お昼一緒に食べようよ」
そう振り返って、門に消えていった夕実の姿が霧の涼気と湿度と共に甦った。
天気は馬鹿みたいに晴れ。
外に出ると夏の日差しが真上から垂直に降り注いでいた。
寛は友人達の誘いを振り切って、一講目が終った頃携帯に入ったメールの場所に向かった。
キャンパスの中央を分断する市道の信号に人だかりができていた。徒歩のときは死なない程度に通りの左右を確認はするが、信号を見たことはない。
ときおり街路樹のケヤキや桜の大木を揺すって吹き抜けていく風が爽やかだ。
青と緑の饗宴。好きな季節だ。
図書館の前庭を抜けて、文系食堂へは5、6分はかかる。
法学部、経済学部、文学部に教育学部、それぞれの大学院や研究所を加えたら、かなりの人数がこの時期でも食堂を利用するはずだ。
出遅れが痛い。昨日ほどではないが、既に食堂には列ができているだろう。
背景の山麓の緑に如何にも安物のテカッと光った四角い建物が白く映えて、そのコントラストに目が眩んだ。
日陰になった庇の下。暗い陰にようやく目の露出が合った。
目が醒めるような藤色のミニスカートに黒っぽいタンクトップの組み合わせ。黒いサンダルが足首の細さを強調している。小脇に淡いブルーの肩掛けバッグを抱えて、壁に寄り掛かって剥き出しの白い腕と足が背景に鮮明に浮かび上がった。サングラスで目元は見えないけれど、額にかかった髪がときおりふわっと気持ち良さそうに浮き上がる。あまりにも目立つから食堂に向かう誰もが顔を向けている。うちの学校にもこんな人がいるのかと、ちょっと新鮮な気分になった。
生協の平たいコンクリートの建物に入りかけて、まさかなぁ、と振り返った。
一応この辺りが指定された場所なのだ。
突っ立ったまま惚けたように、姿かたちを昨日の夕実に当て嵌めてみる。
と同時に、その女が管理が行き届かなくて半分禿げた植え込みを迂回して、笑いながら走り寄ってきた。
「全然、混んでないでしょ」
はしゃいだような笑顔が夏の光に輝いた。
夕実だった。
周囲の視線が一斉に集中する。
真正面に立った彼女が当たり前のように躰を寄せた。
濃い緑色のサングラスのちょうど半分が空の青に染まって光った。
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空いていたおかげで時間が余った。
食堂を出て講堂の庭に向かう。学生の流れから外れているせいか、木陰にベンチがあって落ち着けるわりにはいつも人気がない。木漏れ日の中を肩を並べて歩く。
夕実の剥き出しの肩や首筋の白さを視界の隅に捉えながら、日陰になったコンクリートの階段に並んで座った。
蝉の声があたりを制圧していた。
吹き抜ける渇いた川風が緑の梢を揺らす。
空気との接触面積が最大になるように身体を伸す。細胞の一つ一つに酸素が染み渡るような瑞々しさ。
真似をして夕美が身体を伸ばした。
沈黙。
夕実は変わった。
外面的な要素にまったくといっていいほど無頓着だったあの頃が嘘のようだ。
大学生になって一気に花が開いたような可憐さを身に纏い、その微笑みは艶やかですらあることに素直に驚嘆していた。
「そそるでしょ」
挑戦的な目付き。透けたサングラスの向こうで黒目が笑っている。
「人気のないところに連れてって、押し倒して、滅茶苦茶に犯してやりたい」
耳元でそっと囁く。
「ほんと?」
「……って、みんな考えるぞ」
「なによ、それ。寛は考えないの?」
頭を抱き寄せて、尖った口にキスをする。
夕実の躰の力がふっと抜けて、裸の腕が背と首に廻された。
情熱的で貪るようなキスが繰り返された。
そのまま右手を胸に押し当てて、左手で剥き出しの膝を割った。
キスをしたまま唸る夕実。言いたいことはわかるからしばらく口を離さない。
「だめだってば!」
夕実がようやく抱擁から逃れたときには目元が赤く染まり、すっかり息が乱れていた。
「家で何も言われなかった?」
「お母さん、完全に疑ってる。今朝もこの格好見て言われた。発情期の牝猫みたいだって」
「あらら。確かにその格好じゃぁ、ちょっと心配ではあるかな」
「朝はねぇ、父と一緒だから平気。同じ電車なの。父は何も言わないし、あんまり目も合わせない。気をつけなさいって言うだけなの」
そりゃ、眩しいからだろう、とは思ったが口には出さなかった。
「でもなんか新鮮だね。青天の霹靂。似合うよ」
「ほんとは大胆過ぎて気恥ずかしいの。でも、ご飯食べたら、じゃあねって帰っちゃうんじゃないかと思って……でも、こうすれば今日も送ってくれるんじゃないかって思ったの。……不純かな?」
覗くように見上げた目が黒く光った。
「次は何?」
「フランス語だからサボれないぞ」
「先生、誰?」
「大西さん」
「ふ〜ん。テキスト見せて、何使ってるの」
「今日当たるの」
「どれどれ。ここ?」
「昨日帰ってからやったんだよ。3時過ぎまでかかったぞ」
学籍番号順に指名されて、長文の一部を訳すのが講義の内容だ。予め訳す部分を指定されるわけではないから当たりをつけておく必要があるし、場合によっては範囲を多めにとっておく必要がある。もちろん指名されて「やってません」だの「できません」は論外。その場でその日の出席が取り消しになる。
「わたしは母の小言聞きながら階段上がっているところまでは憶えているんだけど、朝、気が付いたら服着たまま寝てた」
夕実の目元がほんのりと染まったが、すぐに話を引き戻した。
「さすが。ちゃんと出来てるじゃん」
「でもこれは二重否定だから、意味は逆かな」
「お、なるほど。どうりで意味が通らんわけだ。さすが、先輩。今度から夕実に訊こう。考えてみれば最適じゃんね」
「そりゃ、一年前にやったばかりだから」
「寛はなんでフランス語にしたの?」
「なんとなくラテン系の言語も知っとくと便利かと思ってさ」
「そうだよね。イタリア語とかスペイン語にも応用利くしね」
「夕実はさ。外国語ってさ、あの、もしかして……フランス語とドイツ語だったりするの?」
「ううん。フランス語と、あとは漢文読みたいから中国語なの。本当はロシア語も取りたかったんだけど、時間が重なっちゃって上手くなかったの。たまにもぐりで聴いてるけど」
「あ、そ」
まぁ、今更驚くべきことではないか、と思い直す。
外国語は二ヶ国語が必修だ。もちろん、欲張って英語以外の二ヶ国語を選ぶのは非常にきつい。どちらかを落として留年するはめに陥る典型と聞く。
「英語は誰?」
「斎藤さん。鬼のほうの」
「じゃぁ、ポーとキーツでしょ」
「よく知ってるね」
「だってポー好きだし、キーツは古語入るし、憧れてたんだ。今度テキスト見せてよ」
「おう。当りそうなところチェック入れとく」
「でも訳さないよ?」
一応、発言の真意を自分なりに理解しようとした。
「訳さなくてもわかるから日本語にはしないっていう意味?」
「夕実さ、去年何単位とったの?」
「50くらいかな。もうちょっとあったかも」
前からわかってはいたことだが、改めて夕実の顔をまじまじと見てしまう。文学部の必修科目のことは良くわからないが、あと20単位もあれば学部進学には支障がない数字のはずだ。
「履修した科目、全部とったの?」
黒い髪がふわっと揺れて当たり前のように頷いた。呆れると同時に本当に羨ましい。
「なんでこんな子がおっぱいとかお尻触らしてくれるんだろうって、いつも不思議に思うんだけど……。昔……、化学の実験室でおしっこするところ見せてくれたときもそう思った」
「ばか」
真っ赤になった夕実が顔を背けてしまった。
「もう! よくそういうこと憶えてるよね。早く忘れなさい」
背まで向けてしまった夕実を引き寄せて両腕で強く抱き締めた。
耳元に口をつけてそっと囁いた。
「一生忘れない」
「4講目は線形代数だからサボってもいいぞ。出席とらないし」
「うんうん。数学はどうせ全部試験だけだからね。じゃあ、一緒に宗教学聴こうよ」
「おもしろいの? それ」
「うん。けっこう。中講義室だから関係ない人が混じってても平気だし」
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時間ぎりぎりに最後尾の扉から講義室に入った。
中講義室は三つある講義棟の各々最西端にあって、階段状に席が据え付けられている。一番後ろが最も高くなってすり鉢の底に教壇がある。夏休み直前のせいもあるだろうが出席を取らないから人影は疎ら。最前部は講師以外無人。中央付近にところどころ固まって、後半部にはぽつんぽつん。
左へ行きかけて見覚えのある痩せた背中が午後の陽を薄く反射しているのを見て、慌てて反対側へ歩いた。
「なんだ、あいつもいるのか」
訝しげに夕実が窓側を振り返った。
「あ、佐々川君でしょ。うん。けっこう一緒になるよ」
いちばん人口密度の低そうな場所を探して、夕実を左翼の後ろ、窓際に座らせてそのすぐ左側に陣取った。
「いつも一緒に聴いてるの?」
「うん。わたし大抵ひとりだから……なんか選択の傾向が違うみたい」
夕美の目が曖昧に中空を見た。
「それに4月に履修簿出すときにいろいろ訊かれたの。で、これが面白いとか楽とか出席取るとか、レポートだけとか……」
「あぁ、それはそうだよな。俺もさっぱりわからんかったからおかげで苦労してる」
「ずっと探してたのに、寛はいないし〜」
初めてだからよくわからないが、講師はフロイトの「宗教論」とフォイエルバッハの「キリスト教の本質」あたりを取り上げて講義を進めているようだ。確かに語り口が軽妙でおもしろい。
耳の端で周囲を捉えながら、目を夕実に向ける。
真面目に講義を聴いている真剣な横顔は少し冷たいくらい鋭角的だ。
目元にふわっと掛かった柔らかそうな髪、長い睫毛、尖った顎の細さが殺風景なグレーを背景に浮かび上がり冴えている。黒いタンクトップの胸元はつんと固く盛り上がり、気になるのか藤色の短いスカートの裾をときおり無意識に引っ張っている。
藤色の布地から大胆に露出した肌が机の陰で白く息づいている。固く閉じた膝とぴったりと合わさった腿。滑らかな曲線を描いてスカートの陰に消えていくラインは吸い寄せた目を離さない。匂うような白さに目が眩み、頭が痺れ、躰の奥底に凶暴な感情が宿りはじめた。
意識の50%を動員して講師の話を楽しみながら、残りの50%を右手の指先に集中させた。
夕実の右側は通路だし、床に固定された木製机には前垂れがついているから下から覗かれる恐れはない。最後尾の一つ前で後ろは無人だからもちろん後ろの心配もない。夕実の左側を塞ぐように身体を少し前傾させて、伸ばした右手指を短いスカートに潜り込ませた。
びくんと太腿が震えて、困ったような非難の目が向けられた。冷たくて滑らかな太腿の感触を味わいながら講義を聴く。
夕実は何もなかったようにときおりノートにメモを取りながら前を向いている。
その様子を横目で伺いながら、そっと撫でるように指を内腿に這わせた。
机に放り出したノートの端に夕実の華奢な手が伸びた。シャープペンがかりっと音を立てた。
《だめ!》
答える代わりに耳元で囁いてやる。
「どこからも見えないって」
周囲をちらっと見回してようやくこの席を選んだ理由がわかったようだ。
更に指先を進めた。柔らかで吸い付くような肌の感触を愉しむ。もちろん、目的地はその更に奥、柔らかな躰の中心だ。一度手の平全体で膝から腿を撫で上げて、半分ほどを覆っているスカートの布地を捲り上げる。慌てて夕実が左手で裾を下ろそうとするが許さない。諦めたように夕実の手が机の上に戻った。
きつく閉じられた太腿の間に指をねじ入れる。視界の隅に真っ白な太腿と淡い水色のパンティが僅かに見える。小指の付け根を水色の布地に押し当てる。力を込めると奥の方の熱が手にはっきりと伝わった。それでは飽き足らず中央部を指で圧迫すると、前を見ていた夕実が堪え切れなくなったのかようやく下を向いた。
布地の縁を探して指を這わせる。強引に内側に潜り込ませた指先はねっとりと熱く濡れた襞をすぐに見つける。縦に割れた襞の内側に指を埋めると溜めきれなくなった液体が周囲に溢れはじめる。気が変わって指を引き抜くと、恨みがましい黒目が睨んだ。
今度は、椅子に浅く腰掛けさせて背に手を廻した。
サイドを止めるボタンを外すとウエストが緩んで手が自由になった。タンクトップの裾を少し引き上げて、スカートの背に手を潜り込ませる。滑らかに張った皮膚のボリューム。手をすべり落とした先に弾力に富んだ尻があった。
豊かな腰の感触をさんざん愉しんで、おもむろに尻を覆うパンティのゴムをくぐった。
手にぴったりと吸い付くような冷たくて柔らかな肉と垂直な割れ目。溝に沿って手を押し下げると迎えるように夕実が尻を突き出した。窄まった肛門に中指が触れ、通り越して濡れそぼる割れ目に指が埋まる。燃えるように熱い。
突き進むとこりっとした硬い突起にぶつかって行き止まり。手の平全体を使って夕実の熱さを受け止める。滴り落ちるぬめりと襞の柔らかく複雑な形。
試しに手の愛撫を止めてみると、夕実自身が体重を掛けて腰をスライドさせた。
夕実の動きに合わせて最小の動きで効果的に刺激を与える。
液体が擦れる音が微かに耳に届いた頃を見計らって、中指を膣に、親指を肛門に潜らせた。
夕実の横顔が明らかに上気して目元が染まっている。
潜り込ませた二本の指で間にある肉を挟むように力を入れると、夕実の声を殺して薄く開いた口元が震えた。
午後の陽に彩られた、静かな講義室。斜めに差し込む光線に塵が光って舞っていた。
力を込めると夕実の表情が恍惚に歪み、緩めると濡れた瞳が辺りを彷徨った。
なんと美しい表情だろう。
興奮と感動で目が離せない。
聴覚は《宗教は幻想だ》というフレーズを捉えた。
フロイトを軸に講義は進んでいるようだ。
夕実の躰が小刻みに震えはじめたのを感じ取って指を抜く。一瞬匂いがあたりに漂って消えた。
そのまま尻のパンティを押し下げた。すぐに意図を察知した夕実がチラッと目を向けるが躰はもう抵抗しない。小さなパンティの左右を交互に押し下げて、丸い尻を通過するときは腰を浮かせて協力した。丸まった水色の布を一気に膝まで引き下ろし、更に突きやると、落としたものを拾う振りをした夕実が足首から布地を回収した。
おどおどと困ったように手に握り締めたものを受け取った。
間髪をいれず、タンクトップの背に手を潜らせる。ブラジャーのホックを一瞬で外す。
締め付ける力が消えて、はっと気付いたときにはもう遅い。
《だめ! バス乗れないよ》
今度はその下に書いて答えた。
《一緒に帰ろう》
さて、ここからが問題だ。タンクトップだから片側づつストラップを引き出して肘をくぐらせればブラジャーだってタダの一枚の布になるのだが、隠すものがないから見える恐れがある。かといってホックを外しただけじゃ夕実に申し訳ない。外れたブラジャーをぶら下げて歩くなんて考えただけで納まりが悪そうだ。もちろん外したが最後、片手でホックを掛けるのはなかなか至難の業だ。
タイミングを見計らうかと、しばらく裸の尻や僅かな陰毛をもてあそぶ。夕実はもうされるがままで、ときおり苦しそうに躰を押し付けてくる。横からは見えないが下からは見えるだろう、と姿勢を正してやるのがたいへんなくらいだ。
《最後30分はスライドを使います》
マイクを通した講師の声が聞こえて、左右の窓の暗幕が自動的に閉まりはじめた。同時に黒板を覆い隠すように天井からするすると白いスクリーンが降りてくる。天井の照明が消えると一瞬完璧な闇が落ちて教室がざわめいた。すぐにプロジェクタに電源が入って明るい光と共にスライドがスクリーンに映し出された。
講師の声がスライドの説明をはじめる。明るいのはスクリーンだけで周囲は闇に閉ざされていた。ぼんやりと形を掴むのが精一杯だ。5段ほど前に座った人影がぼうっと白く霞んで見えた。
なんだか出来過ぎだな、とは思ったがその機会を最大限有効に利用させてもらうことにした。
片手で夕実を抱き寄せると、何の抵抗もなく彼女はくたくたと倒れこんできた。脇から手を入れて肩に乗った右のストラップを引き出す。反対側も同様にしてタンクトップからブラジャーを引き出してしまう。
邪魔物はなくなった。タンクトップを首まで捲り上げて、思う存分その固く盛り上がった乳房を掴み、擦る。乳首を摘み、口で吸い、軽く歯を立てた。
スカートは臍の周りで丸く輪になっている。広げさせた足の付け根と乳首を同時に攻める。声を出せない夕実はありったけの力を込めて腕に爪を立てた。
無音の儀式は最後のスライドが取り除かれて、巨大な手の影絵がスクリーンに踊るまで続いた。
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照明が点くと同時にバラバラと席を立つ音がすり鉢の底に湧き上がった。
夕実が態勢を整えるのを待っている間に佐々川雅明に見つかってしまった。
皮肉っぽい笑顔を半分だけ浮かべて軽く手を挙げた男が退出していく学生の流れを横切ってゆっくりと近づいて来た。
「おや、珍しい。お揃いで」
「夕実の推薦だから後期に取ろうかと思ってな」
そっと脇に目を流すと、夕実はノートを胸の前で抱きかかえて硬直している。
いつになく表情も硬い。
夕美と何か話したそうにしている雅明を掴まえてさっさと講義室をでた。
「悪い。またな。バイトもあるし」
生協に寄って茶でも飲まないかという雅明を追い払い、コンクリートで固められた殺風景なキャンパスを歩き出した。
夕美もさすがに他人の視線が気になるようだ。
歩き方がぎこちない。
彼女の下着は小さく折りたたんでポケットに入っている。
「待って!」
いつもより歩幅が小さいからどうしても遅れがちになってしまうようだ。
「歩きにくい?」
困りきった目が瞬いて首を振った。
「大丈夫。でもスースーする」
「ゆっくり歩いて帰ろうか」
子供のように頷いた夕実がぴったりと脇に寄り添った。
「後期は一緒の講義取ろうよ」
******************************

今日はなんとかバイトに出掛ける寛を見送れた。
もっとも腰が立たなくてタオルケットにくるまったまま。頬に軽くキスされて離れていく首筋にすがりついた。引き止めて、唇と唇を正確に合わせて舌を絡め合う。
別の感覚が再び突き上げて、腕に力を込めようとした瞬間逃げられた。
諦めて彼の背に手を小さく振った。
***************************
強烈だった。
玄関に入った途端、扉が閉まりきる前にわたしはタンクトップを脱がされてスカートを落とされていた。
下着はすべて奪われていたから、わたしは全裸だった。
まるでそれが最も自然な姿であるかのように、身に纏った夾雑物を払いのけられた。
次はわたしの番だ。
無我夢中で彼のシャツの内側に腕を潜り込ませ、その肉体の熱さを掻き抱き、もどかしくベルトを外してジッパーを引き下ろした。迷うことなくトランクスを引き下ろし、既に膨れ上がって真上を向いたものを両手に収めた。
その固さと熱さがわたしを更に狂わせた。
訳のわからない言葉が口から溢れ出た。いや、言葉じゃない。動物じみた牝の咆哮。
掴んだものに舌を這わせ、先端を口に含んだ。
はちきれそうに膨れ上がったものを舌と口内のすべての粘膜で擦り、包み、吸い尽くした。
茎の根元に添えた左手に溢れた唾液が滴り落ちた。右手に乗せた睾丸をそっと包み込んだ。
リズミカルな動きをもって寛の性器が力強く、垂直にわたしの口に押し込まれる。
頭上で荒い息が震え、強い力で頭を押さえつけられる。
凄い。身動きができない。
両手に頭を挟まれて、押し込まれたものが口の中で、顔の上で暴れ、のたうち、荒れ狂った。興奮と歓喜が躰を突き抜けた。
「……夕美?」
掠れた声が降ってきた。
口を塞がれたまま、僅かに首を上下させてわたしは頷く。
次の瞬間、引き気味に後退する先端から熱い液体が迸り、舌と喉にねっとりと精液が絡みついた。
びくびくと暴れまわる先端を吸い込むように覆い尽くす。寛の匂い。寛の味。
凄い。まだ出てる。
断続的に射出されるものすべてを正確に受け止めた。
口の中が熱くて濃い精液で満たされる。
つんと引き攣るような陶酔感に包まれる。
男の精を独り占めにしている満足感に浸りながら、いっぱいになったものを呑み込むと、一塊になった熱さが喉を通り抜けた。
僅かに柔らかく姿を変えたものを口に含んだまま、わたしは至福ともいえる満足に浸った。
そのままゆっくりと引き上げられて、限界まで躰を広げられた。
数秒後、わたしは玄関でサンダルを履いたまま、目くるめく愛撫を全身に受け、恍惚に全身を貫かれた。
***************************
出掛けて行く彼のシャツの袖に赤く丸い輪が半分隠れていた。獣のように叫びはじめたわたしが声を殺すために噛み付いた。褐色の腕にはっきりと歯形が残った。
たった今のことのように鮮烈さをもって記憶が甦り、わたしは一人で顔を覆い羞恥に溺れた。
軽やかに転がるような電子音。カウンターの脇でLEDが点滅していた。
電話だ。
どうしよう……判断する前に電話機が応答した。留守電になっていたらしい。
寛のメッセージをどうぞという素っ気無い声に続いて女が喋り始めた。
《菊川です。メール入れといたから……見てね》
一回電子音が響いて電話が待機モードに戻った。
テーブルの反対側。スチールの棚にコンピュータが置かれ、すぐ脇のテーブルに小さなキーボードとマウス、液晶モニターが置かれていた。無造作で殺風景、飾り一つない無機的な色。寛らしい。
電源が入れっぱなしの本体はサーバなのだろう。モニターの電源を入れても何も出力されないようだ。ということは……昔、彼に受けたレクチャーを思い出す。
端末からすべてを操作できるようにシステムを組んでいるはずだ。サーバの横にある沈黙している本体の電源を入れた。
微かな唸りが聞こえてLEDが点滅をはじめた。BIOS画面がWindowsの画面に変わった。
良かった。一つ前のヴァージョンだがこれなら使える。
が、パスワードの入力画面が出てログインを促された。認証はユニックス・サーバでしているだろう。ユーザ名“KAN”でログインできればこのシステムのほぼすべての資源が使えるはずだ。ゲストログインではメールはおろか、フォルダを開くこともできないに違いない。
自分のパソコンを思い出す。恥ずかしながら“yuumi”のパスワードは“kan”だ。
まさかね、と思いつつ点滅するプロンプトに打ち込む。
“yuumi”
通った。自分で自分に驚いて、頭の隅が熱くなったが、デスクトップが現れて今度は頭全体がカッと燃え上がった。
モニター全面に貼られている壁紙。
青く染まった薄暗い部屋と斜めに差し込む光。夏の夕方。
制服の半袖のワイシャツの寛は背後から抱くように女に腕を回し、そのストレートの豊かな黒髪に顔を半分埋め、片目だけがレンズを見据えている。凛々しい眉に長めの髪が被さって青い翳りを作る。細い躰を寛に預けた女は大きな目を半分閉じて、小さな鼻がつんと上を向いて、僅かに開いた赤い唇から切ないまでの妖しさを匂わせていた。青いブラウスの胸をはだけ白い肌に陽に焼けた腕が交差し、膝裏を抱えられてしなやかに伸びた内腿と下着が丸見えだ。思わず顔を覆いたくなるような艶めかしい光景。
菊川あけみ。
彼の手がその柔らかな太腿にも、小さな白い下着に覆われた女の部分に触れていないことだけが唯一の救いだった。華奢な肩、細い足首、羨ましいまでに整った容姿を目の当たりにして、わたしは悔恨と嫉妬の奔流に呑まれた。
**********************************
気を取り直して、デスクトップのアイコンを眺めた。
あちこちメニューを漁ってもわたしが知っている範囲でメールソフトらしきものがない。
困惑するわたしを正面からあけみが見ている。メールを覗こうとしてるわたしを軽蔑して咎めていた。あけみのメールを覗いてどうしようというのだろう。自分のしていることの薄汚さに嫌気が差した。頭のどこかでつっかえていたようなわだかまりがすっと冷めて消えた。わたしは消沈した。
メールは諦めて、いくつか開いていたフォルダを閉じようとしたとき、何の予告もなく開いたウィンドウの隙間から覗いた背景の色が変わった。不思議に思って中央に開いたウィンドウを閉じると、そこに随分若いわたしがいた。
呆気にとられ、何か設定を弄ってしまったのかと慌てる。
手順を思い返しても、憶えがない。何もしていないはずだ。自動で壁紙を替えているのか、と思い立つには少し時間が掛かった。
画面のわたしは3年前のわたしだ。高2の夏、寛と付き合っていた頃、二人で行った海で撮った写真。でっかいヒマワリの絵柄の長いサマードレス。なんという趣味だろう。思いっきり恥ずかしい。ちっともかわいくないし色気もない。せめて笑っていればまだましなのに、つまらなそうにつんと澄ました顔、固い姿勢、おまけに大きな帽子で顔の半分は影になっている。もっとましな写真を使ってくれればいいのに……。ただでさえ美人のあけみにこれでは勝ち目はない。
壁紙の元になっている写真を探そうと、サーバのフォルダに潜った。凄い容量のドライブが3台も接続されていたが、合理的に整理されていて目的のものはそれほど手間をかけずに見つかった。“photo”というフォルダの下にいくつかの英字が並べられていた。
“akm etc kk tmm ym”
なんとなく“ym”がわたしなのだろう、という推測はついた。
フォルダをダブルクリックすると、その下は日付別に整理されているようだ。古いものから順番に中身を画像ビューアに送り込んだ。
いつのものだろう? 古い写真。制服姿のわたし。修学旅行の集合写真。全部寛が撮ったものではなさそうだ。日付の新しいフォルダに移るとようやく見覚えのある写真にぶつかった。海に行く少し前だろうか。学校の屋上でポーズをつけているわたしがいた。くそ真面目で膝に届きそうな長いスカート。あけみだってあと10cmは短かっただろうし、啓子なら15cm短かったはずだ。きっちりと喉元まで止めたブラウス。赤いタイまでが正確に左右対称だ。もっさりした髪はうっとうしいし、ペントハウスの日陰にしゃがんだポーズもしっかりとスカートを抱えて色気の一つも感じられない。
キーボードを叩いて、順送りに画像を見ていく。
すぐにさっきの海の写真が現れた。それもたいした枚数はない。
かちかちに固まって、つまらなそうなわたしを見て寛だって撮りたくなかったのかもしれない。あっという間に季節は秋に跳び、文化祭の写真。それで終り。
二人で撮った写真すらただの一枚もないわたしの短くて薄っぺらな経験。それでいながら天地がひっくり返るような喜びと悲しみ、歓喜と苦悩に翻弄された半年。画像に記録された半年は記憶の半年よりもずっと虚しくて儚かった。
一つ上のツリーに移って不思議な文字列をもう一度俯瞰する。
“akm etc kk tmm ym”
最初はあけみだ。まちがいない。そして“tmm”の容量の多さに驚いた。“akm”と一桁、“ym”とは二桁も違う。誰? 松崎先生? そうか、智美だから“tomomi”の母音を省いたものだ。納得してフォルダを開く。最初の日付は二年前の夏。七月の中旬だ。
卒業以来、何度か学校へも尋ねたし、マンションにお邪魔したことも少なからずあった。在学中から薄々感じていた寛との関係も彼女自身の口からはっきりと聞いて知っていた。敵愾心も競争意識も無いといえば嘘になる。でも、羨望と同情、憧れと嫉妬が入り混じったような複雑な感情を抱くと同時に、彼女の不思議な好意を感じてもいた。付き合いが深まるほどその感覚はわたしの中で明確なかたちを取りはじめ、女友達とは違ったきめの細かい奥深さにわたしは憧れた。かつて感じたような感覚、気安くて、爽やかで、すぐ傍に居たいと思わせる空気の流れ……それと同じ感覚を最初に感じた相手が寛だったことをようやく思い出して、わたしは愕然としたものだ。
けれどもそのフォルダの中身は最初の予想をはるかに越えてショックなものだった。
制服? 姿の先生。マンションのルーフテラスだろう。寛が作った白いテーブルでポーズをとる先生は可愛らしくて、美しかった。なぜこんな格好をしているのだろう? 疑問は膨れ上がったが、恥ずかしそうにレンズを見詰める先生は上品で気高くて、女らしい華やかさに満ちていた。短いグレーのスカートから白い太腿がはみ出して、その奥に下着がはっきり写っていてもその気品は変わらない。
頭に熱い塊が梗塞のように少しづつ広がりはじめた。右手は躍起なって画像を送り続ける。
自分の膝に両手をついた先生が後ろ向きに尻を突き出していた。振り向いた顔は恥ずかしそうに笑っているけれど、小さなショーツはぴったりと閉じた膝に引っ掛かって、大きな丸出しの尻の中心、小さく窄まった肛門の下にはぷっくりと熟したアケビのように膨れた性器が完全に露出してピンク色の割れ目がくっきりと見えている。これほどいやらしいアングルもないけれど、これほど清楚で美しいお尻も見たことがなかった。見蕩れそうな、頬擦りしたくなるようなかたち。同じ女としても率直に綺麗だと思うけれど、見ているほうが恥ずかしくなって思わず目を背けてしまう。
あるいは正面を向いてしゃがみ込んだ先生。どこかの砂地。海だろうか。濃い青色の背景と空の青が画面を埋めていた。風になびく黒髪。もちろん全裸だ。見事な胸と細く締まったウエスト、膝を大きく広げているから性器が丸見えだ。おまけに陰唇を指で左右に広げているものだから鮮やかなピンク色が匂いそうに生々しい。
そして、何よりも目を覆いたくなるのは、その広げられた襞から勢いよくおしっこを迸らせて渇いた砂地を黒く濡らしていることだ。溢れんばかりの感情を湛えて、撮影しているはずの寛を見詰める視線に優しさとしなやかさが同居していた。目元が羞恥に染まり耐え切れなくなっても、引き攣った笑みを浮かべ躰を開き続ける先生。開き直りとは無縁の儚さと美しさに頭がくらくらした。
でも、わたしだって、……わたしだって同じことをした。
**********************************
三年前。
「ト、トイレじゃないの?」
「万が一、見つかったとき俺、犯罪者になっちゃうよ」
そりゃそうだ。慌てた自分の思慮のなさに恥ずかしくなった。
この間と同じように4階に上がって静まり返った廊下を進む。一番奥の階段際、化学の実験室に潜り込むと、ひんやりとした空気が頬を撫で、不安に駆られて彼の腕を掴んだ。微かに臭う薬品臭。閉められたカーテンがフィルターになって明るい午後の光が実験室全体を柔らかく浮かび上がらせていた。
「大丈夫。理科の先生、今日午後からみんな研修でいないから。昨日、理科教員室の白板でチェックしといた」
先日のことがあったとはいえ、さすがに恥ずかしさが募った。いや、むしろ、とんでもないことをして嫌われたくないという思いがわたしを慎重にさせていた。
「本気? なの?」
「ん?」
肩に手を置かれて正面から訊き返されてしまうと、顔を合わせられなくて俯いてしまう。
「だって……別に面白いものじゃないし、汚いよ」
上目遣いで彼の同意を求める。
「夕美ちゃんが見たいと思う以上に見たい……無理にとはいわないけれど」
頬に軽くキスされて、わたしは退路が絶たれたことを率直に受け入れた。
制服は寛が脱がせてくれた。ショーツを脱いでスカートをまくれば……と形ばかりの抵抗をしたけれど、キスされているうちにどうでもよくなってしまっていた。一週間前とまったく同じ、全裸にされてわたしは彼に抱えられていた。実験台の両端にある白い陶器製の流しに跨るようにしゃがまされて、わたしはがくがくとあまりの羞恥に震えが止まらなかった。やっぱりできないとか散々屁理屈を捏ねた気もする。
その先は記憶が曖昧だ。おしっこの臭いが立ち込めて、気がつくと彼の口がわたしの汚れた性器を舌と唇で洗い清めていた。びっくりして彼の頭を押しのけようとしてもびくともしない。困ってしまって押し殺した声で「ダメ! ダメ!」と肩を揺するとようやく意思が伝わった。
椅子に座った彼の足の上でぴったりと膝を閉じて横座りで抱き止められて、彼が流しの水栓を捻ると恥ずかしい臭いが消えた。彼の胸にしがみついた顔を起こされて、長いキスをしているうちに、躰を優しく触られてわたしは夢見心地になってしまった。結局、薄暗くなった頃、わたしは当初の目的を果たして、また一つ寛を深く知ることができて満足だった。
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あのときのあの臭いと卒倒しそうな羞恥心がわたしの情動を深く揺さぶった。
彼は、寛は、同じように口で拭ったのだろうか? 感情が高ぶって視界が暗くなる。
躰に巻きつけたタオルケットが解けて前が開いた。
今度はツーショットだ。公園? 緑を背景にしたベンチに並ぶ二人。先生の肩を抱く寛。透明な笑顔。その首筋に頬を押し付ける先生。その表情に押えきれない安寧と幸福が浮かび上がる。
キス。キス。濃厚で狂おしいキス。伸びた舌が絡み合って相手の唇を割っている。
寛のシャツの胸を先生の手が這う。押し付けられた腕、倒れこんだ躰。
紙芝居のように画像を送りながらわたしは放心していた。
寛の指が先生のワンピースの襟元を開く。手が下に下がるにつれて滑らかな白い肌が露出する。困ったように顔を染めて目を伏せる先生。裾までボタンを外されてしまうと濃いブルーの布地の中心に縦に白い線が走った。下着は着けていない。肩を剥くように寛の手が滑ると白い線が一気に広がって、薄紅色の突起を頂上にした豊かな胸と広がった腰がその見事な形を主張していた。すっきりと伸びた足の合せ目には僅かな翳りが震えるように息づいている。
寛の手の平がその大きく盛り上がった乳房を手中に収めた。細くしなやかな指が真っ白な乳房に食い込んで、なおかつ弾力を失わない膨らみを揉みしだいた。寛の手先が滑らかな腹を滑ると当たり前のように先生の膝が開いた。
わたしは瞬きもせずに、画像に釘付けになっていた。左手をはだけた胸にあてがって、無意識のうちに正確に寛の手の動きをトレースしていた。
腕だけをワンピースで覆った先生が大きく足を広げられて、その中心に明るい光を浴びて、いちばん恥ずかしい場所を曝け出している。寛の指がその中心に伸びて、広げた陰唇を細長い中指が抉るように掻き分けた。溢れた液体が光を反射して、先生の顔が歓喜に歪む。
まったく同じように、わたしの指はさっき寛に愛撫されたばかりの性器に埋まり、掻き上げるように膨れたクリトリスを刺激しはじめた。
右手がキーボードを叩く。画面が送られてわたしは絶句した。
ついさっき寛にされていたように先生の小さな口に寛のものが押し込まれていた。細身の下半身からは想像もできない固さと強さが深く浅く先生を抉っている。
思わず自分の口を開けて、そこを塞ぐものがないことに気付いて悔しさが込み上げた。
いったい何枚あるのだろう。
ベンチの上で尻を高く掲げ、四つん這いになって後ろから寛に貫かれている先生。さまざまな緑に白い肌が鮮明に浮き上がる。柔らかな尻に寛の指先が食い込んで、怒張したものを深々と根元まで呑み込んでいる。
真っ白な乳房がぶるぶる震え、乳首がベンチの硬い木に擦れ、やがてぺったりと押し付けられた乳房全体が柔らかく潰れた。眉を寄せて堅く目を瞑った顔。僅かに開いた口から漏れる呻きが聞こえてきそうだ。
カメラに向いてベンチに座った寛に跨る先生。大きく真っ白な尻の底で寛を深く咥え込み、艶めかしい横顔が寛の唇を貪っている。向きを変えられて、両膝を背後から寛に抱えられ、直立した性器をずぶずぶと突き立てられている先生。真正面から光を浴びて二人の結合部が音が聞こえそうなほど艶めかしく濡れて光り、後ろ手に寛の首に抱きついて、乳房を震わせながら明らかに声を上げている。
自分のいちばん好きな男が他の女を愛している。他の女がわたしの好きな男の躰に触れ、口に含み、深々と包み込んでいる。
屈辱と羨望がせめぎ合って頭を掻き毟った。
目を瞑ってしまいたいという欲望と先を促す欲求が交錯した。
親指でクリトリスを刺激しながら、中指を膣口にあてがった。つるりと先端が潜り込んでしまう。指を伸ばして中を掻き混ぜる。目の前で先生がされているように。
再び先生の唇に寛の猛り狂った性器が押し当てられた。頭を押え付けるように寛の指が髪をまさぐった。
半分以上呑み込まれた寛。先生の滑らかな頬を濡らして暴れる寛。
寛を見上げる優しい目。閉じない目。期待の目。
その整った顔全体に寛の先端から噴き出した精液が浴びせ掛けられて、白い額、黒い髪、目にも頬にも、鼻にも口にも白い不透明な流れを作った。
それでも目を閉じずに震え慄く寛を見詰める先生は細い顎から首筋に精液を滴らせながら、寛を優しく包み込むように両手で慈しんでいた。
入り込む隙間のない強さと美しさだけがそこにあった。
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ぐったりとしてしまって先を見続ける気力が失せた。
先生のフォルダはまだ三分の一すら表示していない。あけみのフォルダや他のフォルダを覗いたらもっと落ち込みそうな気がしてウィンドウをすべて閉じた。
随分時間が経った。また壁紙が変わっていた。
3年前の別のわたしが微笑んで立っていた。今度はちょっといい感じ。
真っ暗な夜に一つだけ照明が点ったようなホッとする感覚。
4階の実験室だったか。夏服のブラウスが真っ白で、血の色のようなタイが胸の膨らみの上で踊っていた。薄いベージュのカーテンにもたれて首を傾げているわたし。
見逃してた? たった今見た中にはなかったような気がした。
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「もう、帰っちゃうの?」
「いや、まぁ、俺は何時でもいいんだけど……」
「わたし、寛に酷いことしなかった?」
フロントガラスを通した明るい月光が前を向いた夕実の顔の輪郭を丁寧に描き上げた。
「してないよ」
「でも、さっき……学校でほんとは寛の、寛のにキスして口に欲しかったんだけど……、わたし自分だけ気持ち良くなっちゃって、気持ち良くなるともう何もできなくなっちゃって」
「気持ち良さそうな夕実を見てるのは凄く楽しいから気にしなくてもいいよ」
「でも……わたしばっかり」
「じゃぁ、今度はそうして」
「ねぇ、ほんとはわたしのこと持て余しているでしょ」
「そんな風に思ったことはないよ。わかってるでしょ」
「今日、この格好で学校行ったらけっこうあちこちで声掛けられちゃった」
「そう……だろうね」
「ねぇ、少しは嫉妬した? わたしだってけっこうもてるんだよ。文学部だけど女の子の方が圧倒的に少ないし、いろいろ誘われた。食事とか飲み会とか、サークルの勧誘も凄かった。勝手に名前書かれてたことも何度もあった。みんな奢ってくれるし、凄いサービスしてくれるの。でも、もちろん、それだけじゃ済まなかった。遅くなって車で送ってくれるって、変なところに連れて行かれそうになったこともあったし、酔わされて触られたりとか、押し倒されそうになったこともあった。そういう人は嫌だけど、なかにはけっこう感じの良い人もいて、迷いそうになったこともあった」
夕美がシフトレバーに置いた手を取り上げた。
「聞いてる? でも、この手、傷のあるこの手じゃないとだめ。この手がわたしの躰を這って、掴んで、触らないとだめなの。この傷で触られて弄られないとだめなの。このあいだ海に行って、でもキスもしてくれなくて、会えて嬉しかったけど悲しかった。昨日、水着買って、じゃあねって言われたら、その場で大声上げて泣いちゃおうって思ってた。だから、昨日は本当に嬉しくて楽しくて頭がおかしくなりそうだった」
「あけみや松崎先生みたいにわたし美人じゃないから、もう一度逢えても、もう付き合えないかもしれないって思ってた。覚悟はしてたつもりなんだ。だから、あのとき、なんて馬鹿なことしたんだろうってずっと悔やんだ。大事な手なのに、こんな傷を付けちゃって……」
改めて前を見ると、明るい月夜がフロントガラスの向こうに薄白く広がっていた。昨夜の霧が嘘のように透明な夜。左手を胸に抱きとってその光景を見ている夕美の横顔が凛々しい。長い睫毛が反射した月光を受けて見事にカールしていた。
「三年になって松崎先生、びっくりするくらい綺麗になった。最初は誰か彼氏が出来たんだなぁぐらいにしか思わなかったけど、あの先生教室に入って来ると、いつも無意識に窓際の後ろ見てて、最初なんだろうって思った。でもわかったの、寛がいつも座ってる席なんだって。わたし凄く納得しちゃった。だから、あの写真、掲示板に貼ってあったやつ。誰も気づかなかったのかもしれないけど、わたしはすぐにわかった。先生と指を絡めている左手。傷は見えなかったけどすぐにわかった。寛の手だった。わたしを触った寛の手だった。間違えようはないじゃない。ぶれたんじゃなくてちゃんと撮れた写真をわざと半分ぶれたように加工したんでしょ。誰、あれ撮ったの? 馬鹿みたい。あんなことして」
「わたし達が付き合ってた頃からあけみが寛に惹かれているのはわかってた。でも、三年になって理系に行ったのには正直驚いた。どっちかというと恥ずかしがり屋で遠慮がちのあけみがそんな思い切ったことをするとは思わなかった。わたし、凄く慌てて焦ったけど、どうしようもなかったし、結局何も出来なかった。だから、結局今みたいになっちゃって……あけみや先生から見ればわたし邪魔者だよね。今更横からしゃしゃり出て来て、たまたま寛が相手してくれたからってこんな風に寛を占有しちゃって……、それにも飽き足らずわざとこんな格好して送らせて……、寛がいない間にね、あけみから電話があった……留守電。メール入れたから読んでねって。……帰ったらメール見て……ね」
ふっと息が消えるように声がかき消えた。
握られた左手が頬に押し当てられた。傷跡に唇を押し当てる。熱い吐息が左手をくすぐった。
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……。
沈黙。
フロントガラスを透過した月光がさらさらと夕美の膝に零れ落ちた。
「これ、借りていい? 今度洗って返す」
左手でシャツの裾を引っ張りながら夕美が訊いた。
肩に引っ掛けている半袖の普通の綿シャツ。
薄いペパーミント・グリーンの生地は僅かに黄味を帯びた白に見えた。
夜になってだいぶ気温が落ちた。出掛けに夕美の剥き出しの肩が震えていたから手近にあったものを掴んだ。
男物だから肩幅はぶかぶか。裾はスカートより長いくらいだ。
「いいよ」
「パジャマにしてもいい? 今晩」
「いいけど……せっかくだからパンツ穿かないで裸の上に着て寝たら? でも、風邪ひくなよ」
寛の視線を捉えた夕実が小動物のように小さく頷いて、わなないた。
見る見るうちに大きな黒目が困ったようにあちこちをさまよい歩いて、結局寛の顔に吸いつけられるように留まった。
「うん。そうするつもりだったの……」
青白い月光に長い睫毛が僅かにふるえる。
「わたし、わたし……どうしようもない」
スカートから半分出た足の白さに目が吸い寄せられる。その先の影で膝が微かに擦りあわされて、人目を憚るようなその動きがやがて全身の震えに拡大していった。
「あぁ、ごめん。さすがに夜はちょっと寒いよね」
寛は右手を伸ばしてエアコンのスイッチを切った。
ちょっと考えて、左右のウィンドウを細めに開けてエンジンも切った。
微かな振動が消えて、静寂の海に呑み込まれた。
「あの、ちがうの、全然ちがうの」
僅かな隙間から真夏の夜の湿った匂いがしっとりと流れ込む。
「ちょっとあっち向いて、目を瞑ってて」
シートに深く凭れて目を瞑る。
心地良い疲労と鼻をくすぐる夜の匂い。微かな衣擦れと軋み。
夕美の優しい匂いが夜気に漂った。
「目、瞑っててね?」「いいっていうまでこっち見ないで……」
静かな夜。
深いしじまに冴えた月がフロントガラスの向う側の世界を白く染め上げていた。
「代わりにこれ持っていって……」
左手に夕美の手が重ねられ体温が伝わった。
広げた手の平に白い布地が押し付けられた。小さく畳まれたブラジャーとパンティ。
しっとりと夕美のぬくもりがまだ残っていた。
躊躇うような夕美の指がその布地を再び摘み上げて寛の胸ポケットに器用に押し込んだ。
「臭いから嗅いじゃだめだよ」
少し倒したシートにすっぽりと嵌った白い躰。
薄闇を照らす明かりが倍になったように、青白いフラットな光の下で、夕実は貸したシャツを目の下まで引き上げて隠れていた。
端から捲るように被いを引き剥がす。
ひときわ薄闇を明るく照らすように、夕美は再び何も身に着けていなかった。もどかしそうに動いた右手が再び寛の左手を掴み取り、僅かに開いた口元にその傷跡が押し付けられた。熱い吐息と湿った舌の感触。傷跡全体を覆うように軽く歯が立てられた。
夕美のきらきらと輝く黒目が濡れていた。寛はまったく身じろぎもせずに固まっていた。その柔らかで輝くようなかたちから目が離せなかった。
ちょうど拳が挟まるくらい開いた膝から下はダッシュボードの黒い陰に呑みこまれていた。微かな衣擦れの音を聞いて半分は予期していたが、改めてその青白く滑らかな躰を目の当たりにすると躰の奥底から得体の知れない、狂気に近い感情が湧きあがる。
散々、掴んで揉みしだき、口にして含んだ乳房は相変わらず高さを誇るように真上を向いていたし、滑らかに続く真っ白な肌とかたちの良い臍、そして下腹の中心の陰毛はガラスを通した月の光を浴びてきらきらと綿のように輝いていた。下着に押さえつけられて絡まっていた金色の糸を指先で軽くほぐすように解く。目を凝らせば数えられそうだ。ほんの……数十本。より分けるように数えはじめる。たったの23本。素数だ。思わず嬉しくなってしまう。
「何してるの?」
羞恥を含んだ夕美の顔が困ったようにあちこちを彷徨った。
「だんだん数が減っているような気がする……」
「だって洗うから……気にしたことないからわからない。でも……いつも、その……キスしてもらって……汚いのに……寛に申し訳ない」
金色の綿毛の向うに透けて見える皮膚の割れ目と、僅かに顔を出して濡れて光の粒を帯びている肉の襞。すうっと閉じて収束していく清楚で淫蕩なかたち。柔らかく美しい気配。
他に言葉が思いつかなかった。
夕美の口に押し当てられていた左手がするすると引き降ろされた。
頬、喉、浮き出た鎖骨。
毬のように膨らんだ白い乳房。上を向いても潰れない弾力と固さ。
その二つの膨らみに左手が誘導された。
手首を掴まれて、傷跡がぷっくりと尖った乳首を擦る。
夕美の睫毛がわなないて、目が僅かに細められた。
傷跡が乳首を往復するたびに小さな鼻腔が膨らんで、薄く開いた唇から微かな声が漏れる。
首を竦めるような表情が白い光に切なく喘いだ。
「握って……」「寛の手で握って」
左手が強い力で乳房に押し付けられた。
手の平の下で潰れきらない弾力が残った。
「もっと……もっと強く握って……」
握力を強め乳房全体を捻るように握り締める。吸い付くような皮膚の感触と広げた指から弾力が溢れた。交互に左右の乳房を握り潰す。手を離すとすぐ元の形に復元する柔らかく滑らかな肉の感触。白地に微かに濃く色付いて、緩く盛り上がった乳暈とはっきりと影を落とす乳首。力を緩めると夕美自身が狂ったように乳房を手の平に押し付けた。
「わたしって、スケベで変態なの。いつもエッチなことばっかり考えてるの……。普通の人って自分から脱いだりしないの? わたしどうすればいいのかわからなくて……でも、寛に触って欲しいし、私の裸見て欲しい」
縋り付くような目付き。乱れた髪が顔に掛かってその隙間から濡れた瞳が寛を見上げた。
「もっとちゃんと見て」
擦り合わされた太腿の奥で別の湿った音が聞こえた。
「ね、聞こえるでしょ。寛と一緒にいるといつもこんな風になっちゃう……久しぶりに会えて今度は大丈夫かなって思ったら、前よりも……あの頃よりもずっとひどいみたい」
夕実の膝が暗い陰から引き上げられて、同時に左右に拡がりはじめた。淫猥なまでの角度に開かれて、月光を浴びた白い肌の中央が既に内腿まで濡れて光っていた。平滑で翳りのないその中心がきれいに割れて濡れた襞が小さな舟形を作っていた。
「見て。動いてるでしょ」
夕実が躰の奥底に力を込めると、薄青い月光に僅かに色付いた小陰唇がひくひくと別の生き物のように動いた。皮膜から飛び出て尖った小さな突起が薄い陰毛よりも高く真上を向いて白く光った。
乳房に押し付けられていた左手が有無を言わせず下に滑りはじめた。
無駄のない滑らかな腹、僅かにやさしく盛り上がった下腹、本来の役には立っていない金色に輝くような幽かに煙る陰毛。その神秘的なかたちに寛は見蕩れた。
手首を掴まれて左手が熱くぬめる陰裂に抉り割るように押し着けられた。
溢れた液体が古い傷跡を濡らし指先に溢れた。
「こんなことする女は軽蔑する? はしたない女は嫌い?」
夕実の声が泣きそうに歪んだ。
「それだけじゃないの……」
性器に食い込んだ手が力を込めて前後に揺すられた。
粘液が擦れる音と夕美の匂いが狭い空間に濃密に立ちのぼった。
「わたし、寛と別れてから、でも忘れられなくて、辛くて、苦しくてオナニーばかりしてた。最初は尼さんになろうと思ったのだけど一週間ももたなかった。そんなことする自分が嫌で堪らなかったけど痩せ我慢は長続きしなかった。普段は布団引っ被って指で触るくらいが関の山なんだけど、どんどんエスカレートした。こんな風に自分の手でしたの。こうやって、寛の手だと思ってぐちゃぐちゃに動かした。寛の手だ、寛の手だって思うと気持ち良くて気が狂いそうだった。寛としたことは全部した。忘れたくなかったから、我慢できなかったから。家に誰もいないとき裸になったこともあった。裸になって玄関でオナニーしたの。四つん這いになって扉にお尻向けて。前に寛の家でしたでしょう? それから、……真昼間に庭で裸になって……おしっこしたこともあった。寛が見たいって言ったんだよ。だから……したの。それから……」
休みなく夕美の股間を往復する手首から先は既にぐっしょりと濡れて、きらきらと青白く光った。
夕実がシートの脇に置いたバッグに片手を突っ込んだ。じゃらじゃらと中を掻き混ぜる音がして小ぶりな袋を取り出した。
入り口の複雑な形状を確かめながら、中指の指先をときおり滑ったように膣に挿入する。
熱さと締め付け。うねるような律動とざらざらした濡れた粘膜。
その度に息を呑むように夕美が顔を背けた。
腰の動きに合わせてふるふると前後に揺れる胸の谷間に黒い袋が落ちた。
化粧ポーチだろうか。
夕美の細い指がもどかしそうに口を縛る紐を解くと中から小さな円筒状のものが現れた。スプレー缶だ。先端を捻るように廻すと軽い音がしてキャップが取れた。薄闇にスプレーの一吹きがしゅっと聞こえて爽やかなライムの香りが車内に広がった。
「8x4なの。制汗剤」
夕実のしなやかな手がキャップを元通りに締めた。
「どうしても我慢できないときがあって……そのとき、8x4でしたの。今してるみたいにしたの」
「……?」
困ったように夕美の顔が歪んだ。
「馬鹿にしない?」
「……? なに?」
夕美の細長い指がしなやかに舞ってスプレー缶を逆手に持ち替えた。熱く溶けた股間に押し付けられていた手先に絡めるように手を添えられて、8x4の底部が手の平に触れた。
角度を調整するように丸く湾曲したプラスチックのキャップが今まで左手が押し付けられていた部分にあてがわれ、やがてゆっくりと沈み込んだ。
押し塞がるような抵抗と誘い込むような律動が交互に加わって、大きく広げた太腿がひくひくと痙攣する。5cmほどを残して円筒がすっぽりと夕美の体内に没してしまうと、その底部を掴まされた指先に夕美の手が添えられて次の行為を促した。
二人の手が共同で、月明かりに照らされた夕美を凌辱していた。
寛は自らの手でその冷たい円筒を握り、呆気にとられてその美しい光景に見蕩れていた。
「掻き混ぜて……もっと……滅茶苦茶に」
苦しそうな喘ぎが一段と甲高く洩れて、夕美の背がときおりしなやかに反り返った。
寛の左手と夕美の右手。10本の指が絡みつき、月明かりに濡れて蠢いた。鈍く光る8x4が捻るように微妙に角度を変えながら夕美を抉り、余った二人の指が戯れるように襞を掻き分け、クリトリスを擦り、肛門に埋まった。激しい息遣いが小さな密室を満たし、律動に合わせて盛り上がった乳房がふるふると震えわなないた。
月に奉げられた美しい生贄。
寛は右手に握った円筒で夕美を犯し、左手でたわわな乳房を掴み上げた。
「寛じゃないとだめだから。……だめだからこれでしたの。仕方がなかったの」
夕実の喉が震えて、目を背けた。
「わたしこんな女になっちゃった。淫乱で汚れた女……」
青白い静寂のなかに夕美の荒い息遣いだけがなまめいて生きていた。
背けた顔を覆い隠す夕美の腕を引き剥がし、顔を月明かりに晒し出す。
いやいやと首を振った夕美が頼りなげな声で訊いた。
「恥ずかしいから顔を見ないで。ねぇ、軽蔑した? 嫌いになった?」
寛はゆっくりと、大きく首を振った。
「思いっきり嫉妬しちゃうな、この8x4。没収しようかな」
夕美の躰がひときわ大きく震えたときに円筒を半分引き抜いた。
「え? やだ。酷い」
にじるように腰を下げ、再び8x4を呑み込もうと夕美が動く。
「止めないで。最後まで……いかせて」
はっと気付いたように夕美が首を持ち上げた。
髪が流れて透き通った鼻筋を月明かりが照らす。
「ごめん! シート汚しちゃった」
「ん? いや、シートのほうが汚いからさ……気にしないで」
すっぽりとシートに嵌っている夕美の躰を引き上げて、頬に軽くキスをする。
すぐに猛烈な勢いで口が合わさって二本の舌が踊りだす。
上体を引っ張るようにシートに膝をつかせれば、自然と背中が反って重力に素直に従った乳房が重そうに下を向いた。キスをしたまま右手の指先で背中の中央を首筋から尻まで滑らせると、夕美の尻が大きく持ち上がって月光を浴びた。
ヘッドレストを腕で抱かせて、掻き揚げた髪の下の小さな耳を齧る。耳たぶに軽く歯を立てて、耳を舌で丹念に、一部の隙もなく愛撫すると固く目を閉じた夕美の喉が震えて止めようのない声が洩れはじめた。
右手で左膝を引いて、右膝を押しやった。
シートの幅いっぱいに広げられた足の上に見事な尻が高く掲げられた。
ぱっくりと広がった性器に刺さったままの円筒に再び軽く圧力を掛けると、下から突き上げるように夕美の腰がスライドしはじめた。
左手で固く重い乳房を揉みしだきながら、突き上げられて白く光る尻に顔を近づける。
濃密な匂いと刺激的な光景。
まるで他の男に犯されている夕美を目の当たりにしているようだ。
円筒の底に指を添えて上下左右に力を加える。喚くような夕美の声が密室にこだました。
「触って! お願い……」
余った指を下に伸ばして広がった陰唇の終点に勃起した小さな突起を抉るように擦った。
悲鳴のような声が静寂を突き抜ける。
「あの……あっちも……。お尻の穴も舐めてぇ」
ありとあらゆる欲望を呑み込みながら、制御の効かない美しい肢体が月への奉げもののように寛の目の前でのたうっていた。
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「でも雑菌が入ると感染症起こしそうだし、中を傷つけたりしない?」
「一応、きれいに洗って使うから……何話してんだろうね、恥ずかしい。それにそんなに何度もしたわけじゃない」
薄い光の下で、明らかに夕美の顔が染まった。
「でもあんまり使っちゃダメだよ」
「ほんとは寛のがいちばん欲しくて……他の人は絶対嫌だから……」
「う〜ん。でも、これは他の男としているのを見せ付けられるような……なんともいえない気分だな」
「もし、わたしが他の男としたらどうする?」
寛の視線が夕美の目を真正面から捉えた。
「合意がなかったなら相手の男を殺す。合意の上でだったら夕美を殺すかもしれない」
「……よかった……ありがとう」
くぐもった声が明るい闇の底を這った。
「わたしはずっと三番目でもいいの。それがわたしの罰だと思うから。寛を傷つけて、一人勝手に引き篭もって、当然、寛を他の人に取られちゃって辛くて、嫉妬して気が狂いそうだけど、自分が一番だったら、寛が他の人に優しくしたりするの見たらまた傷つけちゃうような気がして、自分が恐くて仕方がないの」
切なそうに眉を顰めた夕美の表情を冷たく冴えた月光が正確に走査した。
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「明日はバイトだから会えないし、明後日は先生のところに行くの。夕飯食べようって誘われちゃった」
躊躇いがちに夕美の指先が伸びて寛の胸に触れた。
バイトは進学塾のことだろう。そういえばもう夏期講習の季節だ。バイトといえども試験があって受からなければ当然講師にはなれないはずだ。登録制でけっこう難しいと評判のやつだろうが、夕美のことだから何の問題もなくあっさり受かったことだろう。今年で二年目と言っていたからそれなりに信頼もあるのかな、と寛は目の前で惜しげもなく裸体を晒している夕美が再び羨ましくなった。
「寛もやればいいのに……」
そういえば佐々川雅明もちゃっかりその採用試験を受けて合格したと聞いたのは先週だったか。
「おれが人を教えるというのは似合わないというか、なんか教えるということに対する冒涜のような気がする」
「そんなことないよ。寛はエピクロスの徒で、わたしの知らないことをたくさん教えてくれた……肉体的な快楽はもちろんそうだけど、それだけじゃない、もっと、こう……本当の気持ち良さみたいな……すごい懐かしい……日向の匂いがするの」
「中学生?」
「うん。中一、中二の国語と社会」
「雅明は何なの?」
「数学だって」
「そうだ。平野先生がいたよ。この間カリキュラムの調整で呼ばれたとき」
「え? 平野って、あの平野?」
高校在学中の数々の軋轢と反目。忘れていたはずの不快な記憶がふっと浮き上がり沈んだ。
「バイトなんかしていいのかね?」
「う〜ん、どうなんだろ」
「で、なに。平野と飯食うの?」
「まさか。そっちは松崎先生」
夕美の目が顔に落ちた影の向うで微かに光ったような気がした。
「一年位前から、二、三ヶ月に一回会ったりしてるんだ」
別に驚きはしなかった。
そういえばそんな話を松崎智美から聞いたこともあったかなと思い返した。
「ふ〜ん。何を話すの?」
「内緒」
薄闇の帳の向うに、夕美の表情が密やかに輝いた。
闇の底で電子音が軽やかに響いた。
「母だ」
慌てて夕美が音を頼りにシートの廻り、闇雲にあちこち手を突っ込んだ。
薄闇に小さく点った液晶パネルにドットで構成された文字が浮かび上がった。
《ふしだらな女、覚悟なさい》
「ひぇ〜、明治時代みたい。どうしよう」
目の前に携帯電話が突き出された。
「ん? あらら。大正ロマンじゃないの?」
「大丈夫。ほんとに怒ってるときは電話だから」
「メールにするだけ気使ってるの。たぶん。娘の足引っ張っちゃいけないって思ってるの。まだ30分くらいは大丈夫」
そう言ってパッと手を離した携帯がまたどこかシートの底に滑り落ちていった。
「服はどうしたの?」
「知らない」
どうやら後ろの座席に放り投げてしまったようだ。シートの間から後ろを覗こうとすると身体を強く引き戻された。
「やだ。まだやだ」
駄々を捏ねる夕美がいとおしくなって、そっと抱き寄せて裸の背中を擦る。
うっとりと半目になった夕美が小悪魔のように囁いた。
「最後は寛の……中に欲しいの」
『空の青 4−4』(続く)