空の青 8月(2)

今夜は智美のマンションに向かうのかと思ったら、そうではないらしい。
道が空いていて思ったより早く市内に入った。
二晩続けてというのは珍しいが、網戸だけに開け放した窓から忍び込む気持ちよい夜気とともに、止むことのない低くくぐもった広ノ川の流れの音を聞きながら眠りに落ちるのが、月に一度くらい泊まりに来る彼女のお気に入りなのだ。
昨夜も朦朧とする意識の片隅で、ほの白い肩と腕を剥き出しのまま聞き耳を立てていた姿が脳裏に甦った。意識の奥底に刻まれた、その半分だけ閉じて、半分だけ見開かれた瞳の喩えようのないモノクロームの輝き。
「住むなら川の傍がいいな……」
残照の淡い輝きがやがて光を失い、囁くような言葉が瞬くネオンと灰紫の暮れ色に染み込んで溶けていった。

智美が望んだから食事は家で作ることにした。
スーパーに寄って食材を調達する。カゴを一つ小さなカートに載せて交代で押して歩く。
人工の照明の下でも、しょうもない借り物の服を着込んでいても彼女の魅力は変わらない。自己主張だけの派手な背景に負けない生き生きとした表情とキラキラと輝く黒い瞳。剥き出しの手足がきびきびと気持ちよい動作に優しい艶やかさすら与えていた。
その姿にすっかり見蕩れてしまって、おかげで今夜のメニューがなかなか決まらない。

二人で冷蔵ケースに首を伸ばし、顔を突き合わせ、思案する。
「ムール貝?」
食われてたまるかとばかりに頑固に口を閉じた地場産の10cmを越えるものが新鮮そうだ。
「パエリア?」
「頭のとれた養殖海老しかないし…サフランないからピラフでいい?」
智美の顔がほころんだ。
「先生、いくつ?」
「あ、また先生って言った」
「だって言いやすいから……じゃなくて、いくつ食べる?」
「三つかな……」
「でも火が通ると殻の中で半分くらいになっちゃいますよ?」
「じゃぁ、五つ」
「ワインはわたしが決めていい?」
「いいけど…あんまり飲むとできなくなっちゃいますよ?」
首を傾げて意味を図りかねている表情が抱きつきたくなるほどかわいい。
「だから……エッチ」
耳元にそっと囁いた。
目元がさっと桜色に染まる。
「未成年なんだから…飲むの止めなさい」
智美の目が泳いで、瞳に映った売り場のハロゲン灯が揺れ動いて、流れた。
まるで新婚夫婦のような買い物に時間が経つのを忘れた。

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結局、冷えたブルゴーニュの白を二人で空けて、刻みパセリ、ブラウン・マッシュルームで彩った特大ムール貝のピラフを平らげた。オードブルは冷凍だけどエスカルゴ。オーブンで焼いたもの一ダース。スープはシンプルにエシャロットでコンソメ、サラダはバジルの葉を添えたセロリとニンジンのスティックをマスタードと黒胡椒で。ちょっとした手間をきちんと理解して味わってくれる彼女との食事はとても楽しくて作り甲斐がある。もちろん、エスカルゴの殻を逆さまにして、艶かしい唇でエメラルドグリーンのバターソースを最後の一滴まで味わっている智美を見ているのはとてつもなく幸せだ。

洗って干された小さな白い水着。
二人の水着が窓際の小さなハンガーで夜風に揺れた。
「すごい似合いますね、この水着」
「嬉しいけど……あなたと一緒のとき以外はとてもじゃないけど着れない」
「うん、まぁ、確かに。これ着て誰かと海行ったとか聞いたら三日くらい悩みそうですね」
「たった三日?」
「じゃぁ、一ヶ月」
「大丈夫。自分じゃ恥ずかしくて着れないし……。あなたに着せてもらって、あなたに脱がされないとだめ。ここに置いておこうかな」
智美が悪戯っ子のように笑った。
もちろん、帰り着いてすぐ彼女を浴室に連れ込んだ。
着ているものを脱がし、髪も躰も砂粒一つ残らないように丁寧に洗い上げた。
為すがままの智美は目を閉じてうっとりと身を任せながらも、指先が微妙な場所に達すると羞恥に震え、顔を背けた。ときおり困ったように目がさまよって、自分からは言い出せない望みも今では手にとるようにわかる。泡を洗い流した彼女の前に跪き、肩幅に広げた足の間に顔を差し入れて豊かな尻を腕で抱える。智美は盛んに座らせてと懇願するがもちろん許さない。迸る尿が顔を熱く濡らし、狭く小さな密室に濃厚な匂いが立ち込めると、羞恥に震えた智美がシャワーを全開にした。

そんなシーンを思い出しながら、ゆるりとした空気に身を浸し、休日の夜の幸福感を素直に受け入れる。
手を伸ばせば届く距離で、智美は作りだけはしっかりしている黒テーブルに肘を突いて昼間撮った写真をデジカメの背面の液晶で確認していた。見せてと言っても身体を盾にして逃げ回る。だんだんとコマを送るペースが早くなって、顔が赤らんだ。
「ちゃんと撮れてます?」
ちらりと目を向けた彼女の視線が慌てて元に戻る。
「ちょっと…その……凄すぎて最後まで見てない」
最初、カメラを手渡され、撮ってというものだから水着姿を撮って欲しいのかと思ったら、そうではなくて、二人で一緒に写っているものが欲しかったらしい。
三脚もないし、代わりになるような適当な高さの台もないしカメラの固定に苦労したが、パラソルやら車から持ち出した工具や脚立を使って何とかしのいだ。
二人で手を突き出してVサイン? という提案はもちろん一笑に付された。
「そういうのもいいけど…そうじゃなくて……、もっとこう…いかにも恋人って感じの…寄り添ったりして、優しく手とか回してるの」
「そういうのたくさんあるでしょ」
「そ、そうかな……もっと欲しい」
「手、回しておっぱい揉んでもいいの?」
「う、うん」
「パンツに手入れてるところは?」
「そ、それもいい」
「それから?」
「それからって……言えない……」

「最後はどうすればいい?」
「わ、わたしの中に入って、射精してるところを…ちゃんと撮って」
無駄な操作に邪魔されたくないから、10秒ピッチの連写モードにして、自動的にシャッターを切り続けるカメラの前で二人は濃密な恋人を演じた。

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「なに? その壁紙」
智美が笑い転げた。
『慎みと悟りはまたあなたを遊女から救い、言葉の巧みな淫らな女から救う』
聖書の文句だ。一応15秒ごとにランダムに敬虔で慈愛に満ちたありがたいお言葉がテロップ表示されるという仕組みだ。
気づいたのは二週間前。
サーバのログイン記録を見れば誰がいつどこからログインしたかは一目瞭然だ。ありえない時間に自分がすぐ脇の端末からログインしている記録を眺めて壁紙だけは変更しておいた。このところ頻繁にやって来る新たな訪問者に対する礼儀というか、身嗜みのようなものだ。そのうち『般若心経』にでも変えたら喜ばれるかもしれない。
『遊女のくちびるは蜜をしたたらせ、その言葉は油よりもなめらかである』
「今一だね。お、これはいいでしょ」
『彼女は愛らしい雌鹿、美しい鹿のようだ。いつも、その乳房をもって満足し、その愛をもって常に喜べ』
デジカメを受け取ってデータをパソコンに転送した。
この方が画面も大きいし、色もずっと良い。
「お、かわいい。でも、ビデオの方がよかったんじゃないですか?」
画面を最大にしてフルオートにして画像を送りはじめる。3秒ごとに画像が切り替わり、智美の肌の面積が少しづつ広がっていった。
「ビデオは生々しすぎるし…声が入っちゃうから恥ずかしくて観れない……。もう! だめ! 後で一人のときに観なさい、ね!」
画面から強引に首を捻じ曲げられて口が合わさった。
横目で見ていると二人が映ったビューアが一瞬の操作で閉じられた。熱い躰が押し付けられて、舌がねっとりと絡み合う。
「CDに焼かなくていいんですか?」
ようやく言葉が出た。
「あとで。その前に…作り替えるの。もう一年経ったから……」
意味がわからなくて智美の顔をまじまじと見詰めた。
「前に渡したお守り……」
「えっ?」
「普通は有効期限は一年でしょ?」

二年前、まだ高校生の頃、あれはちょうど梅雨時だったと思う。智美の陰毛を欲しがったら、彼女がそれをお守りにしてくれた。
指に絡めて抜いた10本ほどの細く柔らかな陰毛を小さな和紙に包んで、青い小さな布袋に入れて縫い合わせ、鮮やかなオレンジ色の紐を隅に通してくれた。定期入れにぴったりの大きさと薄さ。使っていたパスも変わり、年月が染み付いて青はくすみ、オレンジは精彩を失ったが、結局そのまま、今でも大事に持っている。
あれは……卒業式の頃か。パスを覗いた菊川あけみに、一度だけ「これ何?」と訊かれたことを懐かしく思い出した。いかにも手縫いの縫い目と何の表示もない表裏。不審に思われたことは間違いなかった。そして、この街を発つ日、駅まで見送りに来た彼女から手渡された、学業成就と無病息災を兼ねたというお守りはやはり彼女手作りのものだった。智美よりは少し目の詰んだ縫い目を眺めながら指で中身の感触を探ったけれど、もちろんなんだかわからない。「何が入っているの?」と訊いても彼女は教えてくれず、ただ顔を赤くして「開けたらご利益なくなっちゃうから絶対見ちゃだめ」といって、背伸びをしてキスをした。

今は免許証やICカードになっている学生証を入れているパスから彼女のお守りを取り出して、差し出された美しい手の平に載せた。
「代わりはくれないんですか?」
「欲しい?」
悪戯っぽく目が笑うと傍らのバッグから小さなポシェットを取り出した。
「袋は作ってあるから、後は縫うだけ」
取り出された小さな布袋は四角いものと丸いもの、深い青と濃いオレンジ色が一つづつあった。
「四角いのはパス用で、丸いのは携帯のストラップにつけて」
「中身は?」
智美の顔が真っ赤になった。

黒光りするテーブルに広げた二枚の小さな和紙に、長目に刈り取られた智美の躰の一部だったものが少しづつ積み重なった。粉雪のような淡い濃淡に漉かれた純白の紙に、ウェーブした漆黒の細毛がふわりと柔らかなカーブを描く。考えていたような山ができる前に、鋏で刈るものがなくなった。
智美の細い指先が器用に動いて、袋の大きさにぴったり合わせて一枚を折り畳み、一枚を丸く球形に絞った。コンパクトな携帯裁縫セットを開けて、瞳を寄せて糸を針穴に通す表情がたまらなく可愛い。全体のかたちを整えながら、手早く開いた口を縫い合わせ、ストラップをつけてしまえば出来上がり。以前のものより、ふっくらとした手触りが柔らかく温かかった。

智美が針を仕舞い終えるのを待って、剥き出しの下半身に手を這わした。
もともと狭い面積から無理やり収穫したから、茂みはところどころ地肌が剥き出しになって無残な状態を晒していた。
「うわっ。まだら。ちょっと、みっともないかな」
覗き込んだ智美が顔を赤らめて、情けない声を上げた。
確かに長さがまちまちで、濃淡が変わって見える。
「どうしよう。剃っちゃおうかな……」
消え入りそうな声と濡れた目が訴えた。
「いいんですか?」
「べつに…かまわない…人に見せるわけじゃないし。それに……」
真っ赤になって目を逸らせた智美に先を促した。
「それに…あなたにされれば、全部あなたの女になったって感じがするし」

テーブルに横臥させて大きく広げた智美の股間を明かりに晒した。
膝を立てて、目の前に自然と性器が広がる姿勢をとらせた。恥ずかしがって秘部を覆った両手を無情に引き剥がす。ミルクのような白い肌を背景に躊躇いがちに優しい桃色が花を広げた。
元々、薄く密度が低い。柔らかく細めでウェーブも緩いから地肌が透けて見える。盛り上がった恥骨の丘から肉の割れ目に達するあたりまでが範囲で、裂け目の両岸から肛門に至る部分には毛穴すらないすべすべの肌がしっとりと広がっている。丘の上の横への広がりもほとんどなくて煙るような薄墨色が肌の合わせ目に小さな陰を落とすのが精一杯。皮膚から僅かにはみ出した優しい肉付きの小陰唇を隠し保護する役にはまったく立っていない。

シェービング・クリームを塗りつけると腰が小刻みに震えた。
「動かないで……大事なところだから」
細心の注意を払って剃刀の刃を当てた。
たいした手間も掛からずに、あっという間にまだらが消えた。
下から現れた皮膚は白くつるつるで、頬擦りしたくなるほど清潔で可愛らしい。
剃刀を置いて、濡らしたタオルでクリームと剃った毛を丁寧に拭き取った。剃り残しがないことを確認して、智美の地肌に傷をつけていないか目を皿のようにして確認する。
「もういいでしょ?」
羞恥が燃え上がって閉じようとする膝を押さえた。
鮮やかなピンク色の舟の内側が光を反射して白く光った。
「何? まだ変?」
「変ですよ。もの凄く」
真っ赤に染まった智美の顔が屈辱に歪んで、起き上がろうと肘を立てた。
「触ってもいないのに…もう汁が溢れちゃってる」

「きれいですね」
「きれいじゃないよ。恥ずかしい〜。こんな明るいところで」
「すいません。オレのためにこんな風にさせちゃって」
「え? あ、それはいいの。わたしがそうしたかったの」
「そんな風に言われるとなんか嬉しくて…ちょっと感動しちゃいます」
「そう? わたしも嬉しい。だから…ね…ねぇ、写真撮ってもいいよ…カメラ……」
「どうしたんですか? 今日はずいぶんエッチですね」
「エッチな女は嫌い?」
「エッチでもエッチじゃなくても先生は大好きです。今度はどういう風にとるんですか?」
「ま、任せる。好きなように撮って」

「笑って」
M字型に足を広げたまま膝を抱かせたポーズ。小さく折り畳まれた躰が武骨な黒いテーブルにことさら映える。完全に広がって、影一つなくあからさまな陰唇が優しいピンク色に染まって妖しく息づいている。真っ白な大陰唇の肌に咲いた開ききらない美しい花。
「陰唇を指で広げて」
白く細い指先が鮮明な小陰唇に掛かって左右に広げた。中の複雑な構造が露わになってきらきらと濡れた粘液が光を反射した。溢れた透明な体液が既に僅かに色濃く沈んだ肛門をしっとりと濡らしている。
「今度はクリトリスが見えるように剥いて」
既に鮮明な桃色の頭が飛び出ている襞を智美の指が更に引き分けた。透明な液体を身に纏い、膨らんで勃起した突起の頭がぬらぬらと光る。
「そのまま動かしてごらん」
肛門と膣が締まると小陰唇が震えるようにヒクヒク動く。艶かしい智美の匂いが立ち上る。
別の生き物のようにいやらしい動作をして、ふるふると粘液を垂れ流していても、智美の清楚な芳しさは何一つ変わらない。いや、むしろ、咽返るような女らしさや柔らかさが硬質な透明感と同居して周囲の空気を華やかな色に染め上げる。
「ねぇ、先生。ほんとは剃られたところ写真に撮って欲しかったの?」
「知らない、知らない」
彼女は顔を背けて首を振る。
「はい、こっち見て。にっこり笑ったところ撮りたいな」
広げた性器、乳房、すべてを露わにした上に智美の羞恥に歪んだ顔が向き直り、一瞬泣きそうになって、首を傾げた口元に白い歯が覗いた。
「あとは…どうしようかな」
「ねぇ…一緒に撮ろうよ」
「一緒って? どういうの?」
「後ろから抱きかかえて……」
カメラをテーブルの向かい、食器棚に置いてセルフにセットする。
テーブルに座った智美の背後に立って、弾む乳房を持ち上げるように抱きしめた。
フラッシュの発光間隔に合わせて躰を開く。あられもない大股開きの股間で子供のような性器から溢れた蜜がきらきらと光って滴った。左右の指でぬめる陰唇を大きく開くと、智美の顔が羞恥に歪んだ。
「こんな感じでいいの?」
目を閉じた智美が頷いた。
陰唇を広げたまま、左右の人差し指で剥き出しの突起を押し上げるようにこする。同時に眉をしかめた智美の口から甲高い喘ぎが漏れる。
「ちょっと、待って……トイレ」
「さっき行きましたよ」
「だって…エッチしてるときに出ちゃったら困るから……」
デジカメは勝手にシャッターを切り続け、指先は愛撫を止めない。
「たくさん?」
僅かに首が振られて否定の意志が示される。
彼女はとても身嗜みが良くて、車に乗る前や寝る前には水分を控えて予めトイレに行くタイプなのだ。エッチのときも実際には出ないけれどおしっこが出ちゃいそうになることがあるらしく、それは物理的な刺激を受けるからだろうが、とても気になるし、気になりはじめると集中できないから先に行っておきたいらしい。
「じゃぁ、面倒だからここでいいですよ」
「うそ! だめだってば! 汚れちゃう」
「缶ビール倒したり、水こぼすのと同じでしょ」
「ち〜が〜う〜」
滴ったものは雑巾で拭けばいいだろう。
「でも…この先このテーブルで食事するたびに思い出しますよ」
その言葉が智美の気持ちを大きく動かしたように思えた。
ついこの間、このテーブルで夕実を桃で犯したことは今でも鮮明な記憶となって焼き付いている。

智美に行為を促した。
「やっぱりでない……」
目が合わせられないほどの羞恥を消すために、そっと唇を合わせた。
すぐに熱烈な舌の動きが寛の口を襲う。
髪を優しく梳いてやると、蚊の鳴くような声が耳元で聞こえた。
「ほんとにいいの? だって…ご飯食べるところだよ?」
「気にしないで……。智美のおしっこ見たい」
広がった足をレンズに向けて更に押し広げた。
「出ちゃうよ?」
泣きそうな声。
「終わったら智美の…口できれいにしてあげる」
掴まれた腕にきゅっと力がこもると同時に、光に晒されて盛り上がった真っ白な丘の先、剥き出しの陰唇から微かな音と共に小さな噴水が上がった。
噴きあがった液体がちょろちょろと黒いテーブルに滴って、範囲を広げる。指を伸ばして小陰唇を広げると噴水の角度と高さが変わった。勢いは智美が言う通りあまりない。
噴水の頂でちろちろ輝いていた光の粒がすとんと落ちて静寂が戻った。
智美が臭いを気にしないように、広がった池をさっと乾いた布切れで覆いつくした。
寛は泣きそうな顔をして恥らっている智美の股間に顔を埋め、陰唇を唇で挟んで体液とおしっこの混じった液体を一滴も残さずに啜りはじめた。

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その夜の智美は単なる快楽とは違う、一際深い官能の波にうねり、堪え切れぬ快楽を抱えたまま澱みに深く潜み、早瀬を怒涛のように流れ暴れた。
その艶かしく美しい肉体のすべてを使い、すべてを与え、すべてを受け入れた。
肢体は奔放にあられもなく極限まで開かれて、意味と無意味、意識と無意識を彷徨うようにありとあらゆる言葉が漏れ、詠い、叫んだ。
上になっても下になっても、声が途切れることなく喚き、騒ぎ、跳ねのたうった。
二人の汗と体液でお互いの肌を濡らしながら、深く押し入った躰の奥を締め付け、貪り、犯した。
どれだけの時間が経ったのだろう。
寛は大きさと固さを維持したまま、夢に囚われたように智美のなかに没入しつづけた。
いつしか夜が白み始め、薄く開けた網戸から囁くような川の流れが忍び込んで、貪り合う二人をまだ見ぬ夢へと流しはじめた。おそらく、永遠に向けて。
ひたひたと押し寄せる温かなぬめりに、堪え切れなくなった寛が最後の精を余すところなく怒涛のように解き放ったとき、落ちていく意識の先で、二人は躰を合わせたまま底流のように絶え間ない川の流れに沈み込んで、二人を包んでいたすべての音が消えた。

挿絵52

『空の青 8月(2)』

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食事を終えて通りに出ると夏の午後の熱気が渦巻いた。
強烈な光のコントラストと乾いた風。蒸し暑くはないから腕を組んでいても気にならない。
智美は淡い白のシルクのノースリーブに黒のミニ、パンプスの踵が高いからいつもより顔がずっと近い。寛は左腕に彼女のジャケットを抱え、右腕をすべて智美に与えた。

カップルや家族連れが行き交う市内随一の目抜き通り。
人目を憚らなければならなかった頃を含め、少なくとも昼間はただの一度も二人で歩いたことはない道。すれ違う人、追い越していく人の視線が必ずといっていいほど智美に注がれる。
そんな露骨な視線を浴びても、見知った顔に出会うことを警戒してきた日々が嘘のように、智美は気にも留めなかった。
怯えていた自分が馬鹿らしくなって、寛はわざとらしくゆっくりと見せつけるように歩きはじめた。堂々と腕を組んで、ときおり腰に手を回して、躰を密着させると彼女の目元が柔らかく染まる。
抜けるような青空の下、街路樹、レンガの舗石、ショーウィンドウ、看板、カフェの真っ白なテーブル、そして色とりどりの人波。
愉しそうに腕をとってあちこち引き摺りまわす智美を見て、寛は長い間に渡って普通の楽しみを与えてやれなかった自分の不甲斐なさを恥じた。
見上げた空から降り注ぐ光。アスファルトに含まれた石英がダイヤの粒のようにきらきらと目を貫く。
昼食を摂った高そうなレストランで飲んだ、怖くて値段が訊けないシャトー・マルゴーが効いている。ひんやりとエアコンの効いたガラス張りの箱。サーモンピンクの唇に滲んだオリーブオイル。くるくる回る智美の黒い瞳と白い喉。柔らかいベージュのテーブルクロスと薄緑の冷製スープ。濃厚で豊潤な血の色のワイン……。
……血の……。あれ? ……。
「どうしたの? 大丈夫?」
街路樹の陰に入って小さな赤いベンチに座らされたとき、顔の前を風が透き通って流れた。
心配そうに覗き込む智美の顔。
額、頬にあてられた手が冷たくてうっとりするほど気持ちよかった。

左の頬に冷たい感触。智美が買ってきたペットボトルの水を貪るように飲んだ。
「すいません。軽い脱水症状。5分で回復します」
「寄り掛かりなさい」
隣に座った智美に抱えられて差し出された腕に体重を預けた。
ひんやりした滑らかな腕、柔らかな胸、透き通るような甘い匂い。雑踏のなかでの至福。
視線は気にならなくなった。子供のように抱えられ、優しく頭を撫でられて智美の背に腕を廻した。
寛はゆっくりと目を閉じた。

目を閉じたときと同じようにそこに智美がいた。
彼女の匂いを肺いっぱいに吸い込むと、脳に酸素が行き渡るようにすっきりと目が醒めた。
「大丈夫? 疲れたのかな」
智美の目が真上から覗き込んで、顔色を見極めようと目を凝らした。
ゆっくりと身体を起こす。
じろじろと注がれる視線。道行く人の注目の的になっていたらしい。
そんな周囲には目もくれず、智美の真剣な眼差しが顔に注がれて、やがて笑顔に変わった。
抱きかかえてくれていたせいだろう。寛は手を伸ばし、乱れた智美のミニスカートの裾を引っ張って整えた。
「もう復活したから…ありがとう、気持ちよかった……」
「わたしのせい? かな……」
「どうして?」
「だって……金曜からもう七、八回もしてるから…だって、その、男の人って消耗するんでしょ?」
「数えてたんですか? じゃぁ、今日はまだ一度もしてないせい」
智美の頬に軽くキスすると顔がぽっと染まった。

さっきよりもゆっくりと歩き出した。
智美はもう腕を引っ張ったりせず、ぴったり寄り添って頭を肩に寄せて、ときおり心配そうな目で寛を見る。
「そこ、通りを渡ってあっち」
渡りきったところで彼女が手を上げた。
車体の側面いっぱいに和菓子屋のロゴを付けたタクシーがブレーキを軋ませて、停まりきらない内にドアが開いた。
「県立美術館」
智美が軽やかに告げた。
普段ならタクシーで行く距離でもなかったが、気を利かせてくれたのだろう。
メインストリートを西に向かい、広ノ川を越えればすぐに平べったい建物が見えてくる。高校時代に何度か来たことはあるが、目の前の大学に通うようになってからは近すぎて一度も来ていない。車寄せでタクシーを降りて、巨大な石張りのエントランスホールに入ると空気がすっと硬く冷たく冴えた。
「チケット、買ってきますよ」
常設展の券売機に向かおうとすると引き止められた。
「あるの。こっち」
手を引かれて隣のホールに廻ると、閑散としたエントランスが嘘のように賑やかになった。
智美の目的は特別展のほうらしい。さっさと受付を済ませてゲートをくぐってはじめて探していたものが目に入った。
《耽美と憂愁 ―― 佐竹恒夫の世界》
一見、派手な色彩と植物的な曲線。手を繋いだまま隣を歩く智美の手を軽く握った。
傾げた首が可愛らしくて思わず肩を抱きたくなるがこらえた。
「あら、わからない?」
智美の黒目が愉しそうに笑っている。
近くに掛けられた作品をざっと見渡す。記憶の底の微かな棘。ちりちりとした刺激。
「美・術・室」
「ああ……、ええ〜!?」
ようやくわかって、驚いた。
「佐竹って…あの……爺さんですよね? えぇ?! こういうメジャーな人だったんですか? えぇ〜!?」
馬はあったような思い出があるが、枯れた、ただの隠居ジジイだと……。
いや、ちがう。そんなことはない。エッチング……。忘れもしない。見ていて欲しくなって、夕実を描かせた……出来は信じられないくらい凄かった……。

展示は年代順に、若い頃の作品から順番に並んでいるようだ。特別展の会場すべてを使い切っているようで部屋がいくつかに分かれている。順路に従って智美と一緒にゆっくりと巡っていく。見覚えがある作品に目が止まる。準備室の入って左側の…壁に掛けられていたもの? ……振り向いた智美の目が少し潤んでいるような気がした。
「わたし…あなたがいない去年一年、けっこう佐竹先生のエッチング見に行ってたの」
「美術室に?」
「そう。お茶いれてもらって…話とかしてたの」
思いもかけなかった繋がりを聞いて寛は半分驚いて、半分納得した。
「あなたの話も聞いた。人の気も知らず、入り浸ってたんでしょ」
寛が手先に力を込めると、彼女も握り返してきた。

《夕実》がいた。
あのときの、ぞくりとするほど妖艶で、魅力的な空気が一気に甦る。
人を描くのは久しぶりだと言っていた、あの《夕実》。
制服の胸元を少しだけはだけ、赤いタイと唇の赤があまりにも鮮烈だ。
慌てて智美を見やるが、彼女の夕実を見る目付きはことのほか優しくて、柔和ですらある。
「きれいね。羨ましいくらい」
どう応えるべきか寛は戸惑った。
「あなたが彼女を好きになるの、よくわかる」
ますます、答えようがない。後ろに列ができていた。
智美に腕をとられて、次に進んだ。

日曜日というせいもあるだろうが、盛況だ。
作品量もかなり多いが、それ以上に人が多い。気さくで上品な、説教臭くない爺さんだったが、ここまでの人とは正直考えたこともなかったから、寛は自分のイメージと現実の差に面食らっていた。先に進むにしたがって、人の流れが悪くなる。ときどき逆行してくる人もいるが、所々に仏像のように座っている監視員のバイトは目もくれない。
智美は真剣な表情で、作品を丹念に見ていた。
そんな智美に半分見蕩れながら寄り添っていると、ときおり不躾な視線が注がれる。
多くの作品は抽象的で地味な色彩だ。エッチング特有の細密さと柔らかさを生かしたモチーフで、たまに多色摺りの作品があると花が咲いたように人が群れていた。

最後の部屋で様相が一変した。ここが混んでいて人の流れが悪かったようだ。
混雑に悪態をつきながらも、最初のコーナーに掲げられた額を真正面に見たとき、寛は凍りついた。
『5月』と題された多色摺り、今までのものよりもかなり大きい。
そして、なによりも華やかだった。
萌える緑を背景にしたリアルな人物は、どう見ても智美にしか見えなかった。
ぴったりと寄り添った智美が躰を伸ばして耳元に囁いた。
「わたし」
思わず額と智美の顔を見比べてしまう。
ほんのりと染まった目元が薔薇色に華やいだ。

少しづつ季節が進みながら、何枚もの、何十枚ものエッチング、すべてが同じモデル、すべてが智美だった。
初夏のぎこちないポーズから固さがとれて、柔らかくしなり、やがて、放恣に、大胆に姿を変える。堅いスーツが柔らかいブラウスになり、躰の線が露わなシャツに変わった。シュルエットを殺したパンツルックがワンピースに変わり、やがて少しづつ裾が上がり、艶かしい膝が、腿の肌が露出した。頭の中にある予感が生まれた。聡明で健気な真面目さがウィットと憂いを含み、やがて突き上げるような高揚と艶やかさに包まれた。
どの作品も、溢れんばかりの魅力と花を散らした匂い立つような美しさが二次元の画面に定着されて、微笑んでいた。

部屋がざわついていた。
二人の周囲にはっきりと人垣が出来ていた。
遠慮のない視線が智美に注がれて、感嘆と興味本位な言葉が飛び交った。
そんな騒ぎをまるで他人事のように、彼女は気にも留めずに作品に見入っていた。
寛は智美の腰をぐっと抱き寄せた。
他人を無視して歩き出す。
携帯カメラだろう。室内は撮影禁止のはずなのに、ときおり光がちらついた。
壁の反対側が最後のコーナーだった。
真正面に廻った智美が抱きつくように寛を見上げ、言った。
「わたしが頼んだの。でも佐竹先生は指一本触れてないから……」
掲げられた数枚の、一際大きい画面いっぱいに、見事な姿で咲き誇る花。
そのエッチングを見れば寛にもそれぐらいはわかった。
何一つ身に着けていないヌードの智美。
何一つ隠さずに、すべてをさらけ出しながら、それでいて気高く、誇り高い。
引くことも、足すことも出来ない完璧なかたち。
言葉を越えた透明で硬質な美しさ。
寛ははちきれんばかりに勃起した。
「キスして」
唇がわななくと、智美の黒目が潤んで……閉じた。
瞼の外側で星が瞬くように一斉にフラッシュが光った。

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招かれた座敷は建物の西側に面して、窓の外の植え込みの向こうに夕陽に赤く染まった広ノ川の湾曲する流れと、対岸の丘陵が額縁に嵌った絵のように見えていた。
風呂に漬かり、ゆったりと時間をかけて夕食を食べ終わっても寛の気分は高揚したまま軽い興奮状態にあった。
寛は頭を冷やそうと縁側に座り、よく手入れされた庭を眺めていた。

智美は座敷に座って、佐竹と差し向かいで楽しそうに談笑していた。佐竹は記憶の中の姿かたちより一回り小さくなったような気がしたが、公平な目付きと気さくな雰囲気は変わらなかった。一方で、見慣れているはずの智美はなまめかし過ぎた。その髪をまとめた浴衣姿を見ているだけで躰の一点に血が集中してしまう。一度囚われると、振り払っても振り払っても、息苦しいまでに意識が集中して逃れられない。
寛は思い切って立ち上がった。
「あの、庭……見てきていいですか?」
二人の会話に遠慮がちに割り込んだ。

智美に「池に落ちないでね」と言われ、ちょっと凹んだが、縁側にあった下駄を突っかけて、飛び石を伝った。
庭先の断崖の下から吹き上がる川風が気持ちよく頬に当たった。
佐竹邸の庭は先ほど入ってきた門側からは想像も出来ないほど奥に広かった。自然の起伏を巧みに生かした作庭で借景になる欅の大木が暮れはじめた藍色の空に黒々とそびえ立っていた。甘い花の匂いが絡みつく。断末魔のような夕陽が庭石を真っ赤に燃え上がらせ、色を失いはじめた芝が小さな炎を上げてちろちろと舐めるように輝いた。

半分だけ空の群青に染まった方形の池。鏡のような水面に睡蓮の葉が浮かび、既に閉じた花弁は明朝また咲くのだろうか。池の縁の石に当たった下駄が乾いた音を立てた。 芝を貼った柔らかな斜面を庭園灯の銀色の光が浮かび上がらす。智美のウエストから尻に至る曲線のような柔らかさ。昼間、美術館で見たエッチングのなかの可憐さと艶かしさがちらちらと脳裡を掠める。
自分から頼んだ? 自分から脱いだのだろうか? あんな大胆なポーズ……。
指一本触れていない……というのは事実だろうが……。
不意に智美が浴衣の下に何も着けていないことを思い出して、浴衣の前がテントを張ったように持ち上がった。
佐竹に嫉妬している自分に気がついて、頭を冷やしに来たのがとんだ逆効果になったと自嘲した。
身体の力をすべて抜いて、暮れた藍色の空を仰ぎ見た。梢の上にはぽっかりと孤独に満月が浮いていた。

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「今日、こちらに来る前に……彼と二人で見てきました」
茶を一口含んだ佐竹の目がすっと細くなり、松崎の表情を捉えた。
「奥様を描かれたものも拝見しました」
「いや、お恥ずかしい。あれは20代の頃のもので、出来が悪く気が進まなかったのですが、企画側が是非にでもと……」
「とても良いものだと思いました。それに…奥様、きれいな方でした」
「いやいや。いちばん混んでいたのはあなたを描かせていただいたコーナーだったでしょう? 皆、見る目は同じですよ」
松崎は顔を赤らめて俯いた。
「でも、よろしいんでしょうか……。この浴衣、わたしが着てしまって。絵のものと柄が同じですよね」
佐竹の相好が崩れた。
「いえいえ。あなたに着て欲しかったのですよ。だから無理を言って香津子に用意させました。勝手なようですが、こうしてあなたを見ていると、あの頃のことが目の前に浮かびます。詰まらないことにつき合わせて申し訳ないですが……」
「いえ。散々、御世話になってますし。わたしにできることでしたら」
開け放した障子から夜気が流れ込み、低くくぐもった流れの音が夜の底から湧きあがった。

「彼には話をしましたか?」
残照と冷たい月の光がせめぎ合う夏の暮れ色を眺めながら、松崎は小さく首を振った。
「わかって……くれると思います」
寝倉に還る鳥の声が甲高く空気を引き裂いた。
「決意は変わりませんか?」
「はい」
松崎の凛と響いた声が月夜の底の静寂にしっとりと沈んだ。

庭先でカランと下駄の音がした。
寛を一瞥した佐竹が頷いた。
「ではまいりましょうか」
きびきびとした所作で次の間の襖を両手で引き開けた。
薄暗い部屋の中央。衣桁に掛けられた見事な白絹が艶やかに輝いた。
その白絹の上掛けを小脇に抱えると、佐竹は先に立って、裸足のまま縁側を下りて庭の飛び石を伝った。
迷わず智美がそのあとに続いた。
縁側の縁で一度だけ振り向いた智美が躊躇している寛を見詰めた。
その視線に吸い込まれるように寛が向き直ると、智美の長い睫毛が安心したように合わさって裸足のまま佐竹の後を追いはじめた。
老人はまっすぐに築山を越え、庭の中央のきれいに刈り込まれた芝の上に立って真上を見上げていた。
暮れ落ちた藍色の天空には冴えた満月が零れ落ちそうに貼りついていた。
ちょうどその真下に純白の絹が方形に広げられて、滑らかな生地に柔らかく銀色の光が波打つように揺れた。その傍らの楓の木陰に予め置かれた小さなイーゼルの脇に立った佐竹が、智美とその隣で訝しげな顔を向けている寛を見据えた。

満月から降り注ぐ光がすでに黒い影に包まれた植え込みを背景に二人を白く浮かび上がらせた。
一歩前に進み出た松崎が軽く頭を下げた。
「お願いします」
頷いた佐竹の目が柔らかく光った。

「着ているものを脱ぎなさい」
「はい」
幽かな声が明るい夜の底に響いた。
真夏の夜気のなかで松崎の手がしなやかに、正確に動いた。
帯を解き、濃い藍の浴衣の胸元が少しづつ白く広がって、それにつれて細く長い指が絡まるように下がっていった。割れた前を躊躇いもなく開くと解放された柔らかな形が夜目に白く輝いた。
つんと硬く張った豊かな乳房の頂上に鮮やかに染まった乳首が膨らんでいた。肩は細くしなやかにその量感を支え、強くすぼまったウエストは柔らかく広がった腰に続いていた。滑らかに収束する下腹は覆い隠すもの一つなく、ふっくらと盛り上がった白い肌が僅かに震えていた。その奥でこぼれた月明かりに陰を作った割れた肉襞が息づいていた。
白絹の端に丁寧に畳んだ浴衣を置いて、中央に戻ったあまりにも白く輝く裸身を佐竹の目が真正面に据え、頷いた。
「昨夜、彼にお守りを作って……ちょっと変ですが……でも、この方がその、はっきりと描いていただけて良いかなって……」
躰の両側で握り締めた手が羞恥に震えた。
「美しい躰をしている。乳の張りも見事だし、腰の張りも、尻も豊かでかたち良い。ほとのふくらみも清潔で熟れたあけびのように見える」
松崎が照れたように少し俯いた。
「この男が好きか」
「はい」
自信と明快な響きが静寂に響いた。
「ここに来て彼を迎えなさい」
老人は白く輝く敷き布の中央を指し示した。
躊躇いながら松崎がおずおずと歩を進め、敷物の中央で満月に対峙するように真上を向いて小さな舟のように横たわった。
豊かに流れた黒髪のなかの小さく整った顔。匂い立つような花やかさ。震えた目がきつく閉じられた。
寛は佐竹の言われたままになる智美を、その夢のような光景を唖然と眺めていた。

「膝を立てなさい」
きつく閉じられていた松崎の膝が滑らかに動く。
「そのまま躰を広げなさい」
ぎこちなく自らの両の細い足首を掴んだ松崎が月に掲げるように足を押し開く。足が高く持ち上がるにつれて、否応なく下腹が割れて薄赤く染まった襞が露わになる。天に掲げた足と手が伸びきって、何も隠すものがない股間を満月の光が割った。垂直に差し込む光が陰唇の奥を隅々まで照らし、溢れ出た液が白い皮膚をしとどに濡らし、光らせた。
「さぁ、おまえも着ているものを脱ぎなさい」
呆然と木偶の棒のように突っ立っている寛に老人が向き直った。
寛は慌てて浴衣を脱ぎ捨てた。慌てすぎて下着を脱ぐときにつんのめってしまうくらいだった。
夏の花やいだ夜気のなかで寛のものはすでにたぎるほどにそそり立っていた。
下から見上げた松崎の目が潤んだ。
「この女が好きか」
「は、はい。もちろん」
「この女がいとしいか」
「はい」
「よし。ではおまえの全霊と全身でこの女を慈しめ。おまえのすべてでこの女を愛せ」

足首の間から覗いた松崎の顔が歪んだ。
真上を向いて盛り上がった乳房が僅かに震えると、口元が微かに泣くように動いた。
「来て! 寛」
長い余韻が明るい夜に響き、馨しい草の匂いが立ち上って二人の躰がひとつに合わさった。送り込まれた性器が松崎の躰に根元まで没し、あふれ出た液体が白い皮膚を滑らかに濡らして交合が成った。
白くうねる光のなかで、松崎は放恣で奔放な姿を惜しげもなく晒した。細くしなった首筋から豊かに震える乳房、くびれた腰からたわわに実った尻を突き上げて、隠すもののない柔肌を剥き出しにして性器を大きく広げて暴れ喚いた。あらゆるかたちで寛に貫かれ、歓喜に震え、叫び貪る。

寛もそれに応えた。持てるすべての力と強靭な筋力で松崎を抱え、締め付け、嬲り、蹂躙して、犯した。口を、膣を、肛門を、松崎のすべての凹なる部分をその若い生命力で押え込み、貫き、躍動した。乳房を、尻を、腰を、頭を、そのすべての凸なる部分を抱え、掴み、揉みしだき、慈しんだ。
獣のような歓喜の声が喉から溢れ、お互いの体液が生臭く立ち昇り、絡み合った複雑な陰影を舐めるように月光が包み込んだ。二人の躰が生暖かく濡れて光の粒が裸身を包み込み、絶え間のない絶頂に震えもがいた。夜の大気がわななき、大地の底から生気の合唱が湧き上がる。

その光景を打って変わった厳しさと冷徹な視線で見据え、手に鉛筆を取り上げて、佐竹はゆっくりとイーゼルに向き直った。一度だけ満月を見上げ、やがて研ぎ澄ました鉛筆が紙を走る音が歓喜の合間に微かに聞こえはじめた。

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ひんやりと躰を包む朝の空気に目が醒めた。
すぐ隣で寄り添うようにして寝ている彼の微かな寝息に耳を立てる。
彼の手の平にすっぽりと嵌っている手首から、温かい体温と強く脈打つ動悸が伝わった。どうやってこの部屋に戻ってきたのかまったく記憶がないことに気がついて顔が火照った。
彼を起こさないようにそっと布団から出て、手早く身支度を整える。
少しだけ迷って彼の着ていたジャケットとスラックスをハンガーケースに入れ替えた。
代わりに昨日借りて洗濯しようと持ってきたシャツとショートパンツをバッグから取り出して枕元に揃えた。

思い立ってメモを一枚破いた。
一瞬迷って、ペンは流れるように動いた。
《寛、よく寝ているから先に行きます。布団、ちゃんと畳まないとだめよ。  智美》

彼の枕元に跪いて剥き出しの肩にタオルケットを引き上げた。抱きついてめちゃくちゃにしてやりたい、されたい欲望に翻弄されながらも、頭の一点は醒めて動かしようのない平衡感に支配されていた。
寝息を立てている頬にそっと顔を近づけて口を触れた。
振り切るように立ち上がって、後を振り返らずに障子を閉めた。

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門を出ると気の早い蝉が鳴きはじめた。
今日も暑くなりそうだ。
8月の朝の晴れ渡った清々しさのなかに、智美は一歩踏み出した。

『空の青 5−2』(続く)

作成日:2006/06/18 最終更新日:2006/06/18

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