――また……振り出しに戻った。
さっきから、同じ光景がスローモーションのように何度も何度も繰り返されて……、ぐらぐらする頭、くらげのように力が抜けた手足……。
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さりげなく席をはずす寛。
ああ、やっぱり。…予感が囁いて……トイレに立つ振りをしてそっと跡を追う。倉庫から…駐車場に出て……。こうこうと満月に照らされた白い夜。示し合わせたような合図。凍りつく冷気のなかを……こつこつとヒールの音を響かせて、銀色のコートに身を包んだ女…あけみが小走りに駆け寄ってきた……。仲睦まじく寄り添う二人を……倉庫の暗がりに身を隠し、やり過ごす…目の前を通り過ぎて奥の庭に出ていく二人……。
葉が落ちて陰になりきらない低木の茂み……。当然のように、つま先立ちで背を伸ばしたあけみと包み込むようにその細身の躰を抱いた寛の口が合わさって……。
長い、長いキス。貪るように二人の鼻先が交互に位置を入れ替えて……湿った音がここまで聞こえる……。
――ああ、いやだ。
喉の奥から熱い塊が飛び出しそうになる。それなのに……、彫りの深い寛の頬骨とやさしくなめらかなあけみの横顔に…見蕩れている。
キスをしたまま寛の手がするすると滑ってあけみの前を開く。あまりにも自然に、身を任せきったあけみ。コートの合わせ目からぷるんと飛び出た真っ白な乳房……わたしより小さい乳房も躰が細身だから、びっくりするほど大きく見える。寛の手が、その乳房を掴み、滑り降りた口が乳首を覆い尽くす……。黒尽くめのウエストに白い線が……白い部分がどんどん下へ広がっていく。下着ごと膝までずり下ろされて…あけみの下半身がすっかり露わになって、すっと屈んだ寛があけみの…下半身を抱き締めて……黒い陰毛に高く尖った鼻が埋められた。寛の動きに合わせて、寛の頭を抱いたあけみの両腕が反りかえるように伸びきって…指が寛の髪を掻き毟った……。
突き上げる羨望と嫉妬。噛んだ唇が僅かに切れて、甘ったるいアルコールの残滓に血の味が混じった。
怒りを叩きつけるように、わざと大きな音を立てて廊下のドアを閉めた。
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ふっと意識が引き戻されると途端に、得体の知れない暗いうねりに呑み込まれそうになる。無理やり目を開けて、流されそうになるのを必死で引き留めた。飲み過ぎ……た憶えはないが、頭はぐるぐると渦巻いて思考を拒絶していたし、躰は手足がどう繋がっているのかすらわからないほど感覚が崩壊していた。
「……大丈夫?」
――誰?
眩しさに目が開けられない。
しかめた視界を塞ぐように、陰が見下ろした。
髪が肩からさらりと流れ、逆光の照明に滑らかなウェーブがきらきらと輝いた。
――あ…あけみ?
「取敢えずは……良かった。ほんとに……大丈夫?」
あけみが長い黒髪をかき上げると、美しい輪郭の中央に整いすぎた笑顔が自然に張り付いていた。
「気持ち悪い?」
うー……。記憶がばらばらに甦り、両手で頭を抱えたまま夕実はのろのろと頭を振った。
「水…飲む?」
手を借りて躰を起こすと頭がズキンと疼いた。
喉を通る氷水が冷たすぎて、胃にツララが刺さったようだ。
「…あ…りがとう」
コップを返すとあけみは訳知り顔のお姉さんのように頷いて、少し曖昧に笑った。
「なかなか戻って来ないから見に行ったら……。慌てて止めに入ったけど、みんな殺気立ってて……」
ああ…、今となっては思い出したくもない……。はっとして胸元を覆った毛布の下で躰に手を這わせる。ブラは外れて在らぬ場所にずれているし…自分で外した? スカートはかろうじて穿いているものの、ショーツは……穿いていない……。尻が剥き出しで…着心地が最悪。
ああ……痕がつきそうなほど強い力で…手足を掴まれて、無理矢理広げられて……。躰をまさぐる強引で…乱暴な動き……。頬に掛かった熱さが、口に残る青臭い苦味とともにはっきりと甦った……。
……あけみに…全部見られた?
気まずさが込み上げて、目の焦点が自然とあけみの顔から逸れた。
見慣れた光景……。
ああ…、ここは……。
いつも、破廉恥な声を上げながら、昼夜を問わず、何度も…抱かれ、交わった記憶と臭いが染み付いた佐々川君のベッド……。
瞬間的に跳ねるように振り向いて……壁に掛っているはずのものを――。
探したが、そこに貼り付けられたものは墨色に型押しされた優美な魚類だけだった。
「どうしたの?」
あけみが目を丸くした。
――よかった……。
夕実は胸を撫で下ろした。
つい先日まで、そこにはとても口にはできないポーズをとって、自分にすら説明のできない行為をしている一人の女が痴呆のような笑顔を浮かべていたのだ……。
目を見開いて、横滑りする意識を必死に封じ込めた。
ようやくあけみの表情に焦点が合った。
躰にぴったりフィットした黒いハイネックのセーターにぴっちりとした黒いパンツ。ほっそりと華奢なのに、膨らむべきところはきちんと膨らんで……、肩で切り揃えた黒髪が照明の光に艶々と輝いた。
「ああ…んん…大丈夫…もう」
声が掠れた。
笑い声と甲高い女の嬌声が階下から湧き上がるように響いた。
今夜は――佐々川君の家で忘年会が開かれていた。佐々川君はもちろん、寛に啓子と真佐江、帰省してきた果歩と玲子たちも加わって、青山君や滝沢君、ほかにも総勢で十数人が佐々川家の庭に面した広い座敷で思い思いに騒いでいた。そして、あけみは一人、遅れてやって来たのだった……。
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すっかりアルコールが行き渡った頃、寛には当たり前のように啓子と果歩がべったりと貼り付いていた。黒尽くめのあけみは……、さっきの…短いけれど濃厚な逢瀬なんかまるでなかったような涼しげな顔をして、寛の背後にひっそりと寄り添いながら、啓子と果歩の痴態を呆れたように皮肉な微笑を浮かべて眺めていた。
佐々川君は大はしゃぎの玲子の相手をしながら、酔いが廻ってくったりと寄り掛かってきた真佐江を傍らに受け止めていた。ときどき…交代で、寛と佐々川君が申し訳なさそうに話を振ってくれたが、邪魔が入りすぎで長続きはしなかった。そのことに苛ついて、素直にその輪に加われない妙なプライドを頑なに守って、必然的に浮き上がっている自分に自己嫌悪していた。
「まったく……酷いなぁ。信じられない。夕実にあんなことするなんて……。普段は大人しいくせに、あいつら……」
夕実は再び枕に頭を埋め、冷たい蛍光灯の光の眩しさに耐え切れなくなって目を瞑った。
――そう。予想外。だが、その状況を作り上げたのは……わたし自身だ。
トイレに立って戻って来たものの、なんとなく部屋に入り辛くて、縁側でぐずぐずしていたら……障子の隙間から差し込む明るい照明の光と共に、それが聞こえてきた。
《おっ、見えた…》
《どれどれ。水玉かぁ。いい足し……》
ドタバタと振動が響いて、どっと笑い声が湧き上がった。
ぼそぼそとした低い声の会話は果歩の嬌声でかき消された。
縁側のすぐ近くに陣取っていた4、5人の男子……たぶん青山君たちだろう。
足音を立てないように、その隙間にそっと近づく。
ほんの数センチずれた隙間から、けっこうな範囲が見て取れた。
《おいおい…、黒っぽく透けてるじゃない? あれ、陰毛?》
真佐江のスカートが短くて…無理しまくりで、ちっとも似合ってなくて、弱いくせに勧められるまま飲むもんだから瞑れちゃって、佐々川君にべったり寄りかかって、白地に水色の水玉模様の可愛い下着が丸見えだった。あぶれていた男子達が目ざとくそれを見つけたらしい。
《雅明のやつ、もう戴いちまったのかな? ありゃ、処女だぜ、絶対》
《オレは果歩ちゃんのほうがいいなぁ。太腿のこう、キュートな感じ……パンツ見えねぇかな……》
《ばか。頭下げて下から覗くなよ。何してんだって思われるだろ!》
その果歩は相変わらず見てるほうが恥ずかしくなるくらい寛にべったり。更に啓子が…あんたは今日は我慢しなさいと言わんばかりの態勢で意地悪く夕実の視線を塞いでいた。
《やっぱ、菊川でしょ! 君たち見る目がないなぁ》
《アホ。木南ベッタリでお高く止まっちゃって、口も利いてくれないののどこがいいんだよ?》
《だって…美人じゃん。いい躰してるし……あんなにいい女になるとは思わなかったよ……昔は手繋いで遊んだのになぁ》
《嘘コクなよ。マジかよ? いつの話だよ、それ?》
《幼稚園のころ。家が傍だからさぁ…あの時、唾付けとけばよかった……》
邪魔な果歩と啓子の後ろには、いつもお目付け役のようにあけみがいた。
せっかくいつになくめかしこんで化粧までしてきたのに、寛も佐々川君も社交辞令ばかりで、振り向いてもくれない。
《たわけ! 躰だったら久野だろ。おまえ盲目か? 乳はプルプルだし、ケツはでかいし、色真っ白だろ。ありゃ脱がしたら最高だぜ》
――ぎくりとした。今度はわたし?
《躰はいいけどなぁ、あんなヤリマン・ビッチ、オレはヤダ。高校の頃から木南とやりまくりだろ?》
――ガーン。なんとなく耳に挟んだことはあるが、はっきり聞かされるとやっぱりショックだ。
《ちがうよ。木南がやりまくってたのは菊川じゃねぇの? 久野はそんなことしねえよ》
《はぁ? おまえ、何庇ってんだよ? 今日だってやる気満々って、ムチムチの足見せてるじゃないか……》
《ああ、そうだな。一度でいいからあの女、ヤリまくりたいな! あの白い太腿を押し広げて、滅茶苦茶に犯したいわ》
《そういえば…久野はどうした? さっきまでいたのに……》
《トイレじゃね? さっき、暗〜い目つきで出て行った…》
《今頃、おしっこ終わって、マンコ拭いてるんかな? オレ紙になりてぇ…》
《じゃぁ、オレは夕実ちゃんの便器になりたいな。オレの上に跨っておしっこジャーって》
《じゃあ、オレは尻抱えて後ろからやりまくる。いい尻してるよな、あいつ。パンパンに張ってるじゃん…》
《オレもオレも。久野にバックで中出し…って、何回夢に見たことか……》
《オレもオレも。あの、ちょっと思い詰めたようなお嬢様顔にぶっかけたい》
――男の子たちって…陰では…普段こういうこと話してるんだ……。
半分驚き、半分呆れながらも、染み入ったアルコールが寛と佐々川君に対する宛て付けがましい感情を大胆に焚きつけた。
障子をスッと引いて、そっと背後に回り込む。
「ねぇ、何見てるの?」
後ろから背を小突くと、こそこそ盛り上がっていた男子たちが一斉に振り向いて目を剥いた。悪戯を咎められた子供のように、4人は慌てて口をつぐみ真佐江から視線を逸らせた。
「あ、久野さん? 何か飲みます?」
見咎められたことをはぐらかすようにサービスが良かった。
「誤魔化さなくてもいいよ〜。真佐江のパンツ見えて愉しい?」
突き出した空の杯に注がれた酒を呷るように一気に飲み干した。
どよめきながらも、真意を探る男たちの視線が四方から突き刺さった。
――ふふん。ちょっと、いい気分。
「いえいえ。久野さんとお近づきの方がずっと愉しいです」
わざとらしい物言いだけれど悪い気はしない。
「さ、どうぞ、どうぞ」
4人の中央に差し出された座布団に座り込む。
「今日はまた、一段と輝いちゃって…もう、目が釘付けです」
ちょっとサービスしちゃおうか……。
誰かの膝に手を突いて、別の誰かの肩に寄り掛かかってみると、軽い驚きとともに四人の目の色が好奇心に輝いた。間を詰めるように囲まれた輪が小さくなって、周囲との間に壁ができた。
膝を立てるとスカートの裾がずり落ちて、男達の視線が一斉に剥き出しになった太腿に移動する。
――男って…なんて単純なんだろう?
思わず声を出して笑ってしまった。
笑い上戸のようにケラケラ笑っているわたしを見て、男たちは目を見合わせた。
調子に乗って開き気味の胸元を更に開くように前屈みになると、今度は視線が上向いて、食い入るような眼差しが痛いほどに胸に突き刺さった。二人は背後に回り、見えるわけないのに後ろから覗き込もうとする。
8つの目が見開かれ、ぎらぎらと輝く。剥き出しの首筋に息がかかり、荒い鼻息が聞こえてきた。

「ねぇ、ちょっと暑いから……酔い覚ましにいかない?」
甘えるようにねだると戸惑いと興奮に男たちは明らかに浮き足立った。
先にたって立ち上がると軽くふらついた。意地でも寛と佐々川君の方は見ない。
二人のことだから、酔ってはいても状況は把握しているはず……。
障子を開けてそのまま廊下に出ると、ぞろぞろと男子たちがついてきた。
3歩も歩かないうちに、4人の男たちが争うように周囲に群がった。
「こっち……」
トイレを行き過ぎた奥。廊下の端の荷物置き場。積み上げられたビール瓶のケースが物陰を作り、庭の常夜灯がぼんやりと辺りを照らしていた。
背後から抱かれるように体重を預けると、ぎこちなくおずおずと腕が腹に廻された。
目を瞑り、だらしなく、ずるずると躰を滑らせる。
誰かの手先が胸の膨らみに押し当てられた。
誰かの手の平が剥き出しになった太腿に押し付けられた。
予想よりもずっと大胆で、直截的な動きだった。
遠慮がちな接触を許すとすぐに手の動きは大胆さを増した。
8本の手が全身をくまなくまさぐり、襟や裾を割り込んで、内へ内へと潜り込もうと争い始めた。
「ちょっと……そんなに引っ張ったら破れちゃうよ……」
荒い息使いが耳元で応え、躰をまさぐる動きに服を脱がそうとする動きが加わった。
――下手糞! 寛だったら0.5秒で外すブラジャーのホックの位置がわからないらしい。ようやく見当を付けても、今度は強引に無意味な方向にストラップを引っ張られた
「ちょっと、違う……痛いってば」
強引にブラがずらされて、剥き出しになった乳房を男の手が揉みしだいた。
「うわっ、いい乳してるな……前から一度でいいから揉んでみたかったんだ」
「馬鹿! 慌てないでちゃんと外せよ」
強引にストラップが引っ張られ、ブラジャーごと躰が背後に引き摺られた。
平野も強引で乱暴だったが、動きは的確だった。いや、彼はわたしの被虐的な資質を見抜いて、それを性行為に利用したと考えるべきだろう。それなのに、彼等は…自らの欲望に任せるまま、ただ単に稚拙だった……。
ようやく自由になった左右の乳房に4本の手が群がって奪い合った。
――そんなに強く握ったら…痛いってば……。
苛立ちが募る一方で、予測がつかない動きに異様な興奮が突き上げた。
スカートを臍まで捲り上げられて、ショーツの内側に強引に手が差し込まれた。
「す、凄ぇ…こ、こいつ、もうヌルヌルに濡れてんぞ。おまけに…まん毛が滅茶苦茶薄い……」
「どれどれ…ホントだ。剃ってんのか?」
毟るように陰毛を引っ張る手を叩いた。
「やめてよ。抜けちゃうじゃない! 違うよ。生まれつき……」
差し込まれた手があらゆる方向からショーツを押し下げようと力が加わった。
「いいケツしてんなぁ」
「あ、バカ、オレが先だよ、どけ」
「あ、ちょっと、やめて。そんな……」
身を捩って抵抗の振りをする。
ちょっとしたアヴァンチュール。そろそろ寛か佐々川君が気にする頃……。
誰かが前からショーツを引き下ろそうとしているが、お尻に引っかかるから上手くいかない。性器を荒々しく指が撫で回す。争うように陰唇の内側に侵入してきた。別の指が陰核を擦り上げる。
「馬鹿! 待てって! 慌てるなよ」
誰かが諌めても、もう収拾がつかない。
ショーツが破れそうに引っ張られて尻の肉に食い込んだ。
「ちょっと!…待ってよ」
かたちばかりの抵抗は男たちの荒々しい息遣いにかき消された。
「だめ…恥ずかしいよ」
「なんだよ! いまさら。もう我慢できねえよ」
布が裂ける音。
強引に下着が抜き取られ、服を捲くり上げられた。淡い常夜灯の光に浮き上がった白い肌が群がる男たちの影で覆い尽くされた。
「や、やっちまおうぜ」
「馬鹿。ここじゃやばいだろ。誰か来たらまずいだろ」
「大丈夫、大丈夫。あいつら、三人ずつ抱えてんだから、そんな暇ねえよ」
寛も佐々川君も優しいから、男の力をすっかり侮っていた。
力いっぱい閉じた膝も男の力の前にはひとたまりもなかった。強引に下肢を広げられ、男達の視線があられもなく開ききった股間に集中した。
躰の自由が奪われて、開ききった性器を隠すこともできなかった。
「いや。やめて……」
男たちは競うように片手でいきり立ったものを取り出し始めた。
「お願い……、それは…許して」
目の前に突き付けられたものが頬に当たり、強引に唇に押し付けられた。
逃げ腰の自分とやられたがっている自分が酔った頭の中でぐるぐると回転していた。
「あ、ちょ……」
凍てついた真冬の闇すら溶けそうな熱気が渦巻いて、吹き上がる黒い炎が夕実の意識を軽々と呑み込んだ。
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「夕実……、いいの? みんなには具合が悪いみたいって言っておいたけど、あの…言いにくければ、わたしから寛に言ってあげようか?」
今更ながら、あけみの申し出に慌てた。
「あ…、そ、それは……いいの。あけみが来てくれたから…大丈夫だったし…。……言わないで。わたしのせいでもあるから……。わたしが…その…悪いの……」
語尾は曖昧にくぐもって、腑に落ちない顔であけみは小さく肯いた。
「あの…もう大丈夫だから……ごめんね、迷惑かけちゃって」
「いいのいいの。どうせわたし飲めないし……下に居てもなんかお目付け役みたいで、みんな白けるでしょ?」
「いいの? だって…啓子も果歩も……」
「うん…まぁ……。そりゃ、目に入ればやっぱり愉快じゃないけど、たまにはハメを外しても……。彼が…けっこう他の女にモテるっていうのも悪くはないし、いいんじゃないかなって」
「あけみは大人だね」
「……そんなことないよ」
溜息と共にあけみがつぶやいた。
「そういう夕実こそ…ねぇ、……佐々川君と付き合ってるの?」
単刀直入過ぎて一瞬、問の意味が掴めなくて慌てた。
「え…、ど、どうして?」
真正面からの透明な視線にたじろいだ。
「2、3週間前かな。夜遅くなったとき、駅のエスカレータのところで見かけてさ、改札のところで追いついて声掛けようと思ったんだけど、二人して仲良くスーパーの方に行くから……」
夕実は曖昧な笑みを浮かべ続きを待った。
「スーパーに行くのかなって思ったら、真っ直ぐ商店街の方に歩いていくし、何となく寄り添ってるような感じがして、声掛け辛くてさ。そしたら途中のドラッグ・ストアに入っていっちゃって……」
ただでさえ青白い夕実の顔から血の気が失せた。
「そのまま通り過ぎればよかったんだけど、何となく気になって…外から覗いたら…棚の影でよく見えなかったんだけど……」
「もう…いい。わかった」
あけみの肩に手を置いた夕実は視線を逸らせた。
「ええと…うん…付き合っていないと言えば嘘になる」
「……ねぇ、余計なお世話かもしれないけど、いったい、どうなってるの? 何かあって、無理強いされたりしてるの?」
夕実は慌てて首を振った。
「それは…違う。別に誰からも強要されたりしてるわけじゃない……から、ごめん。もう、聞かないで」
あけみの透明な視線が怖くなった。
「そう。ならいいんだけど。まぁ、夕実が佐々川君とくっついてくれれば、わたしは万々歳なんだけどさ」
「寛に…話す? わたしが裏切ったって……」
漫画のように長い睫毛がゆっくりと黒目を隠し、髪がふわりと浮いて、あけみは小刻みに首を振った。
「わたしからはそんなこと…怖くて言えないよ……。寛が知ったら……ものすごく悲しむと思うよ」
「そうかな?」
たっぷりと1分ほどの沈黙が流れた。
「寛の中には誰も入れないサンクチュアリがあってさ、そこに松崎先生と…夕実が棲んでるの。松崎先生はもう過去の人だからいいけどさ…夕実はいつでも身近にいて、会うこともできるから……いつか取られちゃいそうで…正直、怖い」
「わたしが?」
夕実はあけみの言葉を聞いて、本当に驚いた。
「ときどき逢ってるでしょ? 夕実と逢うとき、彼、嘘つくの下手だからすぐわかる……」
恨みがましさを微塵も感じさせない透き通ったあけみの眼差しが羨ましかった。
「ごめん」
「べつに謝らなくてもいいって。むしろ、なんだかわたしが割り込んで横取りしたみたいで、…もう、ずいぶん経つのに未だにどうしていいのか自分でもよくわからないのね」
自嘲気味に笑いながらも嫌味一つ感じさせないあけみの態度に微かな余裕を感じて、夕実は再び気分がどろどろと奈落に落ち込みはじめた。
「今日は寛に送って貰いなよ。言っといてあげる」
「え、でも……」
喜んでいいのか、どういう顔をしていいのかわからなくて、あけみの顔色を窺った。
「わたしは啓子たちと帰るから平気。うちがいちばん近いしさ。明日も早朝から動員なんだ」
あけみは溜息をつきながら、大きく背伸びした。
「お店、忙しいの?」
「うん。お店はパートさん。わたしはもっぱら工場なの。身内のほうがこき使えるでしょ? 年々傾いて斜陽だけど、一応、年に一度の掻き入れ時だからさぁ。工場で、上等なやつ掠めてくるから、夕実も食べて。届けとく」
どちらかといえば控えめなあけみが急に大人びて見えた。
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風のない静かな夜だった。
零下2、3度くらい。息を吸う鼻が痛くなるというほどの気温ではない。
いつもより少し早足の寛の腕にぶら下がりながら、わざとテレテレ歩く。
引き摺られるようにモタモタすると、諦めたように寛の歩調がゆっくりになった。
少しでもこの状態が長く続いてほしい。
「鮎ちゃんに…ちゃんとメールしてる?」
吐く息が夜の闇を真っ白に染めた。
「ん? どうして?」
「たくさん来てるでしょ?」
寛の頬が小さく引き攣って、笑った。
「うん、毎日。ウンザリするくらい。もう、ほとんど日記だな。もしかして、夕実のところにも来るの?」
「うん。別に…毎日ってわけじゃないけれど……週に1、2通は。寛が返信しないから、わたしのところに来るんじゃないの? 今日は食堂でカツ丼食べてたとか、図書館で寝てたとか書くとすごく喜んでくれる。鮎ちゃんは寛が毎日何食べてるかとか、どこ行ったとか、要するに近況が知りたいの」
「そういうもんかな?」
夕実は真顔で肯いた。
「わたしも…知りたいもん」
「携帯を徘徊老人用のGPSモードにしておこうか? あれって別料金だっけ? でも、居場所くらいはわかるんじゃないかな…」
寛はちょっとシニカルな笑みを浮かべ、夜の底を泳ぐように組んだ腕を大きく振った。
「えー、それはやだ。一晩中あけみの家に居たりしたら…困るもん」
「そう?」
惚けた顔の下に、悪びれはしないけれど温かい優しさが覗いて見えた。
「嫉妬で気が狂っちゃう……。包丁持って押しかけるかも」
「じゃぁ、ナマコでも用意して待っていよう」
冗談めかして本心を語ったつもりが、あっさりかわされた。
「なんでナマコなの?」
くくっと寛が小さく笑った。
「だって…夕実、触れないだろ?」
ぐっと詰まる。た、確かに。一度、俎板の上で動いているのを見て悲鳴を上げた。
「さ、触れるもん……ナマコくらい…。でも、かわいそうで切れない」
「じゃ、切ってあげるから包丁かして…って」
確かに、そう言われれば素直に包丁を差し出すだろう。
はぐらかされた。
考えれば考えるほど辛くなる現実からは逃避して、明るいはずの未来を考えよう。
「家庭教師の話…、頼まれたからOKしちゃったけど…いいの? 兄貴と親の方は任しておいてって、鮎ちゃん、テンション上がってるけど、迷惑じゃない? 年末で…忙しいときにお邪魔して……」
「ああ…うちは…別に……どうせ……。だいたい、年末年始居るのかな? うちの親?」
寛は自嘲気味に笑ったが、その瞳は焦点が暈けたように何も見ていなかった。
鮎ちゃんと交わした夏の約束は、寛の帰省に合わせて、鮎ちゃんの家庭教師として一週間ほど寛の実家に行くという形で具体化していた。
「夕実が来てくれるのは…オレとしては大歓迎……」
「ほんと?」
寛の笑顔が凍りついたように固まった。
「夕実が来ないと…オレは鮎と最悪3週間、二人きりで過ごさなくちゃいけない」
――そうか。わたしにとっては夢のような1週間だけど、寛にとっては心休まらない3週間になりかねないということ?
「親が…いればいいけれど……、一人で放っておくわけにはいかないし」
「鮎ちゃんが…怖い?」
苦笑しながら肯いた寛を見るまでもなく、訊く前から決めていたことだ。
「わかった。一緒に行く」
寛のほっとした笑顔を見て、夕実は漠然とした不安を憶えながらも嬉しくなった。
でれでれ歩いても、たいした距離じゃないから目的地はすぐそこに見えてくる。
公園を対角線に突っ切れば、たどり着きたくないゴールはもう目前だ。佐々川君の家にいると言ってあるから、12時までは大丈夫なはず……。
一瞬、目尻が釣り上がった母親の顔、あけみの笑顔、男の子たちのぎらぎらとした顔……、いろいろな顔が入れ替わりながら目の裏を駆け抜けていって……、寛の手を強く引いた。
小さな土手を越え、公園のなかでいちばん寂れた、古い遊具が並んでいる一角に忍び込む。青みがかった蛍光灯の街灯が公園の廃墟を薄ら寒く照らし出していた。恐らくどこかで事故があって、管理をする自治体は面倒を恐れたのだろう。危険だからという理由で可動遊具は撤去され、かつてはブランコがぶら下がっていた鉄製のやぐらと周囲の柵だけが無意味な残骸を晒していた。
魔法が解けてしまう時間は刻々と迫っていた。
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正面に向き直った寛を見上げる。
肩に引っ掛けたコートから出た長い首が寒そうに見えた。
両手でその滑らかな首に触れると、力強い温か味が手の平に伝わった。
名残惜しむように首に廻した手をゆっくりと滑らせて、コートの内に差し込んだ手の平で彼の躰をまさぐる。細いようで厚い胸板、硬い腹、ごつく骨ばった腰骨を撫でて……、おずおずと下腹を手の平で覆う。布地の奥のかたちを炙り出すように指先に微妙な力を加えながら……。
――大丈夫、大丈夫。ぽっと躰の芯に火が灯る。
口であけみをいかせたかもしれないけれど……、彼はしていない……。あの後……ドアを叩き付けた後すぐに二人は顔を見せたから、そんなヒマはなかったはず……。
柔らかな膨らみとは明らかに違うものがむっくりと漲り始め、布地を突き破りそうな勢いで硬直するのを感じ、安堵と満足が押し寄せた。
躰に張り付くように真上を向いた硬い棒を指先に力を入れて手の平全体で握り締める。むくむくと更に大きさと硬さを増しながら脈打つ熱さが布地を通していても手に伝わった。
照れ隠しにキスを求め、舌と舌が絡み合う。
頭の奥が熱く燃え上がり、最後まで残っていた理性がとろとろの蜜のように溶けだした。
夕実はするすると寛の足元に蹲り、ズボンの膨らみに頬擦りした。
腕を尻に巻付けて、布地の上から硬さに歯を立てる。
寛の手が滑り降りて、夕実の愛撫を受け入れるように軽く後頭部に添えられた。
根元から先端まで、硬さを確かめるように口を往復させながら、片手を伸ばしジッパーを引き下ろす。
温かさと男の匂いが胸いっぱいに広がった。
待ち切れずに指を器用に動かし、邪魔物をより分けて、目的のものを慎重に引き出した。
肉の熱さと硬さに直接触れて、夕実ははっきりと漲る形を視認した。
恥ずかしさに叫び出したくなりながら、隆々とした肉棒の先端の丸みに唇を這わせる。
微かな塩味と青臭いぬめり。躰が欲しがっている寛の男の味。湯気が立ちそうな透明な分泌液を舌と口の粘膜すべてを使って味わう。少し背伸びして、真上からすっぽりと呑み込むと、寛の大事な部分が口の中いっぱいに広がって、息が詰まった。
寒さで縮こまった睾丸を皿のように手で受け止めて、根元に添えた片手と口で硬直した肉棒全体を包みこむようにしごく。
カチカチに反り返った寛の躰に我を忘れた。
躰の奥が熱っぽく、煽るように黒い炎が噴き上がった。
「夕実……。そんなにされたら出ちゃうよ」
まだ…ダメという意味を込めて、寛を口に含んだまま首を振る。
少し屈んだ寛が腋に両手を伸ばし、あっさりと引き上げられた。
口から離れてしまったものを両手で探す。
……見つけた。
左手で握りしごきながら、右手の平で濡れた先端部を包むようにこする。
「気持いい?」
こくりと肯いた寛を見て満足感が込み上げた。
「どんどん上手になるね」
寛が腰を突き出すようにして、手の中で硬い肉棒が暴れた。
「だって……、最初に教えてもらってから…もう、4年経つし……凄い好きなの。……いつもこうしていたい」
両手で力いっぱい握り締めてもびくともしない。
「ねぇ……」
見上げた視線と、見下ろしている寛の視線がぴったりと一致した。
「わたしも…あけみにしたみたいにして欲しい」
「見てたの?」
視線を合わせたまま、指先を寛の唇に這わせる。
「この口があけみのお乳を吸って、この口があけみの…あそこを舐めてた……」
寛は少し困ったような顔をして、小さく笑った。
「わたしにも同じようにお乳があって…、性器もあるの」
視線を合わせたまま、寛の目が肯いた。
コートの内側に手を差し入れてシャツのボタンを外していくと、押さえつけられていた乳房がプルンとたわんで自由になった。そのままスカートのホックを指先で外し、ジッパーを引き下ろす。手を離すと布地が滑って消えた。
――下着は……ブラは外していたし、ショーツは誰かが持って行った?
コートの前を開くと躰を覆うものは何もなかった。
冷気が身を包んだはずだが、躰は内から燃え上がり、寒さは感じなかった。
肩を剥くとシャツごと腕がすっぽり抜けて、夕実は足先にブーツを履いただけで全裸だった。
コートが柵にきれいに落ちて、ぶらぶら揺れていた。
「裸に…なっちゃった……」
「寒くない?」
寛がコートの前を大きく開いて包みこんでくれようとするが、夕実は首を振った。
「わたしの裸……かわいくない?」
背に腕が廻されて、軽く引き寄せられた。
唇がぴったり合わさって、深いキスが交わされた。
寛の唇が首筋を滑り……左の乳首を覆い尽くした。
軽く吸われただけで、透き通るような快感が溢れ始める……。乳房を握られるだけで恥ずかしい声が夜の静けさを乱す。
乳房を握られたまま、唇は更に下を目指す。
待ちきれない下肢が寛を迎えるように開く。
僅かに陰毛が引っ張られる感触のすぐ後に、それは来た。
唇と舌先が陰唇にのめり込み、鼻先が陰核を抉っていた。あまりの刺激に腰を捩って逃げようとするが、尻をがっちりと押さえつけられて身動きができなかった。膝ががくがくと痙攣し、力がすっと抜けていく。寛の顔に跨るように性器が押し付けられて、気が狂いそうな快感がますます突き上げる。
「まって…まって…もう、もう…」
最初の頂上がすぐそこに感じられて、あっけなさに驚きつつも急激に感覚が上昇する。
制御はすぐに放棄した。
「入れて……、いっちゃうから…早く…寛を入れて」
本能が羞恥をかなぐり捨てて、懇願していた。
柵のパイプに手を突いて、尻を突き出すように足を広げると、すぐに寛は入ってきた。
がっしりと下半身を抱えられ、下から突き上げるような動きに二人の分泌液が湿った音を立てていた。腕を突いているのが精一杯で、意識が飛びそうになるのに必死で耐えた。
硬い。硬い。コチコチの太さが押し入って、串刺しにされていた。
抉るような回転と直進する硬い肉棒…寛のおちんちんが膣壁をこすり、子宮口を突き上げる。大声を上げないように馬鹿みたいに開いた口から涎が滴り落ちている……。
堅く瞑った目の裏で花火が上がっていた。
…もう……だめ……。
頭のなかが真っ白になったとき、滅茶苦茶に突き上げられてすべての感覚が崩壊した。
遠い彼方、無意識の中で寛が暴れていた。
断続的に打ち付ける圧迫と、搾り出すような小刻みな痙攣。
射精……した?
突き上げる勢いが少しずつ弱まって、包みこむものが、少しずつ小さくなる感触。
荒い息が耳元で聞こえ、躰を抱えたまま動かない寛。
まだ繋がったまま背に覆い被さった寛が背中を強く抱きしめてきた。
「拙かった…かな?」
――えっ?
頭が回らない…けれど……、何? この…内から溢れて…溢れて止まらないもの。…喜び? 喜んでいる? 嬉しいの?
何も訊かれずに…中に出されたのは初めてだけど……、えーと…えーと、前回の生理がいつだったか思い出そうとするが、溢れ続ける感情で頭がちっとも働かない……。
「た…たぶん……大丈夫…」
馬鹿みたいな答え。何の意味もない答えのための答え。
右手をゆっくりとまだ繋がっている躰の接合部に這わせる。
まだ食い込んでいる寛の性器と咥え込んでいる自分の性器。どちらも温かく濡れて……ぴったりと合わさって……。
「わ、わたし……」
「何?」
首を無理矢理捻じ曲げて、背後の寛と唇を合わせる。
「…すっごく嬉しいんだけど…こういうとき…どうしたらいいの?」
唐突に視界が暈けて、夜の公園を淡く照らす光が溶けて流れ始めた。
『空の青 12−2』(続く)
作成日:2009/04/07 最終更新日:2009/04/07