何の音だろう?
耳を澄ましてガラスの向こうに目を凝らした。
海原を走る波のように木々の梢が揺れていた。
西の山脈から吹き降ろした季節風が轟々と唸りを上げて山の上を吹き抜けていく。
全てのものを凍りつかせる、雪混じりの冷たい風。
夜は更けていたが、暗い国有林の森の向こう、谷を挟んだ向こう側に聳え立った大学の校舎群は不夜城のように灯りを瞬かせていた。
天気は下り坂のようだ。
高層の建物群の上に低く垂れ込めた雲が、人工の灯りでビロードの傘を広げたように淡く発光していた。
造り付けのキャビネットに組み込まれたデジタル時計が午後10時を示すと同時に携帯電話が鳴った。
時間通り。
携帯を手に、気持ち良く乾いたシーツに足を差し入れて、腰まで毛布を被った。
液晶に表示された名前を確認するまでもない。
「もしもし?」
木南寛の飄々とした声が返ってきた。
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わたしは今年もあと僅かという時期に無理やり組み込まれた研修会に参加していた。県の教員研修センターが行う理数系教員のスキルアップを目的とした高度専門化研修である。本来は夏休みに行われるのが通例だったが、今夏、新聞沙汰になって広く世間を騒がせた現役教師の不祥事のあおりを食ってこの時期まで延期されていた。仕事の面でいろいろな形で引き立ててくれる教頭直々の推薦だったから断るわけにはいかないし、そのうち希望を出してみようとも考えていたから、これを機会にありがたく参加した。
教頭の推薦という話がどこから洩れたのか、わたしは同僚達の半分の賞賛と半分のやっかみの洗礼を受けた。いろいろな意味で、学校というのは世間からは窺い知れぬ特異な世界だったし、その閉鎖的な環境でどういう立場に染まるかで将来的な展望や身の振り方に差が出てくるものなのだ。
そんな中で、平野のお気に入りだから……という噂話には純粋に不快感を感じたりもしたが、わたしは職場内での立場や派閥に努めて関心を持たないようにしていた。
これまでも何度か直面した岐路において、わたしは極々普通に、淡々と世間的な常識の範疇で物事を判断してきたつもりだ。それがどういう結果を生むのかは、今はまだわからないが、今はより良く“教えること”だけを考えていればよいと割り切っていた。
年末の3日間。研修は市街西郊の丘陵にある県の研修センターで2泊3日の日程で行われていた。
教育大のすぐ隣だから、市内に住むわたしは通うこともできるが、受講者は全県に渡る。遠方の受講者の便を考えて、こういった集中研修は宿泊で行われることが普通だった。特に今回は期間が押し迫っていたため、1日当たりのカリキュラムも逼迫して夕食後にも研修時間が設定されていた。自ら望んだ研修だからそれはかまわない。唯一の誤算は上司であり教務主任の平野の参加だった。
わたしが研修の申し込みを済ませた後、勝ち誇ったような顔付きで「僕も一緒に行くことになりました」と言い寄られたときは鳥肌が立った。彼は一応ベテランの域だが、校内では年功序列的に、あるいは特有の押しの強さから教務主任を割り当てられていただけで、一般の平教諭であるという意味ではわたしと同じだった。
彼の目的がどこにあるのかなど知りたくもないが、おかげで今日は一日、隣にべったりとひっつかれて講義を受ける羽目になっていた。朝から晩まで、トイレ以外はあの厳つい図体とにやけた顔、タバコの臭い、厭らしい視線を浴び続けてほとほと気が滅入った。明日も同じだろうか? 今日最後の研修の後、テレビが置かれたラウンジでどうでもいいような無駄話に付き合わされて、ようやく解放されたときには9時を回っていた。
「お茶でもどうですか?」と自販機のお茶を手に部屋に誘われたが、もちろん断った。逃げるように自室のドアを開け、部屋に飛び込んだ。脂ぎった顔の目の前で、これ見よがしに叩きつけるようにドアを閉めてロックを掛けた。扉を背に寄り掛かるとゆっくりと溜息が出た。こつこつと廊下を遠ざかる足音が聞こえ、執拗かつ強引な平野がいつになくあっさりと引き下がったことに拍子抜けした。
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宿泊室はホテルのシングルルームと同じような造りだがトイレやバスは無く、もちろんテレビも無い。教師になって1年目や2年目終了時に行われる研修で何度か来ているから勝手はわかっていた。共同浴室の使用時間は12時まで。トイレと洗面は廊下の先にまとまっていた。
部屋は4階で、大きな窓の向こうで黒い森がざわめいていた。駐車場の街灯の光にときおり斜めに白いものが混じった。窓辺に寄ってガラスに頬を押し付けるとあまりの冷たさに目が醒めた。暖房がしっかりと効いた部屋は暖かく快適だった。髪にタバコの臭いが染み付いていた。風呂に行こうか迷いながら、服を脱いで傍らのスツールの背に掛けた。
う〜ん、面倒臭い……。
部屋の照明に照らされて、ガラスの外にあるベランダの金属の手摺が鈍く光った。
《避難通路:非常の場合以外は外へ出ないでください》
ガラスに貼られたシールが半分めくれて剥がれかかっていた。
疲れていたからさっさと切り上げて風呂から戻った。
ラウンジや下の食堂で騒いでいる人たちの声もここまでは聞こえず、部屋はしんと静まり返っていた。平野がどこかで待ち構えていないかビクビクだったが、幸いに出くわすことはなかった。
開けっ放しのカーテンの外で世界はほんの30分で一変していた。
斜めに流れる雪が、既に黒い樹木を薄っすらと雪化粧していた。樹木の上に林立して見えた建物はディテールがすっかり潰れて、ぼんやりと光を纏った塊にしか見えなかった。
車で来ないでよかった。天気予報通り、これは積もりそうだった。
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《こんばんは。雪、凄いですね。そっちはどうですか? 標高がちょっと高いし》
「うん。もう積もってる……20cmくらいになるかも…」
《しばらく寒いの続きそうだからこのまま根雪になっちゃうかもしれないですね。そこは寒くない?》
「あ、うん。部屋は暑いくらい」
わたしは横着をしてショーツにインナーというだらしない格好でベッドの上に身を投げ出していた。暖房が効きすぎるほど効いているので、すぐに暑くなる。片足を毛布から出してあられもなく股を広げた。
《研修のほうは順調? 平野はちょっかい出してこない?》
「朝から晩まででくたびれるけど、まぁ、可もなく不可もなく……」
《研修じゃないほうは?》
彼の心配そうな声音にちょっと嬉しくなった。
「もう一日中、べったり張り付かれて…うっとおしくて変になりそう」
《ふ〜ん……》
「心配?」
《変なことされてない?》
「変なことって?」
《だからさぁ……手握られるとか、触られるとか…》
微かに苛立ちを帯びた声が耳元をくすぐった。
「さっき……手首を掴まれて、部屋に引き摺り込まれそうになった……」
《……まじで? それ》
ああ、いかんいかん。以前にもこんなことがあった。調子に乗りそうな自分を戒めた。
「え? ウソウソ。大丈夫、今のところは。心配しないで」
《もう……。そんなことあったらオレ今すぐ行くよ? タクシー呼んで。ちゃんと戸締りした? 鍵掛けた?》
「大丈夫。4階だし、何度も来てるから。それに全部で100人くらいいるんだから…いくらなんでも馬鹿なことはしないでしょ」
《まぁ、常識的にはね》
「ねぇねぇ…わたしのこと…心配?」
返ってくる言葉を予期しながら、インナーの胸にそっと手を触れた。
《当然でしょ》
柔らかな絹の感触を通して乳首のコリっとした突起が指に触れた。
触ってもいないのに…もう膨らみ始めてる……。
「どうして?」
《どうしてって……そりゃ、美人だし、スタイル抜群だし……》
「美人でスタイルがよければ誰でも心配なの?」
《そこまで子供じゃないですよ。もう…わかってるくせに。先生が好きだから》
染み渡るような満足感とともに、乳首が完全に突き立った。
《あさっては予定通り?》
「うん。今のところ。昼には終わるから」
《じゃぁ、楽しみにしてます》
「ちょっとちょっと。やだやだ。もう切っちゃうの? 明日は忘年会なんでしょ?」
《ええ。佐々川のところだから……。べつに…電話してもいいですよ?》
先読みされた。
「んん。いいの。ゆっくり楽しんで来て。でも、飲み過ぎないようにね、じゃあなくて飲んじゃダメよか」
あの子――菊川も来るに違いないが、問い質すことはプライドが許さなかった。
《ええ。わかってます。ねぇ、先生、あさってさ……》
「何?」
《お昼には終わるんでしょ? 迎えに行きましょうか? 徒歩だけど》
もちろん心は動く。自然と乳首を擦る力が強まった。
「わざわざ? そっち、雪はどう?」
《たいしたことはない。まだ10cmは積もってないと思いますけど》
「こっちはバス動かないかもよ?」
《大丈夫、大丈夫。何とかするから……。山の上…もう大学も休みだし誰もいないでしょ?》
「ああ、うん。教育大はそうかも。……?」
《え、だからさ……、怒らない?》
可愛い。ときどき甘えられるのも悪くない。
「なぁに?」
《風がなければ…雪のなかで先生を裸にしたいな。凄くきれいだと思う……風邪引いちゃうと困るから、ちょっとでいいけど……》
すぐにその状況を頭に思い描き、乳首を摘んだ指に思わず力が入った。
「裸って……全部脱がすの?」
《うん…。だってそのほうがきれいだし…》
真昼の雪原で彼の前に全裸を晒しポーズをとる自分に、まだしてもいないことなのに照れた。
「わたしの裸が見たい?」
《もちろん。いつも見ていたい》
「裸にするだけ?」
声が掠れてしまった。インナーの内側に手を入れて直に胸を揉み、乳首を摘み上げる。
《白い雪の光のなかで…たっぷり触って先生の匂いを嗅ぎたい。それから…立ったまま、後ろから先生のお尻を抱えて滅茶苦茶に犯したい》
きゃん。もう内腿を擦り合わさずにはいられない。
「もっと、…もっと言って」
電話を肩と頬に挟んでショーツに手を入れた。
「わたし、木南君に犯されちゃうの?」
《そう。林の中で素っ裸にして、ダメって言っても止めない。強引に足広げて犯しまくって、たっぷり精液を注ぎ込むんだ。子宮に直接掛かるくらい》
この頃は、いつばれたのか、すっかりわたしの好みのつぼを突いてくる。
指先がクリトリスを捉え、すぐに軽くいきそうになった。
《ねぇ…先生、今どういう格好しているの?》
「ん? なんで? 部屋にいる…ベッドに寝っ転がって」
《もうお風呂は入った? パジャマ着てるんですか?》
「うん、そう。もう寝るだけ。でも〜、パジャマじゃなくてぇ、上は薄紫のインナー」
《あの半透明のやつ?》
「そう……」
正確にいえばインナーは首まで捲くれあがって肩に引っ掛かっているだけ。彼の手つきを思い描いて、裸の胸を右手が揉んでいる。
「下は?」
「ん〜、パンツだけ。パジャマ、かさばるから持って来てないの」
《いいけど…寒くない?》
大丈夫。パンツは既にずり下ろして膝に引っ掛かっているだけだけれど、一応下半身には半分毛布が掛かっているから。
「あ、暖房暑いくらいだから、…平気」
《ならいいんだけど……風邪引かれちゃうと裸にできない》
「大丈夫だって……。裸にして見て欲しい。触って欲しい。匂いも嗅いで。ぬるぬるになってるよ? 滅茶苦茶にして…わたし何でもするから」
《声が鼻声になってますよ?》
「それはだから…ええと」
ああ、気持ちいい、気持ちいい。もう何も考えられない。
《ほんとはオナニーしてるでしょ?》
きゃぁ、きゃぁ。図星。もろバレ。だが素直に認めるのは恥ずかしい。
「してないよ」
息が乱れ、完全に喘ぎ声になっている。
《じゃ、切りますね》
うそ! やだ! こんな中途半端で!
「だめ、だめ。まだだめ」
《もう……嘘つきなんだから……。正直に言わないと切りますよ》
「え、やだ。切らないで。オナニーなんかしてないって……」
《最後まで付き合いましょうか?》
「うん……お願い。変になるまで…一緒にいて。それから…それから、わたしだけ? 木南君は……。したくない? 声だけじゃだめ?」
《さっきから先生の声聞いてたらなんかおかしな気分になってきたけど……オレは男だから声だけよりも、見えたほうがいいな》
「…どうすれば…いい?」
《わかってるくせに…》
「わたしの裸が見たいの?」
携帯を持ち替えて首からインナーを抜き取った。ショーツは既に毛布のなかで行方知れずだった。
《もちろん。先生の裸が見たいな》
「ちょっと待って……。パソコンのほうに送るから」
傍らの化粧ポーチから手鏡を取り出して顔をチェックして髪を撫で付けた。生乾きでまとめたからグズグズだが、彼はちょっと乱れたくらいの自然な感じが好きだからこれでちょうど良い。胡坐をかくわけにはいかないから、シーツにぺたんと座った。携帯をカメラモードにセットして手を伸ばす。胸は仕方ないとしても最初から陰毛が写るのはちょっと恥ずかしい。座ったまま膝を閉じると何となく影になりそうだ。左手で下腹部を何となく隠して最初のシャッターを切った。
眩い光で目が眩んだ。液晶に表示された画像をチェック。
画面が小さくてよくわからないが一応ちゃんと撮れている。
照れるなぁ……と思いつつも、メールに添付のキーを押して慎重に宛先をセットした。
――送信。
すかさず電話を掛けるとすぐに繋がった。
「今、送ったよ」
《来ないから寝ちゃったのかと思った……あ、来た来た。ちょっと待って下さい。今開くから……》
「ねぇねぇ、見た?」
《…見ましたよ……可愛い……》
「そう?」
《きれいな裸ですね……。おっぱいがふるふるしてる。でも、弄ってたんでしょ?》
「違うってば。写真撮るために脱いだの」
《目、潤んでるし…乳首尖って色鮮やかになってるし…。でも、滅茶苦茶可愛い……》
嬉しいけれど控えめに応える。
「そお? 恥ずかしいな。でも嬉しい。それだけ?」
《え? だから、ちょっと、その、ぐっと来るかな》
「ねぇねぇ、大っきくなった?」
《ええ。けっこう。先生見ちゃうとクラスで出回ってるエロDVDとか見てもちっとも抜けないどころか立たないし、そんじょそこらのモデルなんかも比較にならない》
「そう? へへ」
《おっぱいの形とか色とか、下の毛もふわふわで奥が透けて見えるし、お尻は真っ白だし、なんだろ、トータルも大好きだけどパーツも全部好みなんですよね》
「あんまり胸は大きくないよ」
《そんなことないって。ちょうど手に余るぐらいで、大き過ぎるのはちょっと勘弁って感じだからちょうどいい》
ああ、指先がもうデロデロだ。
「木南君……はどう? カチカチ? しごいてるの?」
《もっと……見えるほうがいいな。そそるやつ》
今度は明るい照明の下で膝を立てて左右に広げた。
写るものをざっと一瞥する。陰毛はかなり薄めだが…先日、あの子――久野夕実の躰を見てしまってからは彼の好みかどうか自信がぐらついている。割れ目からはみ出た陰唇は大きさも形も人並みだろう。色は透き通るような紅色に染まり、彼はいつも、とってもきれいだと言ってくれるけれど……。左右のバランスは整っている。既に充血して膨らんだ小陰唇が花が開くように捲れ上がって、どういう状態になっているか完全に自覚できる。グロテスクで汚いところという認識しかなかったから、きれいだと言われれば恥ずかしさを通り越して素直に嬉しい。性器を誉められながらの愛撫ほどうっとりさせられるものはない。彼は舌と唇で、放っておけばいつまでも、襞の隙間一つ見逃さず、丁寧に愛撫してくれる。変幻自在の舌先にクリトリスをつつかれて、左右の小陰唇を片側づつ唇で挟まれて、膣口を抉るように舌を挿入される。快感にのた打ち回り、口だけでいかされた回数はもう数え切れなかった。
ああ、いやだ。
溢れた分泌液が陰毛を汚して白く糸を引いて光った。
ウェットティッシュを一枚取り出して丁寧に拭き取った。会陰がてらてら濡れているのも恥ずかしいから陰唇に触れないように拭い取った。
これでいいだろう。
少し開き気味の小陰唇の間から鮮やかな濡れたピンク色がちょっとだけ顔を出している。
エッチだけど、えげつないというほどではない。
右手を伸ばして試し撮り。失敗。顔が切れた。
彼は局部の“どアップ”のような顔が写っていない写真を好まない。
だから、“先生の写真”が見たいんだと言われれば、わたしはもうめろめろで抵抗する術を持たない。
慎重にズームを調節してもう一度。フラッシュに目が眩んだ。
今度はOK。馬鹿みたいに股を広げた女が目を潤ませて微笑んでいた。
彼の反応が気になって仕方がない。はしたない女と思われはしないだろうか?
「どう? 見た?」
期待と不安。早く答えが欲しい。
指先を陰唇に埋めて、敏感な部分をこねくり回す。
《よく見えないですよ。顔はとってもきれいに写ってるけど》
うわっ。温かい粘液で周囲までがぬるぬるだ。
「見えるよ。恥ずかしい」
《もっとちゃんと見えるのがいいな。あと、おっぱいも腕で隠さないほうがいいな。ぷりぷりで凄くきれいなのに》
「胸はいいけど……あっちはきれいじゃないから恥ずかしいよ」
《きれいですよ。とっても。匂いが嗅げなくて寂しい。飲みたいな、先生の》
頭がくらくらして手の動きがもう止まらない。
「…だめだって…飲むもんじゃないでしょ」
《美味しいですよ。先生の匂いにどっぷり漬かりたいな》
「もう……エッチなんだからぁ。ちょっと待って…」
《お尻の真ん中に見えるのがいいな。それ見たら射精しちゃうかも》
携帯をサイドテーブルに置いてセルフモードにセットした。
横座りしたまま上体をレンズの反対側に倒して片肘を突いた。片足を抱えるようにずらすと自然に尻がレンズの真正面に向いた。丸い尻の中心にはぜたアケビのような性器が見えているはずだ。肛門が丸見えになるのが恥ずかしくて堪らないが、彼の好みは知っている。
前から手を廻して、人差し指と中指を左右の大陰唇にあてがって押し広げた。溢れた液で指が滑ってなかなか上手くいかない。やっとのことで、ピンク色の襞をぱっくりと口を広げた状態で固定した。
恥ずかしさに顔が歪むが、こういう表情がかえって男を狂わせるというのも彼から学んだことの一つだ。ちょっと唇を噛み締めたりして羞恥に顔を歪めると、彼の興奮度と事後の労わりが違う気がする。電子音の間隔が短くなった。閃光が瞳を貫いた。
「ねぇ、わたしって馬鹿? はしたない? 軽蔑した? 何か言って……」
《え、待って待って。今開いた》
薬指の先で膣口を押しながら、人差し指でクリトリスを擦る動きが止まらない。
《……》
「ねぇ……。わたしって馬鹿かな? こんなことするなんて…安っぽい?」
《……》
「見た? 見てるの? 何か言って!」
《清純そうなきれいな顔してるのに、やることが大胆だな》
突然、彼の口調が変わって、声が低く、身を竦めたくなるほど冷たくなった。
《頼まれもしないのに陰唇開き?》
せせら笑うような冷笑が目に浮かび、恥辱が躰を貫いた。
《さぁ、もう一枚欲しいな》
《返事は?》
「は、はい」
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《まったくスケベな女だ。教師なんかにしておくのはもったいないな。肉奴隷として売り飛ばそうか》
「そ、そんなことされたら…知らない人に犯されちゃう」
《犯してくださいってポーズじゃないの? これ……今、実物大に拡大した》
「そ、そうかも」
《でかい尻だな。尻の輪郭が画面からはみ出ちゃうじゃないか》
「恥ずかしいから…そんなに見ないで」
《ふうん。見せるために送ってきたんじゃないの?》
「そうだけど…だって…こうしたほうが喜んでくれるんじゃないかと思って……」
《お尻の穴とおしっこの穴の間にある穴は何?》
「そ、それは……」
声が消え入りそうに小さくなって震えた。
「木南君のを入れる場所だから……そ、そこは…木南君専用の場所だから……」
《周りまでぬるぬるに光って見えるんだけど、おしっこ漏らしたの?》
「ち、ちがう」
《じゃあ、なに?》
「木南君のが……入りやすいようにぬるぬるになって…濡れちゃうの」
「ねぇ、お尻の写真見てるの?」
《ええ。そう。今、拡大してお尻の穴の襞の数、数えてるところだから邪魔しないで》
「そ、そんな……犬みたいな格好で恥ずかしい」
そう言いながら、わたしは彼に送った写真と同じ淫らなポーズをとった。
肘を突き膝を支点に尻を持ち上げて、弓なりに背中が反り返った。
「ねぇ…後ろから見てるの?」
自ら陰唇に埋めた指がくちゅくちゅといやらしい音を立てた。
頭の中で恥辱が爆発して、後から後から言葉が溢れた。
「もっと…見て。わたしのお尻。ぬるぬるのところもちゃんと見て。広げたところ。ああ、どうしよう…。どんどん溢れちゃう…もうぐちゃぐちゃ」
「わたしだけ見て。見られるの嬉しい。見られると濡れちゃう」
「いつものように……、命令して。ね、何でもするから……」
「もう……、もう……」
《もう指入れてるんでしょ? それとも他の何か? 化粧水のガラス瓶でしたっけ? 最近のお気に入りは》
「…ちがう…。指。指だって」
《何本?》
「さ、三本……。そ、そんなこと言わせないで…何か言って」
もう、気が遠くなりそうだ。
《智美のお尻、白くて可愛い。頬擦りしたい》
「そ、それだけ?」
《力ずくで抱えて、後からめっちゃくちゃに犯したい》
「そう? よかった…。わたし……もう…」
《凄い溜まってるから…全部先生のなかに……、口とか、お尻とかに出したい》
「精液…たくさんくれるの? でも一ヶ所抜けてる」
《そう?》
わかってるくせに!
「あそこにも頂戴。いちばん普通にするところ……。奥に…、いちばん奥に頂戴。子宮に出して。あと、躰にもかけて。口にも、髪にも…顔にも欲しい……あなたの精液にまみれたい」
《そんなこといわれると出ちゃいますよ》
「出して…たくさん。頂戴。頂…」
わたしは完全に息が切れて、何度目かの頂点に達した。
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羊水の海で難破した舟のように、ひたひたと寄せる細波にくすぐられ、吸い込まれそうなまどろみにくったりと身を任せた。体重全てをベッドのスプリングに預け、弛緩した筋肉が心地良い疲労にまどろんだ。空しさは…あまり感じない。一人でするのと違って、彼と繋がっていたという感覚がわたしを満たしていた。しっとりとした甘い余韻に浸りながら、熱を持った躰がゆっくりと冷えていった。
肌寒さを感じて足元に丸まった毛布を引き上げようとしたとき、目の端がそれを捉えた。
ぼやけた焦点が思い出したかのように緩慢に像を結ぶ。
傍らの、淡い照明に照らし出された机に落ちる影が微かに揺れていた。
降りしきる雪?
何の気なしに開いたカーテンの端に目をやって小さな悲鳴が口から洩れた。
雪明りが燈した浅い夜の闇よりも暗い影が一瞬大きく動いて掻き消すように消えた。
……覗かれた?
誰? 平野?
こんなところまで来てそんなことをするのはあいつ以外に考えられない。
竦みあがった身を何とか伸ばして電灯のスイッチを消した。
吹き荒れる風を背景に金属を踏むような微かな足音が遠ざかっていった。
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喉がからからに渇いて目が醒めた。
ベージュ色のカーテンをきっちり引いた窓全体がぼんやりと光っていた。
キャビネットの時計が7:30を示して冴えた緑色に輝いていた。
ベッドから降り立って、窓際に近づいた。
もちろん、朝は確実に影と闇を拭い去り、わたしに安心と勇気をもたらした。昨夜、怖気づいた自分が滑稽にすら思えた。
カーテンを勢いよく引くと、淡い雪空の下、森を覆い尽くした白さに目がたじろいだ。
眩しい。
一瞬躊躇って、いちばん左の端、昨夜、黒い影が覗いていたはずの場所の窓を開けた。
凍りつくような空気が顔に当たって、吸い込んだ冷気が気を引き締めた。
窓の外には簡単な金属製の手摺があって一応ベランダのような形になっているが、手摺は支柱以外ほとんどすっぽ抜けでうっかりしたら落ちそうなほど頼りない。ベランダの床の部分も鈍く光る銀色の金属で、菱形に細い格子が入っているが下の階はおろか地面までが透けて見えた。窓ガラスのシールにある通り非常用の避難通路だ。左右どちらへ逃げても階段か避難器具で地上へ降りられるようになっているのだろう。
僅かばかりの金属部分に強い風に煽られて凍りついた雪がところどころこびりついていた。辺りを見回したところで平野が覗いていたという痕跡は何一つ残っていなかった。あったとしても風に飛ばされ、雪に覆われてしまっただろう。手摺に降り積もって芸術品のように端正な形に凍り付いている雪を少しだけ掻き落とし、乾いた口を湿らせた。
どこまで見られたのだろう?
改めて昨夜の痴態を反芻したが、残された記憶は蕩けるような快感だけだった。
まさか……写真を撮られたりは……? 愕然としたが、すぐにフラッシュの光があれば気付いたはずだと思い直した。あの強風と寒気の中で覗いていたら、いくら防寒着を着込んでいたとしても、さぞかし難行苦行だっただろう。
平野の馬鹿さ加減に半場呆れ、半場怒りがふつふつと湧き上がった。
もう一泊するのだ。今夜はどうするだろう? 雪はまだ降り続いているが、風は収まってきている。
窓にはちゃんと鍵が掛かるし、外から開けるためにはガラスを破らなければいけない。カーテンを完全に閉めて、照明を消してしまえば覗かれることはない。いくらなんでもわざわざ研修の場所で、それ以上のことをしようなんていう度胸はないだろう。
自分がいつも一方的に受身であることに気分がむかついた。今夜も覗きに来るなら…罠を仕掛けてやろう。覗いているところを発見されれば言い逃れはできない。わたしの廻りに、もう、まとわりつくことはできなくなるはずだ。そう、誘って、有頂天にさせて、突き落とす。頭の片隅で小さな思い付きが一気に形になって膨れ上がった。
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「ちょっと! 何? 止めてください」
いきなりのフラッシュ。
正面に携帯電話を構えた平野の大柄な影が立ち塞がった。
わたしは顔を背け、身を固くした。
「いいじゃないですか、写真くらい…。別にヌードってわけでもないのに」
眩しそうに細めた目。
ぎょっとして、直感が囁いた。――ああ、こいつは見ている、昨夜のあの痴態を。
露骨で探るような、それでいて全てお見通しのような視線が舐めるように躰を這った。
携帯電話で話しながら、セルフヌードを撮っているところを見られたとしか思えなかった。やっぱり覗かれていた。よりによって最悪の相手に。
……過ぎたことを悔やんでも仕方あるまいが……不意に底無しの憎悪が湧き上がった。
馬鹿じゃないの? 何であんたなんかに撮られなきゃいけないの? 彼だから、彼に求められたから恥ずかしい写真を撮ったのに……。
彼だけに許すことを、何でおまえに許さなきゃいけないのか? 馬鹿にするのもほどほどにして欲しい。上司だから、建前上は従ってきたが散々わたしの邪魔ばっかりして……。
許せない……。
感情の方向性が明確なかたちを取り始めると、すとんと気持ちが冷静になって頭が回り始めた。
わたしは首を傾げて、伏目がちに訴えた。
「あの……困ります…平野先生。他の先生方もいらっしゃるのに」
エレヴェーターの前にあるラウンジのソファは半分ほど埋まっていた。
椅子にふんぞり返ってホールの片隅に置かれたテレビを眺めているものもいたし、長い夜を持て余して数人で談笑している姿も見られた。
「お一つ、どうです?」
下の食堂に設置されている自販機で買ってきた缶ビールが差し出された。
わたしは遠慮なく手に取った。
効き過ぎた暖房で喉がからからだった。
平野の身体が擦り寄るように肩に触れたが、わたしは逃げなかった。
気が付かないふうを装って、冷たい液体を喉に流し込んだ。
弾ける炭酸に一瞬目的を忘れそうになり気を引き締めた。
修学旅行じゃあるまいし、10時になるとラウンジや廊下の照明が半分に落とされる。
大きく伸びをして部屋に帰る人も出始めたが、鼾が聞こえ始めたソファもあった。テレビの前に陣取って缶ビールで宴会を始めたグループもいる。
テレビはニュースの時間だ。薄暗いラウンジに見飽きた顔がひときわ輝いて見えた。
「風邪ですか?」
時々鼻を啜る音が耳障りだ。
外はマイナス10℃だろう。昨晩、どれだけ覗いていたのかはわからないが、防寒着を着込んでいたってまともな人間なら30分も持たないはずだ。
最初から、最後まで見られていたのだろうか?
改めてふつふつと怒りが湧き上がった。
くいっと一息にビールを飲み干した。
平野が食い入るように見詰めているのを視界の隅に捉えた。
「暑いですね。ここ。暖房効きすぎ」
風呂から上がって髪は纏めたまま。首筋は露出している。わたしはさり気なくブラウスのボタンを一つ外して胸元に風を送り込んだ。
ぴったりと寄り添ってきた平野がにやりと厭らしく笑った。
下は都合よくスカートに穿き替えていた。足はソックスだけ。太腿の三分の一ほどが露出していた。
「お風呂、もう行かれました?」
「ええ」
わたしは最大限のしなを作って頷いた。
「どおりで、いい匂いが漂ってきますね」
虫唾が走りそうな声色に頬が引き攣ったが、平野の下劣な思い込みには効果的に作用したようだ。ソファの背越しに腕が廻されて、生温かい体温が生地を通して伝わった。
気持ち悪い。肩に触れる手の平を避けようとわたしの躰が平野に寄った。
テレビではJ-POPの歌手が派手な笑い声を立てていた。
押されて平野の胸に倒れこみそうになるのを肩を張って抗った。もちろん力も身体の大きさも違うからわたしの拙い抵抗なんぞ続きはしない。髪が平野の頬に触れ、躰の側面が密着した。広がったブラウスの襟の奥を覗き込む視線。ブラと胸の膨らみが見えているはずだ。肩を抱いていた手の平が滑り降りて胸の側面を撫で始めた。もう片方の手がわざとらしく躊躇ってスカートの裾に這い登る。
照明は暗く、平野はいつになく大胆だ。
その太い指先が素肌に触れて、少しずつ裾を捲り上げていく。
わたしは嫌悪と屈辱に耐えていたが、その辺りが限界だった。
指先が閉じた内腿に強引に割り込もうと力を加えたとき、ニュース番組が終わりのテーマを流し始めた。近くで大きな欠伸の声が聞こえて平野が一瞬怯んだ。
わたしはその隙を逃さなかった。
「すいません。もう、部屋に戻ります。おやすみなさい」
応える間を与えずにわたしはすくっと立上り、後ろを見ずに廊下を歩き出した。
*****************************************************
部屋で乾かしていた濡れタオルで平野に触られた部分をごしごしと拭った。ほっとする間もなく、直ちに準備に取り掛かった。最初に窓の鍵が全て掛かっていることを再確認する。一応念のため。
外はしんしんと降る雪。風はおさまっていたから音がまったく聞こえない。
カーテンを右に寄せ、ベッドの側は見えるように、机の側は見えないように位置を調整した。部屋の明かりは落として机のスタンドを点す。常夜灯もあるからそれほど暗いわけではないが、これだけの明かりでは写真は撮れない、何も一から十まで見せてやることもない。
化粧ポーチを片手に窓が見えない向きにベッドに腰掛けた。
すぐに来るはずだ。着替えのシーンは逃さないだろう。
わたしはコンパクトを取り出して顔を直す振りをしながら鏡の隅に窓を捉えた。
あまりにも予想通りで拍子抜けした。これ見よがしに投げ出された餌に食いつく姿が滑稽だ。着込んでいるのだろう。ずんぐりと醜い塊が雪明りを背景に鏡の隅に浮かび上がった。
わたしは釣れた魚に焦らしながら餌を与える。できれば二度と立ち直れない境遇に突き落としてやりたい。わたしはコンパクトを開いたまま枕元に置いて、ゆっくりとスカートのボタンに手を掛けた。
彼に申し訳ない気持ちが突き上げたが、中途半端にケチっては逃げられるかもしれない。惹き付ければ惹き付けるほど効果は増すはずだ。見られている角度がわかるから、ポーズは正確にコントロールできる。
窓に背を向けてブラを外した。裸の背を晒したまま、自然に見えるようにゆっくりと尻を振った。
露骨過ぎず、控えめ過ぎず。焦らしてやろう。
最後の下着に手を掛けて尻を突き出して挑発する。
できればただ覗いているだけでなく、いちもつを取り出してしごいてくれるとなお滑稽だ。掴まったときにズボンの前が開いていれば、もう言い逃れはできない……。
……もういいだろう。わたしは何気なくカーテンの陰に入って、影が見えないように照明スタンドの向きを少し変えた。躰の陰に入るように机に置かれた電話に手を伸ばす。9-5時ならば事務室、夜間は守衛室に繋がるはずだ。迷わず番号1を押した。
《はい。守衛室です》
良かった。すぐに繋がった。
「あの…。今、本館の403号室に泊まっている松崎といいますが……」
《はい。何か? どうかされました?》
「あの、窓の外に…ベランダみたいなところに誰か…人がいて、覗かれているようなんですが……。怖いんで調べてもらえませんか」
《えぇ? 本当ですか? わかりました。すぐ行ってみますんで》
「すいません。お願いします」
ちょっと間延びした感じで頼りないが、実直そうな感じだ。しっかり役割を果たしてくれるだろう。
あとは仕上げ。守衛が雪を踏む足音から平野の気を逸らし、わたしに釘付けにしておく。ほんの5分か、10分か。
部屋の照明を点けた。眩しいばかりの明るさ。外からもさぞかしよく見えるだろうし、中からは外が見にくくなる。平野は安心して窓にへばりつくはずだ。
ごめんね……木南君。ちょっとだからいいよね……。
わたしはカーテンの陰から出て、最後の下着に手を掛けた。
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「おい! そこで何をしている!」
飛び上がりそうな太い声が闇の底から突き上がった。
文字通り跳ね上がったような金属音が窓の外で聞こえ、続いて、バタバタとものすごい音と振動が雪夜の静寂に響き渡った。窓の外を懐中電灯の楕円形の光が右に左にと交錯した。
一旦左へ逃げた足音が今度は窓の正面を通って右へ走り去った。部屋の照明をもろに浴びた影は顔を腕で覆うように隠していたけれど、見慣れた顔と体つきだ。着膨れしていてもその素性は誤魔化しようがなかった。
足音を守衛の叫ぶ声が追いかけた。
ざまぁみろ。
わたしはカーテンをぴったりと引いて、ガラスに背を向けて一人でほくそえんだ。
一呼吸置いて急いで服を身に着けて、髪を手早く整えた。
他所の部屋の扉が開き、何事かと廊下に出てきた話し声が部屋内にも伝わった。
10分、15分。
窓を開ける音が聞こえるが、守衛の声はもう聞こえなかった。
カーテンを少し開けて恐々と外を見下ろすと、雪明りを呑み込んだ黒い森がひときわ広がって見えた。廊下のざわめきはどんどん広がっていたが、誰も状況を理解できないようだ。
どうしようか迷っていると話し声が聞こえ、程なくドアをノックされた。
ドアを開けると、初老の男が息を切らせて直立していた。
すっぽりと頭まで被った防寒着が雪にまみれて真っ白だった。
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結局、平野は守衛の追跡を振り切ったらしい。
敷地裏手の森に逃げ込んで、夜の闇に紛れたそうだ。山だから雪も深く、すぐ先には急斜面もあるはずだ。崖から落ちて来春雪が解けるまで埋もれていればよいのにと思わず笑いが洩れそうになって慌てて口元を引き締めた。実直そうな守衛は、危険なので明朝もう一度捜してみるが、今夜は引き続き警戒していますので安心してお休みくださいと語った。廊下を引き揚げていく守衛の後姿に、不意に後ろめたさと申し訳ない気持ちが込み上げた。
翌朝、平野は朝食に現れなかった。
ねちっこく擦り寄ってくるいつものうっとおしい存在感がなくて拍子抜けした。
まさか、本当に雪に埋まっているのかと事後処理の煩わしさを考えあぐねたとき、同じ研修を受けている顔見知りの教師が平野の消息を教えてくれた。
どう逃げ回った挙句部屋に潜り込んだのかは知らないが、早朝、平野は真っ青な顔をして風邪で具合が悪いので病院にいくとタクシーを呼んで遁走したらしい。本当に倒れそうな顔でしたよと言われ、思わず笑いそうになったが堪えた。わたしの計画は半分成功して、半分失敗したようだが最初の逆襲にしては上出来だっただろうと思い直した。
全ての研修が終わった後、センターの事務職員に引き止められた。応接室に案内されるとしかめっ面をしてふんぞり返ったお偉いさん――課長クラスだろう――が顔を上げた。守衛が呼ばれ、昨夜の騒ぎの当事者として事情を聞かれた。
センター長は既に休暇に入っているようで、対応したのは留守を任されている人間だった。毎度お馴染みの絵に描いたような事なかれ主義に、わたしはすぐウンザリして、迫る約束の時間に気もそぞろになった。事の本質を徹底的に捨象したヒアリングは、わたしたちが日ごろ棲息している狭い世界の典型的な慣わしだった。
「覗かれたんですか…」
「はぁ」
男は聞き損ねたように首を振った。
「で、どういった状況で?」
予期しない質問だった。
もちろん、素っ裸でオナニーしていたなんて言えるわけがない。しどろもどろになって誤魔化した。
「いや、だから、その…影が見えたんです……」
「で、あんたは何?」
親の歳にあたりそうな守衛をひときわ見下した言い方に気分がささくれ立った。
見間違いではないのか? とまで言われさすがに怒りが湧いたが、それには守衛のおじさんが顔を真っ赤にして抗議してくれて溜飲が下がった。
最後に、実害が無かったことの確認と事後の処理はセンターに任せることを誓約させられて、男は「では他言無用ということで」と一言言い放って退席を促された。
ガランとした薄暗い廊下。長い直線の先の窓から差し込む午後の陽光。人の気配がすっかりなくなった建物は死んだような空気と時間が支配していた。
「捕まえられなくて、申し訳ありません」
実直な初老の守衛に深々と頭を下げられた。
わたしは犯人を知っているのに……結果的に彼を利用してしまったかたちになった。
わたしは酷く申し訳ない気持ちになった。
部屋に戻って荷物をまとめ、1階に下りた。がらんとしたガラス張りのホールから見える一面の雪景色に開放感が一気に広がった。急ぐ気持ちを落ち着かせて自販機に寄り、缶コーヒーを3本買った。熱くて手に載せられない。バッグからハンカチを取り出して缶コーヒーを包んで一つにまとめた。思い直して、ハンカチにトワレを一滴。
彼は強い匂いを好まないから、一応、一揃いは持っていてもあまり使う機会がない。先生のおっぱいの匂いとアソコの匂いが好きだからといわれれば、もちろん異存はこれっぽっちもないが、普段、人前ではそういうわけにはいかない……。
何を考えているんだろう……。
自然と思考が横滑りを始め、抱きしめた彼に乳房を押し付けて匂いを嗅がせるいつもの自分に赤面する。
振り切るように玄関のガラス戸を出ると冷たく透明な空気に身が引き締まった。
こけないようにきちんと雪掻きがされた部分を歩いて門の脇の守衛室を覗いた。
ガラスを軽く叩くとさっきの守衛が慌てたように窓を開けた。
「これ……どうぞ。寒いから……」
わたしはカウンターにコーヒー缶の包みを置いた。
「いろいろとお世話様でした」
せめてもの罪滅ぼしに、わたしは深く一礼してセンターを後にした。
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雲一つない空は完璧な青さに凍てついていた。
空気は冷たいが風はない。
溢れんばかりの光が塵のない透明な大気を貫き、白一色に染まった大地に反射し、回折する光がわたしの躰を余すところなく照らし出していた。
それなのに……。
わたしは広げた躰を隠しもせずに彼の前に全てを晒していた。
デジカメの合焦音と彼の望みに合せて、わたしは恥ずかしいポーズを変えていく。
いつの間にか、撮られている自分の痴態を想像し、加えられる愛撫を予感して、乳首は固く尖り、股間は溢れる液が滴り落ちそうに濡れていた。
いつからこんなことができるようになったのだろう?
わたしは前を隠すこともせずに立ち、足を広げてしゃがみ、尻を突き上げて這った。
触れられてもいないのに躰の奥が燃えるように熱を持ち、突き上げる快感に身を焦がした。
抱きすくめられて、彼の胸元に倒れこむ。
「先生、寒いでしょ。もう終わりにしよ」
わたしは伸び上がってキスをして、微かに首を振る。
「まだ大丈夫。もっと撮って。わたしの全部を撮って……」
平野に見られた以上の痴態を彼に見てもらわなければ…彼に申し訳が立たない……。
彼の腕がウエストを強く締め上げて、背を撫でた手の平が尻を滑り下りた。
「…もう、こんなにヌルヌルなのに?」
溢れた分泌液は堤を越えて、最初は乾いていたはずの内腿から肛門までを濡らしていた。
いつもなら、もう欲しくて堪らなくなって彼に挿入を懇願する状態だったが、レンズを通した視線で犯されているような、突き刺さるような刺激がわたしを狂わせていた。
肩幅に足を広げたまま左右の膝を合わせた。両手を膝に突くと、背中がきゅっとしなり彼の鼻先に自然に尻が突き出た。
「もっと…ヌルヌルのわたしを撮って。もっとわたしを見て。目で犯して」
なにを言っているのだろう。自分の耳が捉えた言葉の恥辱にまみれた感触に思わず唇を噛んだ。
彼の目がすっと細くなり、わたしの全てを見通したような表情にぞくぞくと躰が震えた。
「こっち向いて」
尻を突き出したポーズのまま、彼が求めるままに振り向いて、淫らな尻の持ち主の素性を晒す。
電子音が合焦を知らせ、合成されたシャッター音が無垢の雪原に吸い込まれていった。
「…わたしの……裸の写真…誰かに見せた?」
「ん? どうして?」
そんなことするわけないじゃないと言わんばかりの訝しげな顔。
「わたしじゃ…自慢にならない?」
彼の透き通るような瞳、明るい茶色に輝く虹彩に目が釘付けになって、罠に嵌めるためとはいえ平野に躰を見せたことが猛烈な後悔となって突き上げた。
彼には言えない。覗かれただなんて。それも、よりによってあんな最低な奴にオナニーを見られるなんて……。
屈辱が躰の芯を突き上げて、頭がカッと燃え上がった。
「本当は見せびらかしてやりたいけど。こんなにきれいなのに、こんなポーズして、隅から隅まで見せちゃっていいの?」
「だって……。あなたの言うことなら何でも聞く女って…思われたい」
膝の力を抜くと自然と躰が崩れ、ふわふわの雪に後ろ手を付いた。尻が雪に丸く埋もれたが冷たさは感じなかった。
「あ、こら。ダメだって…風邪引いちゃうよ」
見下ろしている彼の目の前で、わたしは膝を大きく広げた。
肌の白が雪の白に溶けて消えて、180度に開ききった足の中心に、優しい紅色の花がひときわ鮮やかに花弁を開いた。
彼の視線が突き刺さる。
「撮って……」
眩い光を全身に浴びて、わたしは精一杯の笑顔を作った。
夢中になってシャッターを切る彼の動きに合わせ、わたしは極限まで足を広げた。
隠すもの一つない花弁が震え、止めどもなく溢れるものが後から後から肌を伝い落ちていく。左手を伸ばし、二本の指でひときわ大きく陰唇を広げ、中指の腹で敏感な突起を撫でる。膝ががくがくと痙攣し、抑え切れない声が喉から洩れた。
「……これがあなたを大好きなわたし」
そう言いながらも指の動きは止まらずに、激しさを加えていく。
足の間に膝を突いた彼が淫らにのたうっているわたしの股間に顔を寄せた。
期待を込めて、わたしは指先に力を入れて、ピンクに濡れた突起を剥き出しにした。
尖った鼻がクリトリスの先端を擦り、わたしは悦びの声を上げた。
「舐めて…お願い」
わたしは彼の手先で宙に浮いたデジカメを取り上げた。
自らの指先で完全に剥きあげたクリトリスを彼の舌先が抉るように強く、なだめるように優しく舐めあげた。
陰毛の向こう側、ぱっくりと割れて剥き出しになった性器に彼の舌と唇が吸い付いて、複雑で細やかな動きを加え始めた。
湧き上がる快感と幸福感に満ちた喜びが躰の芯から広がって全身を火照らせた。
気が遠くなりそうなその情景を、わたしは彼の瞳と鼻筋に焦点を合わせ、夢中でシャッターを切り続けた。
『ルーフガーデン−12』(続く)
作成日:2008/01/04 最終更新日:2008/01/07