庭は元々は純粋に日本庭園だったのだと思う。祖父が生きていた頃はそれなりに手入れもされていたのだ。春と秋の年二回、庭師に頼んで枝払いや刈り込みはもちろん、石を置いたり生垣を作ったりと手間隙を掛けていたのだ。そんな庭も父が興味を示さなかったせいか、経済的な問題なのか、今は見る影も無くすっかり荒れ果ててしまった。盛夏は意外に花が少ない。濃い緑だけが絡みつくように猛威を奮う中で、蔵の白壁に落ちる桐の木の影とカンナの緋が眩暈を起こしそうなコントラストをつくっていた。
カンナはもともとは小学校の庭で毎年授業の中で植えていたものだったのだ。冬の直前、翌年の子供たちのために掘り返された花壇で、午後の陽に哀れに晒されていた球根。次の年にはもちろん新しい「新品」が与えられるので、放っておけば芽が出てしまうこれらは邪魔な存在なわけだ。掘り返していた教師に少し持って帰って庭にでも植えてやれといわれて、墓にでも埋葬するような気分で植え付けてから既に10年以上は経ったかもしれない。花が目につきはじめたのがいつ頃かははっきり憶えていないのだが、今や盛夏になると刺すような強烈な緋さで周囲を圧倒するまでに拡がってしまった。そして今年も百日紅が濃桃色の花弁をもたげ、蔵の際に群生しているカンナが緋色の帯のように咲き誇る日がやって来た。さすがに暑い8月の最初の日、初めて耀子を抱いた。
その朝、顔を洗って茶の間に顔を出すと耀子が一人で新聞を読んでいた。母と祖母は親戚の会合があるとかで夜まで戻らないそうだ。
「隆クンのご飯頼まれちゃったから作るけど、食べるでしょ」
「あ、あぁ」「よろしく」
「はい、新聞」といって耀子は食事の支度に取りかかった。半分頭が痺れたような妙な朝だなと思いながら、背を向けて支度をしている耀子のふっくらと盛り上がった腰と白いミニスカートから出ている形の良い足を眺めていた。サマーセータの背に下着の線が見えないのに気がついた。食後のお茶を飲みながら、耀子は両手で頬杖をついて何か言いたそうにしていたので先手を打って聞いてみた。
「今日はノーブラなの?」
「もう、目ざといんだから」「どうしてわかるのよ、もう」
「高いからひとつしか買えなかったの。今洗濯中」
と胸を隠しながらちょっと怒った素振りで口を尖らせた。
開け放たれた縁側の向こうに午前の光と影のコントラストが交錯して、暗い屋内から見ると額縁に入った一枚の絵のように見えた。暗い緑の影に鮮明な赤が燃え盛るように襲いかかっていた。テーブルの対面に座った耀子がその光景を呆れたように眺めていた。
「凄い色ね」
「なに考えてるの? 黙っちゃってさ」
緋に囚われていた視線をゆっくりと耀子に戻すとお互いにぴったりと目が合った。そのまま吸い付いてしまったかのように視線が固定される。沈黙のうちにお互いの考えていることがわかったような気がして慌てて耀子が目を逸らせた。
「蔵をみせてよ」
逃げるように耀子がいった。
そういえば今日から8月なのだ。朝から珍しくけっこう蒸し暑い日になりそうだった。今日みたいな日はこの家でいちばん涼しいかもしれないなとあちこち引っ掻き回して蔵の鍵を探しだす。この前入ったのは春の休みだったか。天井が高い二階部分をアトリエ代わりにしようと大掃除をしたのだ。探し出した鍵を持って縁側でサンダルを突っかける。庭に出ると午前の白い日差しに目が眩んだ。カンナの際で夏の庭を目を細めて見ている耀子の背後にそっと近づいて、後から抱き締めた。耳朶を軽く噛みながら腕を少しずらして手の平で乳房を掴んだ。そのまま当然のようにゆっくりと耀子の手が重ねられて、庭を見たまま視線の動かない目の睫毛の端がきれいに合わさって閉じた。

入り口の分厚い鉄の開き戸を開けると少し黴臭い臭いが漂った。今は一階部分は物置に使っていて手前半分が土間になっている。土間の部分には昔から父の一族が関わってきた地場の工務店の資材が積まれていた。奥は板敷きになっていて薄闇の中になんだかよくわからない箱がこれまた山のように積み上げられている。壁が厚いこと、窓が小さいことと、換気窓は開いているしそれなりに通風を考慮されて造られているせいかやっぱり外よりは涼しいようだ。電気を点けるとようやく視界が奥まで通った。耀子が板の間の奥に梯子段を見つけたらしい。
「上に上がれるの」と聞くので、「梯子があるからなぁ」と間抜けな答えを返した。「登ってもいい?」と言いながらもう段に足が掛かっている。
「上の方が湿気がないから居心地はいいよ」
耀子が目の前をそろりそろりと上がっていくが、2mほどのところで止まってしまった。
「どうしたの?」「埃が凄い?」
「もしかして、パンツ見えてる?」
「うん」
もちろん気づいていたさ。さっきから目は釘付だったのだから。
「ちょっと暗いけどばっちり」「ディテールまで」
耀子はそのまま何も言わず登りきってしまったので少し不安になって後に続いた。 2階は湿度が少し低かったけれど空気が澱んでいたので対面の鎧戸を開けて風を入れる。がらんとした天井の高い空間に、小さなテーブルと椅子、まだ未使用のキャンバス、本棚などが雑然と置かれている。思ったよりも埃が少なくて不快な思いはしないですみそうだった。風の通り道になっている小さな窓からは裏を流れる川と背景の山脈が見える。窓際に立った耀子が目を細めてその光景を眺めていた。髪が風で少し後に流れてシャンプーの匂いが微かに届いた。
「少しづつダムの水位が上がってきてね」
「隆クンがどんどん水を流し込むもんだから」
「……もう決壊しちゃいそうなんだ」
「ねぇ」と困ったように言って耀子が下を向いた。
「見えるのがわかっていて登ったんだよ」
「見ているのがわかってて登ったんだよ」
「あたしってはしたない女だね」
「軽蔑した?」
そういって振り返った耀子の目が潤んでいたような気がして、少し慌てた。 「そんなこと……思うわけないじゃん」 と横顔を覗きこんだが声が掠れてしまった。
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隆クンの顔が右目の端に少しだけ映った。口が何か喋ったような気がした。その瞬間、空気がすっと動いて後から抱きすくめられた。
胸と腰をものすごい力で締めつけられて一瞬呼吸ができなくなった。頭の半分が痺れて声も出ないし考えることもできなかった。「香織に顔向けができないよ」と頭のどこかで囁いている声も結局喉から出ることはなかった。振り向こうと首を回すと口を口でふさがれた。歯と歯がガツガツと音をたててぶつかる。その隙間を狙うように舌と舌が絡み合う。止めどもない流れが押し寄せてくるのがはっきりわかった。止めようがないこともすぐにわかった。セータの上から胸をわしづかみにしていた手が裾をくぐって素肌の上を這ってすぐに乳房を握られた。首まで捲くれ上げられたセータは、片手でそのまま剥ぎ取られてしまった。スカートのボタンが外されて、チャックを引き降ろされるとそのまま下に落とされた。ようやく「人が来たら困るよ」と切れ切れに声を出すことができたけれど、彼の手はパンティを下ろそうとお尻に回っていた。猛烈な恥ずかしさが襲ってきたけれど、容赦なくお尻を剥き出しにされて、両手でそのまま一気に引き降ろされた。
そのままの姿勢で首に抱きつかれていた力が弱まって、ゆっくりと彼の方を向かされた。背伸びをして彼の首に抱き着いて唇を求める。隆のシャツの裾から手を入れて背中の素肌に手を回すとキスをしたまま彼がシャツとズボンを脱ぎ捨てた。彼にしがみつくとお腹に彼のものが突き刺さるのがわかった。私の髪を掻き分けていた彼の手がゆっくりと背中や腰をさすり、唇が頬を伝い耳たぶと首筋を這う。もう目を開けていられない。乳首を口に含まれてもう片方を指先と手のひらで転がされるとあっという間に盛り上がってくるのが自分でもわかる。足を下からさすり上げながらゆっくりと降りていく唇の行き先を考えると期待と快感にもう腰が震えてしまう。ゆっくりと足を押し広げられて股間が彼の目の前に晒される。舌が割って入るともう声が止まらなかった。
「立っていられないから横にして」と しゃがみこんでしまうと、隆が脱ぎ捨てた服の上に横たえられた。休む間もなくむしゃぶりつかれるように身体のすべてを開かれて見られて触られた。これ以上は広げられないほど足を広げられて、おしりにまで舌を入れられたときは羞恥のあまり思わず悲鳴を上げてしまった。やがて彼が中に入ってきたときはっきりと刺し貫かれる形がわかった。気が狂いそうなまで求めていたものを受け入れているという満足感と突き上げるような充足感。狂ったようにむしゃぶりついたところでダムが根元から決壊した。密着する皮膚の間に汗が潤滑油のようになって滑る。二匹の白い獣のように上になり下になり、手と足が縦横無尽に絡み合い、曲線と直線が貫き包む。もう右も左も、上も下も区別がつかない。目も見えないし耳も聞こえない、息もできない。波が少しづつ大きなって身体も感覚も蕩けはじめる。何か口走ったつもりかもしれないけど悲鳴のような声が喉から抜けていった。