Lontano profondo 7-3 『峠のむこう 17』

吸い込まれるような色を目前にして隆の肩に頭を乗せていると、気が遠くなりそうな満足感が心を満たす。たぶん至福の瞬間というのはたった今のことを指すに違いない。恐ろしいまでの陶酔感に逆らうように慌てて首を振った。

「お弁当食べる?」
隆の目の焦点が一瞬遠くなる。
「弁当の前に耀ちゃん食べたいな」
意味を理解するのに僅かにタイムラグがあった。瞬間的に頭に血が上る。なんてことを言い出すのだろう。単純で明解な言葉に意識が翻弄される。
「あ、あたしは食べられないよ」
と言い返しながらももう隆のことしか見えていない。
「そんなことないさ」
「おいしくないよ」
「おいしそうだよ」
隆の手がそっと頬に触れるとくったりとからだから力が抜けてしまう。どうしてここまで無抵抗なのだろう、自分で自分が信じられなかった。

「こ、ここで?」
立ちあがった隆にゆっくりと手を引っ張られる。平らになった黒い安山岩の上に寄り添うように立ちあがる。何とか抵抗しようとするのだけれど言葉は出なかった。隆の手が前に回ってシャツのボタンを外しはじめる。どこを見ていれば良いのかわからなくて視線がさまよう。そのまま肩からシャツを落とされてしまって恥ずかしさのあまり隆に抱きつこうとすると肩を押さえられてしまった。隆の手がスカートのホックを外してチャックを降ろすと、軽い音を立ててスカートが足首まで落ちた。もう身を隠すものは何もなかった。ほぼ真上から太陽に照らされて影すらもない。水面を渡る風がお尻にあたるのがはっきりとわかった。

熱いくらいに熱せられた岩の上に横たえられて、肩口にひざまずいた隆がからだを折って額にキスをした。ものすごく不満で首を捻じ曲げて隆の唇を求める。酸欠になりそうなほどキスを続けてようやく満足すると、隆の唇は頬から耳へ、首筋へと移動し始めた。肩から腕、手と唇が動く間、片手が頬を、もう片方が腰のあたりをさすっていた。
手から戻ってきた唇が剥き出しにされた腋をくすぐって脇腹から腰へ、そのまま素通りするかのように太腿の外側へ逃げたときに堪えていたものが切れた。
「やだ、やだ」
狂ったように腕を振りまわし、捕まえた隆の手を掴んで胸に押し当てる。羞恥心などこの世に存在しないかのように自ら足を押し開いて隆の眼前に晒す。風が股間にあたって液体が周りに溢れているのが自分でもはっきりとわかった。腰を持ち上げて隆の顔に股間を押しつける。隆の口が液体をすすり、舌が敏感な部分を舐め上げたとき、喚くような声が沼を囲む森に反響した。

「背中痛いからこっちにおいで」
ゆっくりと手を引かれて躰を起こされた。目を開けると自分だけが素裸なのがわかってなおさら恥ずかしい。思わず裾から手を入れて隆のタンクトップを捲り上げる。そのまま胸に顔を押しつけるようにして隆のズボンを下ろそうとする。手が震えてボタンがなかなか外せない。タンクトップを脱ぎ捨てた隆が少し協力してくれる。ズボンと一緒に下着を引き下ろすと固く尖ったものが勢いよく顔に当たった。無我夢中で口に頬張ると脈打つように口の中一杯に広がった。両手を隆の腰に廻して根元まで呑みこむとようやく独占できたような気がして少しだけ安心した。

1

Lontano profondo 7-1 『峠のむこう 17』

「交代しようよ」
口のなかで暴れていたものが引き抜かれた。腋に手を差し込まれてぐっと引き上げられる。膝で立ち上がったまま、ゆっくりと向きを変えられてお尻を見られているのがわかった。そのまま肘を岩につかされて隆の目の前にお尻を突き出すような格好になった。膝を開かれて更にお尻を突き上げると、お尻の肉を両手で鷲掴みにされて引き寄せられた。「だめ」と口では抵抗してみせるけど、期待感に胸が震えてしまう。お尻と内腿を這いまわっていた隆の舌がだんだんからだの中心に近づいてくる。剥き出しの部分に息が拭きかけられる。
「ねぇ」「ねぇ」
溢れ出た液体の上を舌が滑ってそのままお尻の穴に差し込まれた。気が遠くなりそうな恥ずかしさで膝の震えが止まらない。口から漏れる音が恥ずかしくて慌てて指を咥えて声を殺す。ぺちゃぺちゃと音を立てながら這いまわる隆の舌の動きに合わせて思わずお尻を突き上げてしまう。いちばん敏感な部分を両手で広げて剥き出しにされて、舌先で往復されると、頭のてっぺんから足の先まで電流のような快感が流れる。もっと別の感覚が待てなくなって、向き直って隆の唇を求めてむさぼる。隆の鼻から顎にかけては私の液体でぬるぬるだった。なんだかひたすら嬉しくて目が潤んでしまった。

そのままからだを引き寄せられると、いつのまにか隆の腰にまたがるような格好になっていた。お尻が持ち上がると、隆のそそり立つものをが丁度股間に当たるのがわかった。隆が手をいれて少し位置を調整すると凹凸がぴったりと一致した。思わず隆を見て首を振る。
「そんな、恥ずかしいよ」「こんな格好で」
「やめようか?」と聞かれて首を振ってしまう。「ちょっとだけ……なら」
自分で言いながらも、もうわけがわからない。からだと頭は正反対のことを求めているのだ。隆がゆっくりと腰を押しやると先端が潜っていくのがわかった。両手で顔を覆いながら、ゆっくりと腰を沈めていくとからだの中を押し分けてくるもののかたちがわかった。根元まで呑みこむと先端が子宮にあたってのけ反ってしまう。
「ゆっくり腰を動かしてごらん」
顔を隠していた手を引き剥がされた。首を振りながらも既に腰を動かしはじめて止められないでいる自分が恥ずかしかった。最初はとまどったものの直ぐに動かし方によって様々な感覚が得られることがわかった。乳首を口に含まれたまま、ゆっくりと包み込むように腰を動かすと蕩けそうな快感が全身を駆け巡る。激しく前後に揺すると突き上げるような強い快感が走る。もう頭の中は真っ白だ。腰が下がったときに液体が立てる音と自分の喉から漏れてしまう声がリズミカルに呼応する。だんだんと動きが激しくなって恥ずかしさがつのる。大きなうねりと共に気が狂ったように腰を振ると慌てたように隆がその動きを押さえつけた。直ぐに元の動きに戻ると大きな波がやってきて抱きついた隆の背中に爪を立ててしまう。悲鳴になりそうな声を押し殺しているとようやく隆のかすれた声が聞こえた。
「そんなに動いたらだめだって」
朦朧とした意識で隆の押さえつける力に逆らって腰が動いてしまう。
「んん、どうしたらいいの」「いいよ、したいようにして」
びっくりしたような目を隆が向ける。
だって本当にどうでもよいと思ったのだ。とまらなかったのだ。隆のしたいようにして欲しかったのだ。狂ったように腰を動かしながら、からだがどんどん軽くなっていく。地に足が着いていないような浮遊感とすーっと際限なく落ちて行くような感覚が交互にやってきた。喉からわけのわからない声が絶え間なくほとばしる。隆の手が乳房を掴み上げたとき、何度目かの上昇感が頭のてっぺんではじけた。背筋が伸びきって顔が90度真上を向いた。目が閉じたまま照りつける太陽と真っ青な空を感じた。その日、生まれて初めて意識とからだが空に同化した。

かすかに目を開けると焦点の合わない隆の顔が目の前にあった。まるで自分のものではないようにからだが動かない。崩れ落ちたままの姿勢で固まってしまったみたいだ。溢れ出た汗が冷えて、背中に廻された隆の腕がそこだけ熱い棒のように存在感を主張していた。そして、このとき頭の中心を占めていたのはこの状態が未来永劫に渡って続いて欲しいという信念にも似た感情だった。今まで明日は今日より良くなるに違いないと思いながら生きてきたのに、このとき初めて、現在の状態が失われることが怖いと思った。

******************************

「あぁ〜あ、濡れちゃった」
シャツを肩に掛けようと手を伸ばしたら風にあおられて、あっという間に視界から消えた。水面を覗き込んだ隆が腕を伸ばしてすくい上げてくれた。隆は気にしていないようだったけれど、裸でお弁当を食べるというのにはもの凄く抵抗があったのでかまわず着ようとすると、
「ほら、これ貸してやるから乾くまで着てなよ」
と隆が黒いタンクトップを手渡してくれた。
「ありがとう。でも、ぶかぶか」
「腋が開き過ぎで見えちゃうよ」
どれどれ、と言いながら隆がタンクトップを少し引っ張る。はみ出した乳首を吸われるとまた頭が蕩けてしまう。
「お弁当食べるんでしょ」
慌てて隆の頭を押しやった。

クーラーボックスからビールを取り出す。気温の割にはかなり冷えている。耀子にも一缶手渡して、プルトップを引くと乾いた音が水面にこだました。染みわたるような冷たさが胃に到達した。

あっという間に空っぽになった弁当を片付けながら、このあとどうするのと聞こうとして振り向いたら、隆の姿がない。慌てて周囲を見回すと水際の岩に座って水中に足をつっこんでいる。「大丈夫なの?」と少し心配になる。
「ぬるいな」「お湯でも沸いてるのかな」
「ふ〜む」と諦めたように立ち上がると「ちょっと待っててね」と言い残してそのまま岩の上を飛び跳ねながら離れていってしまった。最初、20mほど離れたところで立ったまま背を向けている意味がわからなかった。
「ねぇ」と声を上げたとき、唐突に用を足しているのだということがわかって赤面してしまう。何もなかったかのように堂々と戻ってくる隆を見てどういう顔をしていればいいのか困った。

「ずるいよ、自分だけ」
トイレなんかあるわけないのに冷たいお茶に加えてビールまで飲んだことを一瞬後悔した。 おまけに「あたしは泳ごうかな」というと多分少し酸性だから止めたほうがいいと言うのだ。
「あたしもトイレいきたいんだけど、もしかして苛めてる?」
一応、聞いてみるとそういうつもりではないらしい。困ったけれど、でも結局、情勢には逆らえなくなってしまうのだ。
「誰も来ないよね」
「さっきも来なかったから大丈夫でしょ」
隆はいたって暢気にかまえている。
「はしたなさ過ぎだね」とうつむいていると
「しょうがないでしょ。場所が場所だしさ」「耀ちゃんをそんなふうに思ったことは一度もないよ」
そういって躊躇う私の背中を押すのだ。

「来ちゃダメだよ」といって立ち上がると隆が答えた。
「蝮に気をつけてな」
「うそ、蝮がいるの?」
「いや、水辺だし夏だからいてもおかしくないし」
思いきり決心がぐらついた。そして、考えなしにとんでもないことを言ってしまった。
「えぇ、う〜ん、じゃぁ、やっぱり一緒に来て」

「大丈夫そうなところ、探してあげるよ」
先に立って隆が岩の上を渡り始めた。置いてきぼりになるのが嫌で後を追う。10mほど離れた岩陰を選んでくれた。見廻すところには動くものはないようだが、小さな岩陰や割れ目にいたらどうしようとしゃがむことができない。周りを見廻して離れようとする隆にすがるように聞いてみる。
「行かないで」「嫌じゃなかったら」「手の届くところにいて」
隆は長さが1mほどの枯木の棒を拾って戻ってきた。
隆の腕を掴みながら腰を落とす。すぐ隣に隆が立っているので余計緊張してしまう。
「目をつぶって、耳も押さえて」「見ないでね」
と頼むと意外に素直にそうしてくれた。少しだけ安心できたけど、恥ずかしくて顔が引きつってしまうことには変わりはない。スカートを捲り上げた。耐え切れなくなったとき隆が頭を撫でてくれたので勇気をふりしぼった。

夜怖くて一人でトイレに行けない子供みたいで、少し情けない。はっと気づいて隆を見上げると目を閉じていないし耳を押さえてもいない。瞬間的に顔に血が上る。声が上ずって言葉にならないのだ。そのまま下を向いていると、がさごそと隆がティッシュを引っ張り出してくれた。「貸して」というのにそのまま隆の手が股間に押し当てられる。五歳の子供じゃあるまいし、いったい何をしているのだろうと頭が真っ白になった。

******************************

「せっかく持ってきたんだからこのまま帰るわけにはいかないか」
と思い出してカメラを取り出した。でも耀子の方に向けても、さかんに恥ずかしがってまともに撮らせてくれないのだ。胸の前でがっしり両腕を組むわ、足は窮屈にたたんでスカートで覆うわでこちんこちんに緊張している。
「写真撮ったことないのかぁ」
「撮ったことはあるけど、撮られたことはないよ」
「証明写真と親が撮ったぐらいだよ」
「あれま、かわいいのに、もったいない」
「かわいくないよ」「だって、照れるじゃない」
いっこうに協力しようなどという姿勢はみえないし、ちじこまって露骨に嫌がらせのVサインまでする始末だ。
「あたしも撮りたい」というので簡単に説明して手渡してやると、これがまたこっち向けだの、右に寄れだの煩いのだ。その上、手馴れた感じで撮りまくるのでこっちが恥ずかしくなってくる。
「あたしも持ってるし、いつも学校で現像してるもん」
それは知らなかった。
「あらま」「あそこの暗室って使っていいの?」
「焼きつけの機械もけっこういいし、カラーもできるよ。おまけにただだし」
「ただ機械が自動じゃないから、量が多いと気が狂いそうになるけど」
それも知らなかった。じゃぁ、変に遠慮しなくてもいいわけだと瞬間的に考えた。

「はい、交代、交代」とレンズに手を被せてやると、「見えないよぅ」とファインダーから目を離さない。
「一緒に撮ろうよ」「せっかく三脚も持ってきたんだから」
そういってようやくカメラを返してくれた。
「ようやく前向きな回答じゃない」
「やっぱりバックはこっちかな」
三脚をセットしてセルフタイマーをかける。滅多に使わない機能は呼び出すのが大変だ。いちいちセットするのが面倒だし、かまえた写真も嫌だから10秒後に3秒間隔で3連写にセットした。シャッターボタンを押してLEDの点滅を確認して耀子の脇に立つ。直立不動で撮っても仕方ないだろうとちょっと引き寄せてやると素直に倒れてきた。
「たくさんと撮ってもいいかな」「現像してくれる? 手伝うからさ」
「うん」といって耀子の顔がすこしあかくなった。

最初のシャッターが切れた後、ブラジャーを着けていない胸を隠していた手首を掴まれて腕を下ろされた。2度目のシャッターが切れた後、背後から抱きかかえられた。3度目のシャッターが降りたときにはしっかりキスしていた。その先はもうよく憶えていない。すぐにタンクトップを首まで捲り上げられて両の乳首を指で掴まれた。そのまま万歳するように首から引き抜かれると、何度目かにはスカートを落とされた。隠そうとする手を掴まれてからだを開かれる。写真を撮られているというだけで恥ずかしいのにそれが何倍にも増幅される。「だめっ、だめ」といいながらも抵抗の素振りも示さず、からだは隆のなすがままに扱われている。もう気が狂いそうなまでに言葉にならない声が口からあふれ出た。
結局36枚撮りのフィルムが終わる12回目には二人とも何も身に着けていなかった。入れ替えたもう一本のフィルムが終わるときには、顔から喉、胸にかけて飛び散った隆の液体を「撮って、ちゃんとわかるように撮って」と叫んでいた。

(つづく)


戻る